6 過去編
私、フレデリック王太子、コンラート・ランカスター公爵は、長距離転移魔法で北の街まで来ていた。
ドラゴンのいる遺跡に行く前に領主館に行く。
「長い冒険になりそうだから、拠点になる場所を借りておかないとね」
フレデリック王太子が穏やかに教えてくれる。
「長い……? 行って倒せばいいんだけじゃないの? 私はの『ドラゴンブレイカー』を当てればすぐに倒せるでしょう?」
「……えーと……」
フレデリック王太子は困ったような顔になる。
「そんな簡単に行くわけないだろう。遺跡の中がどうなってるのかも分かってないのに、まさかと思うが、お前、そのドレスで遺跡まで着いてくるつもりだったんじゃないだろうな?」
「何、こいつ、うるさい。フレデリック様と私だけでドラゴン退治はできると思うわ。こいつは必要ないと思う。ここで留守番してなさい」
私はフレデリック王太子の手を取って領主館に向かった。
「あ、留守番するなら、お前の方だろう!」
コンラートが追いかけてくる。
「これは! ソフィー様、お元気になられて良かった。この街の風邪は他の地域の人がかかると重くなる事があるので、心配しておりました」
領主が私をソフィーと間違える。
「私はクララよ。ソフィーは城でまだ寝込んでいるけど、熱も下がったからもう良くなると思うわ」
「そうでしたか。それに、王太子殿下をお迎え出来るとは……! しかし急な事でまだ二部屋しかご用意ができていないのです。明日には必ず三部屋ご用意いたしますが、今夜だけは……」
「大丈夫ですよ。遺跡の方に行っている方が長くなるはずですから、三部屋目は要りませんよ」
フレデリック王太子が穏やかに伝えるから、領主の方が恐縮していた。
「ほら、じゃあ部屋に行くぞ」
コンラートが私の荷物を持って行く。
メイドに隣あったゲストルームに案内されて、片方の部屋に私とコンラートの荷物を運び込む。
「って、ちょっと待ってよ。なんで、あなたの荷物がこっちにあるの!?」
「王太子殿下を相部屋なんかにできないだろう?」
「だからって、私があなたと相部屋になんてもっとなれないわよ!」
本当に何よ、コイツは。
私は、私の荷物に手を置いているコンラートの手を思いっきり蹴り飛ばした。
「痛いっ!!」
自分の荷物を持ってフレデリック王太子の方に行く。
「私、フレデリック様と相部屋の方がいいわ」
フレデリック様はボーっと、痛がって手を押さえてしゃがんでるコンラートの方を見てる。
「あ、……ごめん、ボーっとしてしまって。流石に、僕とコンラートが相部屋だよ。コンラート、いつも一緒の部屋だろう? まったく、ふざけてないで、行くぞ。それじゃ、クララ、また夕食の時に」
フレデリック王太子が、コンラートを引きずって隣の部屋に行く。
まだ昼を過ぎたばかりで、遺跡に行ける時間だったけど、領主が王太子の為に宴を用意してくれているというので、明日の朝に出発する事になった。
コンラートは「フレデリックは気を使いすぎる」って不満みたいだ。
私は遺跡に行ってすぐに帰ってこれると思っていたから、実は準備が足りなかった。
何日もかかるならドレスが足りないわ。
着替えと予備の二着しか持って来てない!
時間が出来たから、急いで買いに行かなくちゃ!
北の街は辺境でも特に寒さが厳しくなるところだから、変わったドレスがあるかも!
◇
領主館の部屋に入った途端、コンラートがベッドに転がっている。
「クララ……可愛すぎる……!」
……えっ!?
「コンラート、さっきクララに蹴られてなかったか?」
「……怒った顔が可愛かった……」
……分からない……コンラートの好みが分からない。
蹴られただけじゃなくて、コイツ呼ばわりされたり、酷い扱い受けてたけど……喜んでる……!?
「クララ……」
……分からない……分かりたくない……っ!
——辺境伯に、ドラゴンを倒せる魔法を使える娘だと紹介された時は、なんて綺麗で素敵な人なのかと思ったけど……。
知れば知るほど幻滅していく……。
「クララ……愛してる……」
早く結婚相手を見つけろと、ずっと一緒に言われてたコンラートがこんな風になるなんて……僕の女性を見る目が厳しすぎるのか……?
いや、でも……。
◇
「何だこれは! バカか、こんなドレスばっかり買って遺跡の探索なんて出来るか!」
コンラートが私の買って来たドレスを見て怒ってる。
「うるさいわね、服で戦うわけじゃないんだからいいでしょう!」
「……防具とか装備が大事なんだから、服で戦うだろうがっ!」
「ちゃんとこのドレスだって防寒機能があるし、むしろ防具屋で売ってた水着みたいな鎧より防御力あるわよ」
「確かに……!」
フレデリック王太子は深く納得してくれた。
「絶対に、防具屋で売ってる方が防御力が高い! 買ってくるべきだ! 俺が買う!」
「そんなの言うなら、コンラートが着なさいよ」
コンラートは放っておいて、夕食の宴に呼びに来たメイドについて外に出る。
外には私とフレデリック王太子たちの部屋が並んで、隣に同じような扉があった。
「あそこが三つ目に用意してくれるって言ってた部屋なの? 今は、誰か使っているの?」
私は何気なくメイドに聞いた。
「……あの部屋は、マティアス様がいらして使って頂いていたんです。その時にドラゴンが現れて……今もそのままにしてあるんです……」
——マティアス様が亡くなる直前までいた部屋だったの……。
……婚約者だったヘレンお姉様に知らせた方がいいかしら……。
何かお姉様に渡せる物があるかも知れない……。
私はマティアス様の部屋だった場所の扉をしばらく見つめていた。
「マティアスってドラゴンに殺された奴か……クララ、お前、そいつが好きだったのか……」
コンラートが言う。
変に鋭い……。
ヘレンお姉様がいるんだから、完全に私の片想いだったけど。
「この部屋は、しばらくこのままにしていてね。いつか、ヘレンお姉様が来るかも知れないから……」




