7 過去編
翌日は、朝から領主様に遺跡に馬車で運んでもらった。
つい数日前にソフィーが倒れた表の遺跡が見えた。
「ほんっっとに! そのドレスで遺跡の洞窟に入るのか!? 正気か!?」
コンラートはまだ文句を言ってる。
北の街の地域は寒くて、夏以外は雪が降ることがある。
今も小さな雪の欠片が落ちて来ている。
「防具屋の水着の方が、今、着ていたら正気を疑われるわよ」
コンラートは無視してもいいけど、フレデリック王太子も何かやってる。
「ああ、これは魔法を刻んでるんだ」
フレデリック王太子が、屈んで地面に手をかざして呪文を唱えると、地面の上に紋章が浮かび上がる。
紋章はスーッと地面の奥に消えていく。
「これは入り口の印で、この先もたまにこうやって紋章を刻むけど、最後に刻んだ場所と入り口がつながれて行き来できるようになるんだよ」
「ふーん、そんなことする必要あるの?」
フレデリック王太子が、「え?」と固まってる。
「本当、バカだな。あのな……」
コンラートがなんか言うけど無視よ無視!
「フレデリック様、洞窟の中に入りましょう」
私は、フレデリックの手を取って、後ろのコンラートに振り返る。
ベーっと舌を出した。
コンラートは真っ赤になって悔しそうにしてる。
洞窟の中は真っ暗だったけど、フレデリック王太子が魔法で灯りをつけてくれる。
遺跡のような石を積み上げた壁と床が見えた。
「何の遺跡なんだろうね。国が出来るずっと前からあるらしいよ」
フレデリック王太子の博識さに感心する。
「そんな事は誰でも知ってるっての!」
コンラートが張り合ってるけど、私は知らなかったわ。
バカって言いたいの?
コンラートの足を蹴っておいた。
ガサっ
物音がして、モンスターが襲って来る。
「え!? 可愛い! これモンスター?」
私はぷにぷにの可愛い子を捕まえる。
「わ! バカ、触るな!」
「……!」
コンラートが叫び、フレデリック王太子が息を呑む。
ガブっと、ぷにぷにが口を大きく開けると私の手に噛みついた。
でも、ぷにぷにしてて痛くない。
「わ! これで攻撃してるつもりなの? 可愛い」
私が撫でていると、ブスッとぷにぷにだけを狙って剣が飛んできた。
コンラートがいつの間にか私の横にいて、ぷにぷにを斬ったらしい。
ぷにぷにが、ぷにッと消えていく……。
「わあっ! ぷにたんっ!」
「名前を付けるなっ! それは、猛毒のスライムだぞ!」
コンラートが怒鳴る。
「え? 毒……?」
言われてみると、体力が減ってる。
「たくっ、毒消しなんてそんなに持って来てないぞ! こんなバカなかかり方すると思ってないからな」
コンラートの文句は無視して、毒消しの魔法を使う。
「なんだよっ! 毒消しの魔法が使えるなら早く言え!」
「これでぷにたんのこと触り放題よね?」
「それとこれとは別だ! 魔力を無駄に使うな!」
「はは……」
フレデリック王太子が乾いた笑いを浮かべてる。
そのまま奥に進むと急に下の方から、チャプっと水音が聞こえた。
灯りを照らすと、水路が張り巡らされていた。
コンラートとフレデリック王太子がしばらく周囲を調べた結果、水に入って向こうに渡るしかないと言う結論になった。
「え、私、ドレスなのに!」
「だから、ドレスはやめろって言っただろうっ!」
コンラートが怒る。
「僕が、水の中で身体が冷えない魔法をかけて、荷物も浮かせる魔法をかけるよ。あっち側に着いたら風の魔法で乾かせるし、心配しないで渡って、クララ」
「すごいわ、フレデリック様、便利!」
「はは……」
「私を荷物だと思って運んでよ、コンラート」
「それは無理なんだ、クララ。生き物は荷物にできないって、制限があるんだ」
申し訳なさそうに、フレデリック王太子が言う。
「でも、コンラートなら、私を運べるでしょう?」
コンラートに向けて、手を伸ばす。
「何の言ってんだよ! 自分で渡れ!」
と言いつつ私を抱き上げる。
フレデリック王太子の後に続く。
水路は、足までの深さだったのに段々と深くなって、コンラートの腰までになった。
「ドレスが濡れちゃう……!」
「重い……ドレスが水を吸って、重い……っ!」
「これくらいで重いって? 本当に今まで冒険して来たの? コンラート」
もう頭以外は水に浸かってしまう。
「水に浸かってドレスが浮いて軽くなった……」
「ドレスが身体に張り付いて気持ち悪い!」
私よりコンラートが快適になってるのムカつく。
私はバタバタと足を動かした。
「わぁ! 暴れるなよっ! だから、防具屋の水着みたいな防具を見ておけば良かったんだよ」
「着るか……っ!」
でも、反対側について水路から上がって、フレデリック王太子に風魔法でドレスを乾かしてもらってる間も水を吸ったドレスが重い。
まさか、本当に水着みたいな防具の利点があるなんてっ!!
「……本当に驚いたね」
フレデリック王太子も、一緒に驚いてる。
コンラートも一瞬驚いてたけど、
「まあ、俺の言うことに間違いはなかっただろう!」
と、偉そう。
絶対、違うと思う。
「ちゃんと俺に感謝するんだな」
そう言ってコンラートが私の口に軽くキスした。
「な、何するのよ!」
蹴ろうとしてもサッとコンラートは離れてるし、ドレスが重くて足が上がらない。
「そんなドレス着てるから……」
私の右手の青い光を見て、コンラートが言葉を失う。
「それが、『ドラゴンブレイカー』か……」
「待って待って、クララ、一旦落ち着こう!」
フレデリック王太子も大声で私を止める。
「とりあえず、今日は街に戻ろうか? クララは、はじめての冒険だったし、疲れたよねっ!」
フレデリック王太子が、入り口でやったように地面に印を刻んでいる。
本当に役に立つ魔法だったみたい。
「いいですけど、コイツを始末してからにしましょう」
「ちょっと待て、お前のこと運んでやっただろ!?」
だから何?
◇
僕の魔法で洞窟を出て、一度行った街に戻れる僕の転移魔法で北の街に戻って来た。
領主館の人たちは、早すぎる帰還に驚いていたが……これ以上は、僕が疲れるから限界だった。
「クララにキスできた……!」
コンラートがベッドの上で喜んでいるけど……いいんだろうか?
クララが一瞬見せた『ドラゴンブレイカー』は本物で、すごい威力がありそうだけど……あんな簡単に人に向けていいものなのか?
「クララの、ベーっって言うのも、ぷにたん呼びも可愛かったな……俺もコンラートたんって呼ばれたい!」
親友は正気を失ってるし……。
……本当に疲れた……!




