10 過去編
私の『ドラゴンブレイカー』がドラゴンに当たって、ドラゴンはあっけなく討伐された。
もうドラゴンの姿は跡形もなくなっていた。
「どお? コンラート、これならマティアス様もイチコロだったでしょ!?」
「すげー……」
コンラートはうなずいている。
「なんの話……?」
フレデリック王太子だけが困惑している、
私は、さっき見つけたマティアス様の剣のことと血の跡の事を話した。
「いや、それでもクララの『ドラゴンブレイカー』でマティアスがイチコロにされるって話にはつながらないけど……」
フレデリック王太子が脱出用の紋章を出口と結んで、ドラゴンを倒した私たちは脱出する。
そのまま一度行った事のある私の家——辺境伯城へフレデリック王太子が転移魔法で連れて行ってくれる。
「まさか、三日で倒して帰って来るとは……!」
私と、フレデリック王太子、コンラート・ランカスター公爵を前に、お父様の辺境伯が驚いている。
正確に言うと、遺跡にいたのは二日だったけど。
「お父様! それより、これを見てください! マティアス様の剣が遺跡にあったんです!」
私がマティアス様の剣を差し出すと、お父様は驚いていた。
「これが……遺跡にあったと言うんだな……。では、マティアスはあの場所に……」
お父様の瞳が涙に揺れていた。
マティアス様は亡くなったと言われているけど、実は遺体が見つかっていないのだと言う。
北の街を守ったマティアス様に負傷させられたドラゴンは、逃げる時にマティアス様を爪で引き裂き、そのまま連れ去ったらしい。
マティアス様が抵抗する事なく、ぐったりして連れ去らてから数日後、死亡したとしてヘレンお姉様に報告された。
今回、遺跡の谷底で剣が見つかったのは、ドラゴンに連れ去られて、使っていなかった剣がマティアス様の腰の鞘から抜け落ちたのだろう。
血痕もマティアス様のもので、遺体はそのま、ドラゴンの住処の奥に置かれているのかもしれない……。
……私はヘレンお姉様に剣を届けることにした。
ヘレンお姉様は陽光の差し込む広場で背丈が自分と同じメイドに自分のドレスを着せていた。
「このドレスなら、こっちのネックレスよね。それともネックレスよりイヤリングを目立たせた方がいい?」
「そうですね……。ヘレン様ならイヤリングで美しいお顔を引き立てた方が良いかと、存じます」
「……やっぱり、そう思う?」
……ヘレンお姉様は何をしているのかしら?
「マティアス様がいないんですもの、私がしっかりマティアス様の代わりになってくれる男性を捕まえないと!」
「その息です! ヘレン様!」
楽しそうだけど、切実な用件だったみたい。
——楽しそうだけど。
ヘレンお姉様とメイドが無理に明るく振る舞っているのが分かる。
マティアス様が亡くなった現実を少しづつ受け入れようとしている……そんな時に、こんな物を渡すなんて……。
私は胸が痛んだけど、マティアス様もお姉様に持っていて貰いたいと思っているはず——。
ヘレンお姉様はその場で泣き崩れ、メイドも泣き出した——。
◇
マティアスの剣を受け取ったクララの姉のヘレンが泣き崩れるのが見えた。
僕とコンラートは、中庭を挟んで反対側の部屋にいた。
ここにも微かなすすり泣きが聞こえて来る。
僕は辛くなって違う話題をコンラートに振る。
「ドラゴンは討伐したし、僕たちは王都に帰らなければいけないけど、クララのことはどうするんだ? あんな事をして、何もなかった事には出来ないぞ」
「ん? 当然、王都に連れて帰るが?」
当然って……。
「辺境伯の許しも貰ってないのに!」
「いやー、俺以外にアイツを好きになるやつなんていないし、厄介払いができて喜ばれるんじゃないか? もしくは、「この娘でいいのか!? 早まるな!!」って、本気で止められるか」
うーん、想像できてしまう……。
とりあえず、今夜はドラゴン退治完了の宴を開いてくれるそうだから、ヘレンには悪いけど楽しもうか……。
……ドラゴンが残した言葉も気になるけど……。
どう言う意味なのか……。
『——これで、呪いは永遠になる——!』
死ぬ直前のドラゴンが、僕だけに送って来た言葉——。
——宴の途中、僕は外に出た。
熱気に当てられ、一人になりたかったからだ。
「……フレデリック王太子……」
声の主はクララだった。
顔を見たら、どっと冒険の疲れが——、
「……ご、ごめんなさい! せっかくの、宴なのに……」
僕の疲れた顔が分かったのだろう。
クララは口に手を当てて、真っ赤になって、去って行った。
瞳には涙をいっぱい溜めて、振り返る時に涙が宙に流れて、きらめいた。
——クララ……?
なんだから、雰囲気が違った。
ドキン
……これは、初めて会った気に感じた気持ち……。
美しく、可愛いらしく、守ってあげたくなる、素敵な令嬢——。
僕の胸の鼓動が再燃する。
スーッと一緒に冒険する間に、冷めていった気持ち——。
彼女が、クララ……っ!
追いかけると、クララはコンラートに抱きしめてられていた。
遠くて見えないけど、嫌がっている。
冒険中も嫌がって、蹴り飛ばしたり、『ドラゴンブレイカー』を放とうとしていたが——。
クララの目には涙が……。
さっき僕の前で流したような、あのきらめく涙……。
コンラートの腕を振りほどいて、クララは行ってしまう。
コンラートは、その後を不思議そうに見つめる。
コンラートもクララの異変に気づいている……。
——翌朝。
「何するのよ!」
クララがコンラートを蹴っていた。
「朝から廊下で押し倒すってなんなの!?」
「そうだよな……それがお前の普通の反応だよな……」
「誰でもでしょう! 普通は違うみたいな言い方、何!?」
コンラートも、昨夜のクララの様子は気になったらしい……。
僕も、昨日みたいな、胸の鼓動を今朝のクララには感じない……。
何かおかしなことが起こっている——。
『——これで、呪いは永遠になる——!』
——まさか……クララは、呪われて——!




