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離婚届を置いて出て行ったら、元夫が毎日訪ねてきます  作者: 唯崎りいち


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「クララ、早く離婚届の破棄に同意するんだ!」


 夫コンラート・ランカスターが応接室で大声で怒鳴っている。


 様子から離婚は成立していないけど、もうそろそろ成立する時間なんだろう。


 王都からこの辺境まで、馬で3日かかる。

 もっと早い飛竜便でもほぼ丸一日はかかるから、時間が残っていても後一時間もないだろう。


「嫌です。あなたが離婚が成立すると慌ててると言うことは、離婚事由は事実なのでしょう? 愛人が複数人いる夫なんていりません」


 魔法のかかった離婚届が成立する条件は、実は二つある。


 一つは、配偶者が届けを確認してから24時間以内に離婚届の破棄が行われない事。


 もう一つは、離婚事由が間違っていない事。


 私が書いた離婚事由は、『夫が複数の女性の家を渡り歩いて、妻のいる家に殆ど帰って来ない』と言うものだ。


「その『複数の女性の家を渡り歩いて』と言うのは、愛人の家だと限定してるわけじゃないんだ。仕事で女性のいる家に立ち寄っただけでも、離婚事由になってしまうだろう!

 普通はこんなモノ離婚事由に書けない! どうせ怪しい魔法屋に頼んだ離婚届だろう! 正式な魔法公正証書を発行する場所じゃ、こんな事由は認められない」


「正式な場所よ」


 離婚事由についての拡大解釈オプションはかなり取られたけど。


 パアッと離婚届が光った。


「あ、離婚が成立したみたい」


 成立の文字が離婚届に浮かび上がった。


 こんな風になるんだ……でも、やっぱり私自身に知らされる訳じゃないし、オプションはあった方がよかったか。


 コンラートが来てくれて良かったわ。


「バカ女……早くお前が破棄しないから、離婚が成立しちまっただろう……」


 そのコンラートは、その場でガクッと落ち込んでいた——と思ったのに。


「クララ!」


 コンラートが私を抱き寄せると、右手で私の身体を支えて、左手で私の両手を掴んで抵抗できないように抑えた。


 私の唇にコンラートの唇が重なって、息ができない!


 コンラートに膝に乗せられて手は動かせないけど、足だけバタバタと動かす。


「ずっと、お前だけを愛してるって言っただろう」


 唇を離したコンラートが真剣な瞳で私を見つめる——私は、


 ガンッ!


 コンラートの顔に思いっきり頭突きした。


「痛いっ!!」


 私は、コンラートが手で顔を押さえた隙に、コンラートの膝の上から脱出した。


「離婚成立した直後に、キスするなんて何考えてるの!? 私とあなたは、赤の他人になったんだから!!」


 コンラートは血がついてないか、顔を押さえていた手のひらを見て、私に向き直る。


「離婚は成立してない! あんなふざけた離婚事由があるか! 城に意義を申し立てる!」


 コンラートは公爵らしく威厳がある様子で言う。


 鼻血、気にしてたくせに。


 私も、意義が申し立てられたら、離婚事由はちょっと弱い気がしてる。


「あ……ダメか……アイツが無茶でも成立してるって言い張る……」


 コンラートが目を逸らして小さく呟いた。


 ん? 何?


「愛人じゃなくて、お前に関わるもっと大事な用があったんだよ!」


「は? 私に関わる大事な用で、女の家を転々と渡り歩いて帰って来ないなんて意味がわかんない」


「それは……」


 リーンゴーン


 辺境の地に夜の訪れを知らせる鐘が鳴った


「くそっ! もうこんな時間か、俺は帰るけど、すぐまた来るからな! 俺がお前より別のものを優先したことなんてなかっただろう!?」


「あるわよ、今とか」


「は? なんだよそれ!?」


「さっき、鼻血が出てないか確認してから、私に言い訳したじゃない! 自分の事の方が優先じゃない!」


「いや、それ、無茶苦茶だろう、痛いもん!?」


「痛いくらいで、私が見えなくなるなんて、愛人優先になるわけよね」


「関係ないだろう! 常に自分を優先しろってお姫様か!?」


「お姫様だけど」


 辺境伯はほぼ独立国で、人口も少なく貴重な年頃の五人姉妹でチヤホヤされて育ってるんだから、王都のお姫様なんかよりよっぽどお姫様扱いされてる。


「とにかく、帰ったらまたすぐ来る」


「来てどうするのよ、私の新しい恋人でも見に来るわけ?」


「恋人って? 愛人がいたのはお前の方か!?」


「これから作るのよ、姉妹で夜会に行くの」


「なんだ、お前みたいな女に、俺以外の恋人が出来るわけないだろう!」


「あ゛? 出来るわよ、明日にでも夜会に行くから、楽しみにしてなさいよ」


 本当にすぐ戻って来ても、飛竜便の往復なら丸2日かかる。



「コンラート様、一番早く王都に戻る方法をご所望されていたので、長距離の転移魔法の準備が終わりました」


「長距離の転移……」


 執事の言葉にコンラートが言葉を失う。


「そうか、その手があったのか! 昨日思いついてれば、すぐ来れたのに!」


 転移魔法に思い至らなかった自分を責めてるけど、


「早く来たところで、私は離婚届の破棄になんて同意しなかったわよ」


「それは理由を聞いてからだろ。ああ! 説明できてれば……いや、出来ないか……」


 言いながらコンラートは消えた。


 よっぽど急いでるらしい。


 何よ? せっかく会えたのにすぐ帰って。


 もう離婚が成立しちゃったじゃない。


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