5 過去編
——半年前。
「ヘレンお姉様……」
婚約者のマティアス様が亡くなったと言う知らせが、辺境伯の城に届いた。
突然現われたドラゴンから北の街を守って戦い、一人の死者も怪我人も出さなかったそうだ。
流石、次期辺境伯を継ぐ方……。
ただ、ドラゴンが逃げ帰るほどの大怪我を負わせた直後に、マティアス様自身もドラゴンの爪に引き裂かれた。
報告を聞いたヘレンお姉様は泣き崩れて、城中に静かに涙する音が響いた。
「……ドラゴンなら、私の魔法で倒せるのに……!」
「クララお姉様……」
妹のソフィーが心配そうに私を見つめる。
ドラゴンは街の近くの遺跡の中に逃げ込んだらしいけど、倒しに行けるほどの者がいない。
遺跡から出てこないのなら、無駄に深追いする必要はない。
ただ、それもドラゴンの傷が治るまでの間だ——傷が治ればまた——。
「ちょっと遠くから遺跡を見て来るだけなら大丈夫でしょう?」
「だ、ダメです! 危ないわ!」
「すぐ戻って来るから大丈夫よ」
「信用できません! クララお姉様が見るだけで済むはずはないもの」
行けそうなら行って、無理そうなら帰って来るだけよ。
「私も一緒に行きます。私が一緒なら危ない事はしないでしょう?」
「どうかしら?」
ソフィーは病弱であまり外に出ることは出来ないけど、魔法の力はソフィーの方が上だもの。
ソフィーがいるからこそ、無茶してしまうかも……。
私は、こっそりとお城の長距離の転移魔法の部屋に行く。
「ドラゴンが出た北の街まで、二人分お願い」
辺境から国の別の場所に移動するのは大変だから、長距離の転移魔法専用の部屋がある。
王都でも専用のお店は少ないらしい。
移動距離によって詠唱時間は変わって、同じ辺境の北の街ならすぐに終わる。
終わった頃を見計らって、私はソフィーを連れて来る。
「ソフィー様!」
転移魔法の担当者はソフィーが二人目の転移希望者だと知って驚いた。
多分、私が護衛のお供を連れて来るんだと思ったのだろう。
「私なら大丈夫です。クララお姉様だけで行かせる方が心配よ」
クララ自身に言われたのと、もう転移魔法を用意していた事から、担当者は渋々転移魔法を実行した。
北の街ではすぐに馬車で遺跡まで連れて行ってくれる人を雇って、遺跡に向かう。
街を囲む外壁一部壊れていて、亡くなった人や怪我人だいないなんて奇跡だと思った。
——マティアス様……。
ヘレンお姉様の前では泣けなかったけど、自然に涙が出て溢れた。
ソフィーがそんな私に抱きついて、一緒に泣いてくれた。
遺跡に着くと、柱だけが残った大きな建物が見える。
その先には洞窟があって中は表の遺跡の何倍もの広さがあるらしい。
「洞窟の中に入らないとドラゴンが見えないわ」
「む、無理よ、クララお姉様」
私たちは馬車から降りて、表の遺跡に立って話をしていた。
まだ行けそうだけど……。
ふっと私の横にあった人影が消える。
ソフィーが倒れていた。
「ソフィー!?」
私は馬車にいる雇った人に、ソフィーを馬車まで運んでもらう。
熱がすごい。
北の街に戻り、この街の領主に辺境伯の次女と三女だと言う事を明かして、ソフィーに良いベッドと医者を呼んでもらう。
医者はこの地域に特有の風邪だと言い、薬をくれた。
辺境の城にも連絡がいって、ソフィーの事は安心んできたけど……。
私はこっぴどく怒られて、半年間の外出禁止になる。
私がいないのにドラゴン退治なんてできるの!?
ただ、外出禁止は一ヶ月で解かれることになった。
ドラゴン退治にやって来た、フレデリック王太子と、コンラート・ランカスター公爵のお供をしろと、父の辺境伯からの命令だった。
呼ばれて行った先に、二人の見目麗しい男性が立っていた。




