第13章 外交儀礼の舞台袖で踊る道化師たち 05/07
ヨハンが率いる、急襲チームの作戦が始まろうとしていた。
爆破を専門とする、シュミットが前に出て――建物の扉を調べる。
その素材、錠前の種類や蝶番の仕組みなどで――それぞれ、破壊の方法が異なるためだ。
仲間が扉を調べる間、ヨハンをはじめとした他の隊員たちは――前後左右を警戒する。
破壊担当の部下が、扉を爆破する――専用の爆薬を仕掛けて頷いた。
「ブリーチ・クリア」
「ファイア・イン・ザ・ホール」
ヨハンの命令で、シュミットが起爆装置を2回叩くように点火した。
信管が起爆する破裂音。
次に、轟音が響いて――扉が奥に向かって吹き飛ぶ。
《ハーレークイン全隊へ――こちらシエラ・ナイナー。チャンネル・オープン。作戦開始》
上空を旋回している、ハーキュリーズ級飛竜から――ソフィアが通信の中継を宣言した。
「全隊へ――シックスだ。任意発砲と交戦を許可する。ブレイク、ブラボー・チームは建物への発砲は控えろ」
《シエラ、発砲開始――監視を排除》
《シックスへ――ブラボーは、裏口から出る敵を叩きます》
「行くぞ野郎ども!」
銃口を上げて構えた、サイレンサーを先端につけた短い小銃を上下に揺らし――その合図とともに、ヨハンたちは突入した。
衝撃波で巻き上げられた埃と、爆炎が収まらないうちに――ヨハンは先陣を切る。
玄関ホールで突入班は2手に分かれて、ヨハンたちが2階へ向かう。
1階はローガン1等軍曹が率いる班が制圧する手はずだ。
「コンタクト!」
廊下の先に、敵の小銃の銃身が突き出ているのを――ヨハンは見つけた。
「ハイ!」
その合図とともに彼は中腰になり、背後の部下が、
「ロー!」と応答した。
野戦とは異なり、市街地における戦闘では――狭い場所を1列に進むことが多い。
そのため、人数に関わらず正面に対して充分な火力が発揮できない。
先頭が意図的に姿勢を下げて、後続のもう1人が歩調を合わせながら――小銃を構える。
〝移動中でも火力を維持できることが、CQBの極意だ〟と、彼らはシニアに指導された。
ヨハンは左手を突き出す、独特の構え方で銃を保持し――敵の胸から喉の高さに合わせて、照準を予め定めた。
「!」
侵入者を迎撃しようとした、敵がスリングを肩で滑らせ――銃を構えようとした。
しかし、既にヨハンと後続の部下は同時に引き金を絞っていた。
相手は瞠目しながら倒れていく。
先頭のヨハンたちが、敵の落とした小銃を蹴飛ばしたとき――背後で銃声がした。
サイレンサー付きの自動小銃が、高速弾を撃ったときの――甲高い銃声は、味方のものだ。
おそらく、倒した敵に後続の部下が止めを刺したのだろう。
今回の出撃に際して、ヨハンが課した交戦規則は――標的全員の〝殺害〟だ。
少ない兵力では、主犯を悠長に捜して逮捕していられない――と彼は判断したようだ。
「テロリストの〝存在しない人権〟を尊重して、危ない橋を渡るのはゴメンだ」
彼は臆面もなくそう言って、こう続ける。
「どうせ天罰を受けて、地獄に堕ちる奴らなら――俺が女神の手間を省いてシバいてもいいだろ? な? なっ!?」
ヨハンたちは、次々に2階の部屋を制圧していく。
彼らは今の自分が何をすべきか、身体に染み込むまで練度を高めている。
互いに目配せもせずに、必要に応じて前後左右に位置を変えながら――巧みに死角を援護し合う。
ヨハンが先頭で、角を掩護している間に――2番手が先頭に繰り上がり、後続の味方が進む。
その際に、
「最後尾だ」と言って、最後尾にいた部下が――ヨハンの肩を叩いて知らせた。
ヨハンは先頭から最後尾に位置が変わり、これを何度も繰り返す。
ハーレークイン小隊に〝ポイントマン〟や〝リア・セキュリティ〟という概念はない。
スタックを組むたびに、隊列を入れ替える暇など――特殊部隊の閉所戦闘にはない。
右の曲がり角に差し掛かるときは、自然と銃床を左肩に滑り込ませながら――両手の位置を替える。
