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「……フレデリック様、助けていただき、ありがとうございます……」
クララがきらめく涙を瞳に浮かべて僕を見ている。
これは……。
「クララは……俺の可愛い『暴れ馬』だったクララは……夢の中に最後の一匹の夢魔が入って来て、『呪い』が解けて消滅してしまった……」
コンラートが悲痛な声を絞り出す。
「……それじゃ……彼女は、本物のクララ……っ」
僕を見つめる潤んだ瞳が綺麗で……可愛くて守ってあげたくなる……僕が好きになったクララだ——。
ポロッと涙が溢れた。
「……っ! フ、フレデリック様——っ!」
僕の涙にクララが身体をピクッと震わせた。
「あ、ごめん……。君が助かって、僕は本当に嬉しいんだ……でも、消えてしまった『暴れ馬』のクララも嫌いじゃなかったから……」
クララは驚いたように目を見開く。
「本当にごめん、もう彼女のことは忘れるよ。君にとっては、自分を消そうとした存在でいい感情を持っているはずないものね。僕はこれから、君だけをずっと愛して——」
「待て、フレデリック。お前は、何か勘違いしている」
コンラートが僕とクララの間に割って入る。
「クララは本物に戻ったかもしれないが、本物のクララがお前を好きだとは限らないだろう?」
「は……?」
……言われてみればそうだけど……。
「フレデリック様が私を助けてくれた事には、深く感謝しております……けれど……」
クララの右手が不穏な動きをする。
僕とクララの間に立っていたコンラートに、クララの右手が伸びて——っ!
「私、コンラート様のことが、好きなんです……」
クララが、コンラートの腕に右手を回した。
クララはコンラートを見つめて、コンラートもクララを見つめている……。
まさか……そん……な……。
「——う、嘘だ……っ! クララが……本物のクララが……コンラートを好きになるはず……!」
僕が叫ぶと、クララがきらめく瞳をむけてくる。
「……『呪い』のクララの時も私の意識はあったんです……。コンラート様は『呪い』のクララを本気で愛していたから、そんな風に愛されたいと思ったんです……」
頬を赤くして、またコンラートを見つめているクララ。
僕だって……君の事を本気で……愛して……。
クララをコンラートも見つめて頬を赤らめていた……気持ち悪っ!
「……って、コンラート! 君は、本物のクララの事を、『気持ち悪っ!?』って言ってなかったか……!?」
「ああ、言ったけど、このクララは俺を好きだから、『暴れ馬』になってくれるって言うんだ」
「……え?」
僕はクララを見た。
「はいっ! 私、コンラート様のことが大好きだから、コンラート様に好きになってもらえる、立派な『暴れ馬』になれるように頑張りますっ!」
あ、なんて健気なんだ……って、それでなりたいのが『暴れ馬』って……!
僕は、愛する女性を助けたのに、本当は、永遠に失う手助けをしただけなのか——。
クララは、コンラートを見つめて、幸せそうに微笑んで……。
ガクッと身体の力が抜けた。
完全に僕の負けだ、コンラート……。
クララが、それほどに君を好きだと言うなら……僕が諦めるしかないだろう……。
「フレデリック、離婚届の無効申請をしたい。直ぐに出来るか?」
膝をついて気力の抜けた僕に、コンラートが容赦なく要求を突きつけてくる。
見上げるとコンラートにピッタリくっついたクララも僕を心配そうに見つめている。
——少しだけでも、僕自身を心配してくれているならいいのに……。
「……すぐに離婚届を無効にするように伝えよう」
パァッとコンラートとクララの顔が明るくなる。
見つめあって抱き合う二人に、僕の心はまた深く傷つけられる。
「待つ間、ちょうどベッドもあるし休憩して行くか、クララ」
ん? 僕の部屋だからベッドはあるけど……きゅ、休憩!?
な、なんで、振られたばかりの僕の部屋で!?
クララもあまりのことに驚いている。
コンラートは気にせずクララをベッドの方に追い詰めているが……。
ここではやめろって止めるか? 振られて二度と手に入らないクララ……せめて見てみたい気も……——。
コンラートによってクララがベッドに押し倒され——、
「いい加減にしろ! 流石にふざけすぎ」
ドカッ
クララの蹴りがコンラートの横っ腹から入って、コンラートが吹っ飛んで倒れた。
「ん……? クララ……」
もう既に『暴れ馬』の片鱗を見せてる……じゃなくてっ!?
「君は『暴れ馬』の方のクララか——っ!」
『暴れ馬』がゆっくり頭を上げて僕を見る。
「誰が、『呪い』の『暴れ馬』ですって? 私は、正真正銘の辺境伯の次女のクララ・ベネットよ!」
鋭く声が響く。
「あれ……辺境伯の次女……って? お姉さんが双子だから、三女じゃ……」
「双子なのは私と妹のソフィーよ」
え? クララが双子……。
「フレデリック……私を消滅させるつもりだったの……?」
クララの声が怖い。
「……す、すみませんでした」
でも、『呪い』じゃないなら消滅はしないけど……!
◇
私はフレデリックとコンラートを正座させて、説教した。
「俺はお前のこと消滅させようなんてしてないだろう!?」
「うるさいっ! 『暴れ馬』とか言ってる奴は全員敵よ!」
でも、フレデリックは私が消滅したと思って泣いていたし……本当に悩んでいたんだ。
「……まさか、ヘレンが双子じゃないなんって……詐欺だ……」
フレデリックは真相を知ってコンラートと同じ事を言っている。
やっぱり、親友なのね。
「ソフィーに会いたい? フレデリック……?」
フレデリックが私を見上げる。
「あ、会わせてくれるのか、クララ!?」
「ソフィーもフレデリックに会いたがってる気がするの。私も会えてないから分からないけど」
ソフィーがフレデリックに会っていたなら、私にフレデリックが求婚したことにショックを受けて引きこもっているんだと思う。
でも、それだけじゃないはずで——。
「ソフィーを怖がらせないでね、フレデリック」
「君と間違えなければ大丈夫だ」
「ん? ソフィーに会いたくなかったの!」
フレデリックはしまったという顔をする。
「す、すみません……!」
転移魔法の使えるフレデリックに辺境の城まで連れて行ってもらう。
「ちょっと待て! まだ、俺とクララの離婚届が無効化されてない」
「ああ、そうだな」
フレデリックがコンラートの方に向き直るが、
「無効化はしなくていいわよ、あなたを騙すためのお芝居だっただけで、無効化するつもりは最初からないもの」
「あ?」
コンラートが驚いている。




