↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハーレークインたちの外交儀礼――素行不良の大尉が、妖精と女騎士に挟まれ、兵隊を率いて「ヒャッハー」したら……なぜか魔界との戦争が遠のいた  作者: Fughse
第12章 逆立ちカバを狙い撃ちで、ざまあw

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
86/108

第12章 逆立ちカバを狙い撃ちで、ざまあ? 11/11

挿絵(By みてみん)

〝ランサー〟の名を冠する、帝国空軍きっての戦略爆撃専門の飛竜。

 型式名B―1Bは、圧倒的な航空戦力を誇る帝国でも――45名しかいない。

 全軍の1万3千騎余りに対して、その割合は――0・35パーセントと僅かだ。

 彼らは生え抜きにして、歴戦の猛者でありながら――最新技術の粋を集める真の精鋭である。

 最大速度は音速の1・25倍、航続距離は約7400マイルとされる。

 可変翼をたたみ、超音速を維持して高高度を巡航――夕闇にまぎれて離陸し、夜明けまでに平然と大陸を往還する。

 両翼を広げれば、亜音速のまま低空の地形追随飛行も可能とし――敵の探知と対空砲火をかいくぐる。

 帝国の誇る戦略爆撃の一翼を、文字通りその双肩に担う。

 4騎中隊を2つ合わせて編成された飛行戦隊は、たやすく防空網を突破した。

 8騎で編隊を組み、リーベルラント解放戦線の司令部へ――絨毯爆撃を敢行するために、上昇していく。

 その際に投射された、2000ポンド爆弾の総数は192発。

 飛竜〝ランサー〟のペイロードは、マーク84と呼ばれる2000ポンド汎用爆弾を搭載した場合――1騎につき24発を積む。

 空軍が運用する、2000ポンド爆弾の加害範囲は1発につき――コンマ6クリックほど。

 単純計算で、コンマ75平方クリックが焦土となる。

 小さな町が1つ、または――国立の競技場が8つ収まる範囲だ。

 同時に〝敵の継戦意志をくじく〟という、ヨハンの悪趣味なユーモアを――ランサーたちは取り入れた。

 大音響のスピーカーから、プロパガンダにしばしば利用される――ワグナーを流すという。

 頭上を、大空を雄飛する巨大な戦略爆撃飛竜の影が近づいてくるとともに――〝ワルキューレの騎行〟が高らかに奏でられる。

「パパパパーパ♪ パパパパーパ♪ パパパパーパ♪ パパパパー♫」

 銃剣を指揮棒に見立てて、ヨハンはそれを振るう。


   ヘルムヴィーゲちゃん♪ おいでませり♪

   お馬さんとごいっしょに♪ おこしやす♪


「パパパパーパ♪ パパパパーパ♪ パパパパーパ♪ パパパパー♫」


〝敗走〟を装って撤退する、ヴィクトリー基地の将兵たちだったが――勝利を確信して、こぞって鬨の声を上げ自分たちを鼓舞した。

 それを迎える、ヨハンがメロディを口ずさんで――より彼らの興奮と熱狂を煽った。

 歌詞にあるヴァルキリーの高笑いのように。

「ヒャッハー!」

 ヨハンは最後まで、享楽的に振る舞った。

 側近の部下たちも含めて、ほとんどの人間は知らないが――彼は帝国を統べる〝神姫〟ヴィクトリアとは双子で、実の兄である。

〝神姫〟は伝説によると、かつて女神の声と歌を聞いて――それを古代の人々に伝導し、200ヶ国を併呑し、ついに大陸を統一した黎明の巫女だ。

 戦争に際して、どんなに非人道的な作戦を実行したとしても――プロパガンダに変えて、将兵や国民の士気を高揚させる怪物が〝神姫〟の実態だ。

 本人に自覚はなくとも、こうした場面で――その呪われた体質が顕となった。

「こいつは〝地獄の黙示録〟の悪質なパロディだぜ♡ 朝に降らせるマーク84の雨は格別だな♪」

 ヨハンの〝狂宴〟を見守っていた、妖精の少女が端的に言う。

「戦争は、理性の〝シュバルツ・シルト面〟――重力がなにもかも呑み込んじゃう。誰も逃げられない」

「……」

「……」

 ミリアムとシニア、職業軍人の仲間たちは無言で見守った。



〝狂気〟の奔流は、ランサーの空爆とヨハンの不謹慎な歌声だけでは終わらない――むしろここからが、本番だ。

 帝国は敵対勢力に対して、手加減も容赦もしない。

 ランサー飛行戦隊の空爆は、呼び水にすぎなかった。

 直後、ハーキュリーズ級輸送飛竜が――立て続けにリーベルラント空域に侵入。

 多数の歩兵を空挺降下させ、呼応した陸軍の基地は――大規模攻勢に打って出た。

 同時に、海軍の陸戦隊が特殊潜水艇で運河を遡上――強襲上陸をかけて、領事館を奪還。

 先の絨毯爆撃で司令部を失い、統制をなくした〝リーベルラント解放戦線〟は――間もなく瓦解した。

 なにより、彼らに決定的な敗北を与えたのは――当初こそ彼らを支援していた、共和国政府の手のひら返しだ。

