14
「は? 私、呪われてなんていなけど?」
私、クララは、辺境伯の城の庭で三人の姉妹と、元夫のコンラートの話を聞いていた。
コンラートが何故、『複数の女性の家を渡り歩いて、妻のいる家に殆ど帰って来なかった』のか、理由を話してくれたけど、意味が分からなかった。
なんで私が呪われてる事になってるの?
私が『呪い』そのものの『暴れ馬』って、なによ、それは!
「……コンラート様とフレデリック王太子殿下が見た、その宴の夜のクララそっくりなお淑やかな子って、ソフィーよね?」
ヘレンお姉様が言う。
「うん、ソフィーお姉様よね?」
ジュリアとマルタの妹たちも同意する。
「ん? ソフィー?」
コンラートが首を傾げた。
「ソフィーはクララの双子の妹なのよ」
ヘレンお姉様がコンラートに説明する。
「ん? そんなわけないだろう? だって、君たちは双子一組を含む五人姉妹なんだろう?」
……ん?
「だから、クララとソフィーが双子でしょう?」
「そしたら、双子は二組になるだろう!? 長女のヘレンも双子なんだから!」
コンラートが変な事を言う。
「ヘレンお姉様は双子じゃないけど……?」
「……ああ? だって、マティアスの剣を受け取った時に、ヘレンと全く同じ背格好の女性がいただろう!? 昨日の夜会の準備をしてる時だって、ヘレンと同じ背格好の女性がいたのに、双子じゃないって!?」
あー……それって……
ヘレンお姉様がメイドを手招きで呼び寄せた。
二人で並んで立つ。
「……え……メイド……」
コンラートが唖然と二人を見つめる。
メイドとヘレンお姉様は背格好が同じで髪の色も同じだった。
顔と髪質は全然違うから並んで顔を比べたら双子に間違える人は居ないけど……似たドレスを着て少し離れてどちらかが後ろ姿だったら、まあ、双子に見えるかもしれな。
あれは夜会に行く前に、ヘレンお姉様がメイドに自分のドレスを着せて、小物や髪型、メイクを合わせて、最高の組み合わせを吟味していたのだ。
婚約者で次期辺境伯候補だったマティアス様を失ったヘレンお姉様にとっても、メイドや辺境に住む者たちにとっても切実な事だったんだけど……。
「……さ、詐欺だ……」
「まさか、双子だと思われるなんて思ってもみなかったわ」
「……ヘレンお嬢様と双子に間違われるなんて……光栄です……っ!」
メイドは喜びに震えていた。
コンラートもプルプルと震えている。
三ヶ月間もフレデリックに振り回されていたんだもの、怒りで身体が震え出してもおかしくないわね。
「ぷぷっ……くくくっ!」
って笑いを堪えてたようだ。
「……クララっ! ぷっ……呪われてないのに、ぷぷ……そ、その性格だったのか……っ! フレデリックを勘違いさせて……くく……王都のお偉いさんに……『暴れ馬』って呼ばれて……あははは!!」
ああ? そんな私が好きだって言ったのは、あなたでしょう、コンラート!
「最高だ! クララっ!!」
ひとしきり笑った後に、コンラートが私を抱きしめた。
『ドラゴンブレイカー』
私は超至近距離で、ドラゴンを倒した青い光をコンラートに叩きつけた。
「うわぁ!」
コンラートが、姉妹でお茶していたテーブルとは逆方向に吹っ飛んだ。
手加減したから、痛い程度の威力だけど……。
「……っ……うぐっ!」
コンラートは声も上げられずに、うずくまってる。
「あー……」
「……そういうことするからよ……」
姉妹たちにも呆れられたけど、かなり酷いこと言われてなかった? 私。
「フレデリックなんて、私が消滅してもいいなんて……!」
「まあ、壮大な勘違いだったんだし……」
「ソフィーが風邪を引いちゃってって部屋にこもってたから……」
「ソフィーが風邪を引いたのは、私が北の街に連れ出したからだけど……」
「ドラゴンがフレデリック殿下にだけ伝えた『呪い』についての言葉も気になるわね……」
「ドラゴンも何のことかハッキリ言ってくれないと、悪いことがあるたびに「これが呪い!?」ってなっちゃうよね!」
「私は、悪いことじゃないわよ?」
「フレデリック殿下には、一目惚れした女の子が理想と違ったって相当のショックだったのよ」
「今のクララは『呪い』で本当のクララがいるって思い込みたいくらいに」
……むっ!
「どうでもいいけど、フレデリックも酷すぎる! 『ドラゴンブレイカー』を当ててやるーっ!!」
「王太子には流石にやめてね、クララ」
「公爵様だって、ダメでしょう?」
「コンラート様は喜んでるから……」
そのコンラートは、やっと痛みから回復して立ち上がっていた。
「クララ、フレデリックに物理攻撃はさすがまずい……でも?『ドラゴンブレイカー』よりもっと痛い事がある……!」
コンラートはニヤッと悪い笑みを浮かべてる。
「もっと痛い事?」
って、私の『ドラゴンブレイカー』がコンラートにはそこまで効いてないの?
じゃ、もっと威力を上げて……右手に青い光が現れる。
「ちょ、やめろ! クララっ!!」
◇
コンラートを呼び出して、僕の部屋で今の暴力的なクララが『呪い』であり、本物のクララを取り戻す為に、僕が夢魔と契約したことを伝えてから三ヶ月だ。
コンラートはよくやっていて、五匹の夢魔が一匹にまで減っている。
まあ、また契約するだけだから、コンラートの苦労は報われることはないんだけど。
……今すぐに夢魔を追加してもいいのに、やらないのは何故なんだろうか……。
やっぱり、いくら暴力的過ぎるからって一緒に冒険したし、見た目は凄く好きな子だから……消えては欲しくない。
——もし、別人だったなら、二人が別々に一緒にいてくれるなら、どれだけ嬉しかっただろう。
でも、彼女たちは一つの身体を共有してる『本物」と『呪い』だ。
だから、僕は『本物』を選んで、絶対に僕の妻にする——。
「王太子殿下、コンラート様がお見えです」
侍従が知らせにくる。
「コンラートが……?」
この三ヶ月は夢魔を追うのに忙しくて、会いに来る暇もなかったはずなのに……。
しかも、『呪い』のクララに離婚されて、毎日辺境に会いに行っているらしいから、僕に会いに来る暇なんてないはずだ。
離婚の取り消しを願いに来たのか?
僕が、そんなものを叶えるはずないのは知ってるはずだけど……。
「通してくれ」
とりあえず会うしかないか。
「コンラート様と、もう一人の女性も通してよろしいですか?」
……え? 女性……?