左手で自動小銃を撃つのは、身体の露出を減らして被弾の危険から身を守るために行う〝基本〟の1つにすぎない。
再び先頭に繰り上がったヨハンは、廊下の角につま先を沿わせて――背後の部下の合図を待った。
態勢を整えた部下に肩を軽く叩かれると、つま先を軸に曲がった。
「!」
廊下の先で、敵が軽機関銃の設置をしているのが見えた。
ヨハンと部下は同時に速射した。
一瞬だけ遅れて、軽機関銃が火を吹く。
「大尉!」
背後の部下がヨハンを突き飛ばしながら、銃火を逃れるために自分もその場に伏せる。
軽機関銃の射撃手は、最初の銃撃で仕留めた。
それでも、銃撃が続いているのは――引き金が何かに引っかかったのだろうか。
反動で軽機関銃は無茶苦茶に撃ちまくってくるが、すぐに天井に着弾が集まりだす。
ヨハンは拳銃に持ち替えて、伏せたまま――射手の隣にいた弾薬手を撃った。
「フラグ・アウト!」
背後の部下が、手榴弾を投擲した。
先頭にいたヨハンたちは両腕を交差して、顔面を守りながら――ヘルメットを突き出して破片に備える。
手榴弾の時限信管が作動するまで、5秒ほどある。
「1000――2000。3000。4000……」
軍人が手榴弾を投げたときに唱える、独特の数字の数え方をした。
爆発が起きて、軽機関銃の周囲が制圧されると――彼らは再び前進を継続する。
「……」
ヨハンは嫌な予感がした。
この施設は間違いなく敵の拠点だ。
それにしては防衛兵力が少なすぎる。
敷地を考えると、小隊規模の部隊が待ち構えていると思えた。
しかし、これまでに倒した敵は数人だけで――いずれも軽装だ。
また、軽機関銃の設置位置にしても――より効果的に配置できる場所があったはずだ。
まるで、この場所に不慣れな敵が襲撃を受けて――慌てて対応しているようだ。
これまでの〝道化師たち〟による犯行を鑑みると、この〝お粗末な対応〟に違和感を禁じえない。
《シックスへ――アルファ・ツーは1階を制圧。青写真にない、地下へトンネルを発見しました。ブレイク、トンネルは北に伸びています》
「シニア! トンネルの出口を推測しろ! ブレイク、ブラボーは移動用意! ブレイク、シエラは全員、監視と狙撃を放棄、ブラボーと再編成! シックス、アウト」
ヨハンは悪態をつきたい衝動を抑えて、部下に新しい命令を下した。
おそらく、ここにいた〝本当の敵〟は既に撤退したのだ。
僅かに残した兵力は、監視と時間稼ぎのためだろう。
最後の部屋にヨハンたちは突入した。
そこもやはり無人だった。
というより、最初に狙撃班が仕留めた敵の死体が転がっているだけだった。
「大尉、こちらへ」
主寝室にいたヨハンを部下が呼んだ。
隣室に入ると、そこは作戦指揮所のようになっていた。
「……」
広げられていた帝国の地図を見る。
その下には別の図面があった。
橋の橋脚のものだが、桁違いに大きい。
これほど大きな橋は帝国にもそう多くはない。
「不味い……」
ヨハンは図面を丸めて部下に渡し、地図に戻った。
「ハーレークイン全隊へ――シックスだ。敵の狙いは横断鉄道の橋だと思われる。橋を爆破して、運行中の列車を落とすつもりだ。ブレイク、おそらく、調印式の最中に起爆して、両国の関係に水を差すつもりなんだろう」
ヨハンは端末水晶で告げた。
すぐにシニアから応答が返ってくる。
《ファイブよりシックスへ――ハーキュリーズを正面に降ろします。ブレイク、屋敷の確保はいかがなさいますか?》
予定では、近くに駐屯する陸軍の第25師団から中隊が派遣され――引き継ぐことになっている。
ハーレークイン小隊は最低限の歩哨を残して、サムエルの護衛に復帰する手はずだ。
「アルファは全員、玄関ホールに集合――ブレイク、ブラボーとシエラは正面の噴水に展開して、ハーキュリーズの着陸を援護。ブレイク、ファイブへ。宝探しと後始末は後詰めに丸投げだ。連中にも仕事をしてもらわなきゃな」




