10.騎士の悶絶(オーウェン視点)
湯に肩まで沈みながら、オーウェンは深く息を吐いく。
浴室には湯気が満ち、静かな水音だけが響いていた。
「…………」
目を閉じた瞬間、昨夜の記憶が容赦なく蘇る。
ブレアの服を掴んで離さなかったこと。
服を脱がせてもらったこと。
そして、ベッドに引き込み、抱きしめた挙げ句、その額に……。
「っ!」
オーウェンがざぶんと湯の中に顔を沈めると、ぼこぼこと泡が浮かぶ。
数秒後、ばしゃりと顔を上げる。
「……最悪だ」
髪の先からポタポタと滴を垂らしながら、低く呟く。
酔っていたとはいえ、騎士として昨夜の行為はあるまじき失態だ。
そのうえ彼はあの状態の時に何をしたかを全部覚えている。
思わずうめき声を上げながら、オーウェンは額を押さえた。
自分が酔うとどうなるかは知っていた。
気が緩むと一気に酔いが回る。
だから外では常に気を張っていた。
使用人の前でも、友人の前でも、他の騎士の前でも。
あんな情けなくも恥ずかしい姿は絶対に見せなかった。
見せたことがあるのは家族だけで、その翌日に向けられた生暖かい視線は今でも忘れられない。
家に帰ればああなることは分かっていた。
ブレアに先に寝ていてほしいと頼んだのは、少しだけ予感があったのだ。
――彼女の前だと気が緩むかもしれないと。
それは気のせいではなく、倒れた音を聞いて駆けつけたブレアの前で、あんな姿を晒してしまった。
……ふと、昨晩のブレアの顔を思い出す。
困ったように眉を下げながら、それでもずっと、どこか優しく笑っていた。
その表情が、妙に頭から離れない。
だが問題は、それだけではなかった。
今朝のブレアの言葉が、オーウェンの頭の中で再生される。
『オーウェン、もしまた添い寝してほしかったら言ってくださいね』
オーウェンはゆっくりとお湯から顔を出すと、両手で顔を覆った。
「……何を頷きかけているんだ俺は」
あの場は、そんなことは絶対に言うはずがない、と否定すべきところだったのに。
それなのに、ブレアの言葉で昨夜の熱を思い出し、名残惜しいと感じたのか、彼女の手まで握って頷きかけた。
だからこそ、混乱する自分を落ち着かせようと、逃げるように浴室へ来たのだ。
「……落ち着け」
オーウェンは自分にそう言い聞かせる。
これは違う。
昨日の醜態の延長だ。
酔いの名残のようなものだろう。
それ以上の意味など――。
「…………」
オーウェンは無言で天井を見上げる。
腕の中で眠ったブレアのぬくもりが、思い出すまいとするほど鮮明によみがえり、オーウェンはそっと目を閉じた。




