13 過去編
辺境にドラゴンが現れて次期辺境伯候補だったマティアスが殺された。
とても強く非の打ち所がないと評判の人物だったから驚いた。
マティアスを失って、辺境ではみんな戦意を削がれていた。
それで、冒険の実績のある俺と王太子のフレデリックがドラゴン退治に行くように言われた。
実績があるとはいえドラゴンは倒せるか怪しかったが、凄腕の魔法使いがいるというので期待する事にした。
そして、辺境伯に紹介されたのがクララだった。
美しく可愛い容姿で守ってあげたくなる女の子で、王太子のフレデリックが一目で恋に落ちたのが分かった——。
そして、ガラガラと現実に恋心が砕け散る様子も、すぐ横で見ていた。
クララは見た目に反してとんでもない女だった。
わがままでドレスで遺跡に入るし、すぐ蹴るし、『ドラゴンブレイカー』は人に向けるし!
クララは、俺の理想の女性だった。
この誰にも制御できない感じ……なんて言うんだっけ?
冒険の直前にピッタリな言葉を聞いた気がするのに、冒険中の何度も言葉が出かかったが思い出せなかった。
フレデリックが俺とクララの結婚を妨害しようと王宮に使者を繰り続けて、返事が返って来た時、やっとこの言葉が目の前に現れた。
さすがに王宮のジジイどもも歳だけは食ってるだけあった。
『暴れ馬』
まさにクララを表す言葉だった!
——けれど、気になるのはあの話だった。
冒険に出た最初の日に、俺たち二人とクララで泊まった領主館で開かれた宴——。
この地に伝わり伝承を話してくれた男がいた。
それは、ドラゴンを退治した男の娘が呪いにかかる話だった。
男は、村を襲ったドラゴンを退治したが、ドラゴンは死ぬ間際に呪いをかけた。
男の娘が、昼は馬、夜は人間になってしまう呪いだった。
娘は、太陽の光を浴びると馬になり、月を見ると人間に戻れる。
美しかった娘は、昼は完全に馬になり自我を失って暴れ回った。
娘は、日没とともに人間に戻ると昼間の自分を恥じて泣き続けたと言う。
美しかった娘には恋人がいたが、昼間の暴れ馬の彼女を見捨てて別の女と結婚してしまう。
暴れ馬に手を焼いた村人たちは、ドラゴンを倒した英雄の娘という事で娶る栄誉を宣伝したが……。
娘に憧れていた村の男たちも暴れ馬の娘に幻滅して、結婚させられては大変だと次々と結婚してしまう。
こうして、この村には独身の男はいなくなった——。
「この話になんの教訓が……?」
フレデリックが困惑していた。
「伝承なんてそんなものだろう。だけど、俺は絶対に暴れ馬がいい!」
「馬だぞ!?」
フレデリックに突っ込まれつつ、俺は地元の女性とこの地のドレスのデザインの話しているクララをチラチラと見ていた。
「クララは人間だ!!」
フレデリックがまた突っ込みを入れた。
こうして楽しい宴の夜は過ぎていった。
この夜は酒が入っていたので、記憶が曖昧になっていたが……。
——ドラゴンを退治した後に辺境伯の城で開かれた宴で、クララに会った。
俺の知ってるクララとは違う、涙を流すお淑やかな女性——気持ち悪っ!?
俺は、次の日に会ったクララを押し倒した。
速攻で蹴られて、これが俺のクララだと思った。
じゃあ、昨夜の女性は——。
この時に、ふと領主館の宴で聞いた伝承のことが思い出された。
昼は馬、夜は人間になってしまう呪われた美しい娘——。
例え、それが呪いでも俺はこの『暴れ馬』のクララが好きなんだ。
結婚する事になんの迷いも無かった。
——クララと結婚して王都の公爵家に戻って来た。
すぐにフレデリックからの呼び出しがあった。
辺境伯のところでは、フレデリックがクララに求婚してからはなかなか話す機会が持てなかった。
きちんと話すいい機会だと思った。
「フレデリックのところに行くの? 私が来て最初の日なのに!」
クララの言う通りだと思ったが、
「今行かないと、しばらくはベッドから出られなくなるからな」
キスした後のクララは暴れ馬じゃなかった。
「絶対に早く帰って来てよ」
心配そうに俺を見つめる姿はしおらしく、でも、俺も嫌いじゃない。
もう、俺は彼女が本当に大好きで、どんな風になっても変わらず大好きなんだ。
それまでも嘘で言っていたわけじゃないが、気持ちばかり先行していた『愛してる』って言葉が、腑に落ちた。
俺はこのクララを愛してる——。
「クララは呪われている——!」
フレデリックの話は意外でもなんでもなかった。
辺境伯の城の宴で見たクララの様子、領主館で聞いた伝承……合わせたら同じ結論になるだろう。
ただ、俺は呪われた『暴れ馬』のクララが好きで、フレデリックは違う。
それだけだ——。
そして、フレデリックにドラゴンが死ぬ間際に残した言葉——。
『——これで、呪いは永遠になる——!』
俺にとっては朗報だった!
「クララはずっと呪われた『暴れ馬』のままなのか……っ!」
俺が喜んでいると、フレデリックが不適に笑う。
「一人の女性が呪いのせいで苦しんでいるんだ。そのままにはしておけない」
「だって、ドラゴンが『呪いは永遠だ』って言ったんだろう?」
「そのまま受け入れられない、彼女は僕が助ける」
フレデリックが真剣な目を俺に向ける。
「……それが、コンラートから妻を奪う事になっても僕はやる。君のクララは『呪い』で、存在してはいけないモノなんだ——」
「……っ!」
きっと、それが普通の結論なんだろう……伝承で誰も引取り手がいなかったあの娘のように、どうなったのかも分からずにただ消えていくだけの存在……。
でも、あのクララが俺にとっての唯一の女性なんだ。
「夢魔を召喚したんだ——」
フレデリックが言う。
「夢の中を自由に行き来する彼らに頼めば、『呪い』のクララの中にいる本当のクララの事も見つけてくれる。そして、呪いを解く方法も……」
「……夢魔って、サキュバス……クララの夢に入る男型ならインキュバスか!」
「そうだ。女性の夢を伝って、クララの夢に辿り着いた時に、呪いは解けて、『呪い』の彼女は消滅する——」
「——ダメだっ! クララが消えるなんて……!!」
俺が叫んだ。
「……違う。本物のクララが今、消えているんだ」
「……っ!」
フレデリックの目は真剣だった。
「どこだ!? 夢魔は今は何処にいる!? ここまで話したって事は、俺が夢魔を止める事も考えているんだろう!?」
「止められないことを考えていたんだ……」
フレデリックはそう言うと、昨日放った夢魔の予想の行き先を教えてくれた。
契約した夢魔は五匹らしい。
俺はその場所に向けて走った。
夢の間を行き来する夢魔はどこに行くか分からないが、近くの女性の夢の中を移動するはずだ。
侯爵令嬢? 次は、伯爵令嬢?
とにかく、彼女たちの夢に入れて貰って、フレデリックと契約した夢魔がクララの夢にたどり着く前に倒す!
俺が愛するクララを誰も守ってくれないなら、俺が絶対に守る——!!