〝リーベルラント解放戦線〟は、既に民主主義を取り戻す旗手ではなく――〝叛徒〟に貶められた。

 共和国政府は、あらためて帝国への恭順の意を示し――〝反乱軍〟の鎮圧に、正規軍の投入を余儀なくされる。

 また、帝国が行った一連の軍事行動について彼らは、

〝国際テロリストの排除と、自国民救難のための非常措置として認める〟との談話を、公式見解として発表した。

 帝国の〝暴力〟に屈した形だ。

 反発するかと思われた、魔界の連邦政府は――このあからさまな談話に対し〝遺憾の意〟を表明するにとどまった。

 これは魔界側でも、帝国との講和交渉を妥結したい勢力と――リーベルラントを利用して、帝国への再侵攻を試みたい勢力とが、政局を争った結果だろう。

 もっとも、今回のリーベルラント事変で――魔界連邦は一切の損をしていない。

 むしろ、リーベルラントに新型の自走式対空砲を輸出したことで――実戦の結果を蓄積した。

 外交とはこういうものだ。

 かの地の覆轍を恐れた、中洲の都市国家群諸国は――以後は自ら率先して、共和主義運動を排斥するだろう。



 作戦はいち段落した。

 対空砲の無力化が確認されたことで、ハーレークイン小隊は〝任務を完了した〟とみなされた。

 そのため、帝都の第99連隊基地への撤収が命じられる。

 野戦飛行場に駐騎した、ハーキュリーズ級飛竜――バンジョウ大尉が、彼らを迎える。

《ハーレークイン小隊の烈士たち、無事の帰還を寿いでしんぜよう――帝都までしばし、戦傷と疲れを癒すがよい》

 キャビンに乗り込んだところで、ソフィアが訊く。

「戦争に勝つため、少数の味方や敵を犠牲とする――こんなのが正義?」

 妖精の少女が向けた、無垢な疑問に対して――ヨハンは悪びれずに答える。

「正義? そんなもんは〝人殺し〟を正当化する建前だ――俺が頼りにすんのは、銃と弾。それと火力・航空支援と味方の機動・情報支援も。あとは、ちょびっとハメをはずしても許してくれる、愉快な上官。オマケで、不愉快な部下どもと、巨乳の女騎士と生意気なメスガキ妖精だ!」

「……」

 ソフィアは無言で、彼のそばを離れてキャビンの窓から外を見た。

 それから小声で呟く。

「素直じゃない――私たちが大事だって言えないの?」

 これに、ヨハンは答えなかった。

「私を死なせたくなかったって言えばいいのに――ミリアム少尉のことも」

 妖精の少女も、返事が来ないことをわかっているはずだ。

 それでもソフィアは、口を閉ざすことが出来ない。

「人間はいつも心に嘘をつくのはなんで……?」

 誰も答えることができない疑問だろう。

「でも、前と違って――それを嫌いになれないのはなんで?」

 彼女は首を振ってしまう。

「ぜんぜん、わからない」

 少しの間をおいてから、後ろで声がする。

「大尉が私たちを助けるために、人事を尽くした――正義か否かを判断するのは、我々軍人の職分ではない。生き残れたこと、味方の犠牲を少しでも減らせたことだけ、誇りに思おう。貴官が義務を果たしたことを、私も知っているし大尉もご承知だ」

 ミリアムが諭すように言った。

「ん」

 これにソフィアは頷いた。

 振り返ると、ヨハンは細巻き煙草を指で弾いて――外に捨てた。

 妖精の少女は、彼の胸元のポケットに滑り込む。

「……」

 目を閉じると、一定のリズムで穏やかな心臓の音が聞こえてくる。

 妖精の少女の寝息を胸に抱き、ヨハンは戦場でもどこでも――いつも持ち歩く、私物のラジカセのボタンを押した。

〝狂気〟と月の裏側を謳った詩が、キャビンの中の気だるげな空気を揺らす。


   もしダムが予定より早く決壊したら♪

   地上のどこにも居場所がなくなって♪

   ダウナーな悪寒に心が潰される前に♪

   月の裏にいる君を探しだしてみせる♪

   そして雲の間から雷が轟いたときに♪

   その悲鳴は誰にも届かないとしても♪

   もしも音楽の好みが違ったとしても♪

   月の裏にいる君を探しだしてみせる♪


 音楽のアウトロにかかる心音が〝ドクン・ドクン〟と鼓動を刻む。

 それが、ヨハンの胸に耳を押し付けていると――重なって聞こえてくる。

 ソフィアはあっという間に、眠りに落ちた。

 猫のお腹で昼寝をするときよりも、ずっと早く。


第12章 逆立ちカバを狙い撃ちで、ざまあ?


プレイリスト

The Byrds - Oh! Susannah

Pink Floyd - Brain Damage/Eclipse


次回:第13章 外交儀礼の舞台袖で踊る道化師たち

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。