第13章 外交儀礼の舞台袖で踊る道化師たち 01/07
休日。
最前線から帰還した、ハーレークイン小隊には〝特別休暇〟が与えられた。
3日間の連休を、
〝好きに過ごしていい〟と言われて〝真っ当な〟軍人がすることは3つだ。
初日の乱痴気騒ぎと、ひどい2日酔い――それから、連休を無駄にした後悔。
一方で、そうではない者もいる。
「面白いものが見れますぜ――〝新兵〟が上級曹長にしごかれてます」
「新兵?」
妖精の少女、ソフィアが小さな頭を傾け――隣を見る。
「いや――補充要員が着任するとの通知は、下達されていないが」
生真面目な副官、ミリアムは首を振った。
2人は、下士官の1人の言葉が気になって――基地の射撃場へ。
ひっきりなしの銃声。
速いペースで、一定のリズムで引き金を絞る気配――新人にしては手練れだ。
射撃場の後ろで、腕を組んだまま声を張る偉丈夫――上級曹長のシニアが見えた。
彼は訓練生に向かって、声を張る。
「ゆっくり丁寧に撃て! 丁寧とはスムースだ! スムースこそ速い!」
ミリアムとソフィアは知らないが、シニアは狙撃手の〝合言葉〟を使って――新人を叱咤した。
唐突に、
「腕立て! 5回!」とシニアは命じた。
完全武装の訓練生は、銃を地面に置いて腕立て伏せをはじめる。
しかし、2回めの途中で――上級曹長が鬼のような形相のまま、腕立てに足払いをかけて〝わざと〟邪魔をした。
「それでも帝国の軍人か! 気合が足りん! 腹を落とすな!」
彼はそう言った直後、スリングを回して自分の銃の槓桿を引く。
弾丸を装填すると、訓練生の伏せている真横の地面を――実弾で撃った。
さらに、腕立て伏せをしている訓練生の背中を――銃床で小突く。
その上、気まぐれで回数を変更する。
「私が5回と言ったら7回でも5回だ! 追加で2回!」
訓練生の頭から砂をかけ、当然ながら銃にもかかる。
意図的に弾づまりを誘発させるために。
訓練生は弾倉を抜いて、槓桿――ボルトを引くが直らない。
砂か小石が入り込んだのだろう。
「ちっ!」
若者は、舌打ちして拳銃に持ち替え――数発を発砲した。
片手で小銃を胸の前に保持しながら、利き手で構えた拳銃で――標的を射抜く。
「……」
視野が狭くなりすぎないよう、訓練生は意図的に首を左右に振って――周りの様子を見た。
これも上級の射手が行う、所作のひとつだ。
安全を確保したところで、拳銃を腰のホルスターに収める。
次に、小銃から弾倉を抜き――再びボルトを引いて、撃発しなかった弾丸を抜く。
それからテイクダウンピンを半抜きにした。
機関部を露出させて、小銃の上下を反転させて振り――砂埃を払って組み立てる。
「早く! 味方が死ぬぞ! それでいいのか!」
作業中もシニアの邪魔が入って、手元を狂わせようとしてくる。
知らない人が見れば、完全な嫌がらせだろう。
または、悪質な〝しごき〟と言われかねない。
最前線を越えた、その奥――深敵地で独立行動をとり。
遊撃と一撃離脱、偵察や破壊工作を主任務とする――これがハーレークイン小隊だ。
したがって、各人が優秀な射手であることを求められる。
唯一の例外は、妖精の少女のソフィアだが――彼女はより重要な、通信と情報の分析という特務を担っている。
准尉待遇の軍属、という特殊な地位が――彼女のためだけに用意された。
ソフィアをスカウトした〝主犯〟であるヨハンは、
「貴重なパンチラ要員♪」と言って、しばしば揶揄するが。
それ以外のハーレークイン小隊の軍人たちは、全員が特級の射手だ。
準備運動の代わりに、拳銃で百ヤードを必中させ。
肩と頬づけのできない、1フィート以下のごく至近距離で――小銃を撃ち。
50口径の重機関銃を〝悪用〟して、2500ヤードの超々遠距離狙撃もこなす。
しかも、それらは〝初心者用〟とされる。
「前へ! 前へ! 目標! 撃て!」
シニアが煽った。
「今畜生! くたばれ!」
訓練生は悪態をつきながら、応急修理した自動小銃を撃つ。
「戻れ!」
立ちあがって、さがろうとした訓練生は――足をかけられて転ばされる。
そしてまた、
「腕立て! 5回!」と命じられた。
そのまま、上級曹長は――執拗に訓練生の射撃を妨害し続けた。
「……」
ミリアムは絶句していた。
無理もない。
射撃を意図的に妨害され、怒号と銃声まで上乗せされては――並の軍人なら、発砲すら不可能だ。
おまけに、完全武装の高重量を身に着けて――腕立ての強要まで組み込まれる。
彼女が戦慄しているのは、おそらく――自分が訓練するところを想像したのだろう。
「軍人は哀れ――訓練で流した汗が多いほど、実戦の出血を減らせる。そういう信仰があるから」
ソフィアは冷淡な口調で言った。
ようやく、ブザーが射撃場で鳴り響き、
「状況終了!」とシニアが大声を張った。
射撃が終わって、ゴーグルをとった訓練生が訊く。
「どうだった?」
〝訓練生〟に質問された上級曹長は、直立不動の姿勢をとってから――彼に敬礼した。
その様子を見て、
「ああ、やはり大尉だったか」とミリアムが呟いた。
こんな過酷な自主トレーニングを、休日に――それもシニアを駆り出して行う変人は、ヨハンしかいない。
「ん」
ソフィアも頷いた。
ヨハンたちを手伝うため、ミリアムも標的を回収した。
「……」
的を一瞥した彼女は息を呑んだ。
あれほど、負荷をかけた射撃だというのに――着弾はほとんど、急所に集まっている。
「いったい、どうやって……」
驚愕している若き女騎士に、妖精の少女が言う。
「頭が悪い代わりに、体が賢いってこと――それがヨハン」
ミリアムたちが戻ってくると、シニアは標的を受け取った。
「お手を煩わせて、恐縮です――少尉」
「うむ」
それから、歴戦の上級曹長が――今回の講評を短くまとめる。
「高ストレス下にしては〝まあまあ〟でした――大尉。ただ、前半は力んでましたね。弾着が下に集まる傾向、つまりフリンチングが起きています。後半からは、持ち直していましたよ」
「ああ、お嬢ちゃんたちに覗き見されてたから――興奮して張り切ったぜ♡ 股間の〝怒りん棒〟も元気だ!」
「下品」
ソフィアはすぐ、彼の不品行な捨て台詞に釘を差した。
軽口を叩いたヨハンは、後ろで見ていたミリアムたちを振り返る。
シニアと2人で、
〝新しい射撃訓練のメニューを模索していた〟と語った。
より過酷で、より高負荷をかける――地獄のような訓練を。
ミリアムが前に出た。
「大尉、射撃でご相談なのですが――200ヤードの制圧射撃で速射した際、弾着が右に散る対策をご教示いただけますか?」
この生真面目な、若き将校は――しばしば、こうして達人級に射撃を極めた上官に助言を求めた。
右利きの射手が発砲して、弾丸が右に逸れる原因はいくつかある。
「力んで、ガク引きしてるからだろ? なら、とっておきの〝裏ワザ〟を教えてやろうか?」
「……?」




