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ハーレークインたちの外交儀礼――素行不良の大尉が、妖精と女騎士に挟まれ、兵隊を率いて「ヒャッハー」したら……なぜか魔界との戦争が遠のいた  作者: Fughse
第12章 逆立ちカバを狙い撃ちで、ざまあw

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第12章 逆立ちカバを狙い撃ちで、ざまあw 10/11

挿絵(By みてみん)

 ヴィクトリー基地は相次ぐ、上級将校の戦死で――指揮系統はともかく、実態としては機能不全だった。

 そこで、ヨハンは無能を極めたコールマン少佐を――リーベルラントの砲撃を誘引して、謀殺した。

「そこまでするとは、にわかには信じがたいが――数日前から貴官が臨時の指揮官に就いたことと、この基地の周辺の帝国軍の動きが一新された事象の辻褄は合っている」

「あんたなら、こっちの苦労もわかるだろ?」

 このまま、戦線がインフレーションを起こせば――敵味方に無用の混乱をもたらすだろう。

 そう、ヨハンは語った。

「こうして、我々がここにいること自体、軍法に照らせば極刑を免れない違法行為だ――そのリスクを背負ってでも、貴官は幕引きを図りたいのか」

 魔界から来た、リーベルラントの軍事顧問は頷いた

 ミリアムが、冷めてしまったコーヒーを新しくした。

「どうぞ――ルクレール中尉殿」

「ありがとう――シメオン少尉」

 今度は〝敵〟の青年将校も口をつけてくれた。

「ああ――ウイスキーを垂らすなんて、久しぶりだ」

「格別に美味いだろ? ここの嫌われものだった、コールマン少佐の私物を盗んできたんだぜ? 敵から奪った高級酒ほど旨いものはないからな」

 ヨハンの軽口を聞いたルクレール中尉は微笑した。

「……」

「ただいま、お夜食をお持ちしましょう――僭越ながら、小官が作って参ります。スミス大尉はいかがなさいますか?」

「それじゃあ、2人前を頼もうか――これから突っ込んだ話し合いをしたいし。ワインも頼む」

「了解です」

 ミリアムが言って、敬礼して退席した。

「もしかして、貴殿は〝ハーレークイン小隊〟か?」

 ルクレール中尉は訊いてきた。

 ヨハンが瞬くと、彼は言う。

「警戒しないでくれ――貴官たちの評判は〝殿下〟から聞かせて貰ったことがある。あの〝ハイジャック〟と〝海賊ごっこ〟を、サムエル殿下はまるで冒険譚のように話していた。敵国の特使を暗殺から守るためとはいえ、味方の軍を丸ごと騙した貴官が、何を目論んでいるかを聞かせてほしい」

「じゃあ、本題に入るぞ――その前に訊くが、連邦はどこまでやるつもりだ? 〝ルビコン河〟は渡れないだろ? まだな」

 魔界連邦本国は、果たしてこの動乱に乗じて――停戦・講和交渉を破棄し、帝国との世界大戦に持ち込むつもりなのかどうか。

 これを、ヨハンは念のため確認したかったようだ。

「……正直に言うと〝リーベルラント解放戦線〟の熱気を持て余しているはずだ――そもそも、本国の意向は帝国との〝講和〟が最優先だ。こちらとしては、中立の緩衝国ができる分には歓迎だが、それを帝国が許すとは思えない」

 ミリアムが部下とともに食事を運んできた。

 献立は、生地を固めに焼いたガレットで――具材はベーコンとチーズ、アスパラガスと卵だった。

 彼女は簡潔にそう説明し、すぐに席をはずした。

 それから、食事の席で――ヨハンとルクレール中尉は〝互いの将来について〟語り合った。


 まず、間もなく始まる捕虜交換の機会で――彼は敵地に帰還を果たす。

 その上で、ヴィクトリー基地は撤退しようとしている――という情報を敵陣に伝えてもらう。

 信憑性を高めるために、ヴィクトリー基地からも軍使を派遣。

 コールマン少佐の首席副官である、レイノルズ中尉の名前で――撤退とその間の攻撃を控えて貰うことを打診する。

 同時に、帝国側に対しても――コールマン少佐の戦死を理由に、撤退の上申を行う。

 しかし、おそらく帝国の上層部は撤退を却下してくる。

 そこで、リーベルラント解放戦線は――再攻勢に出る。

 ヴィクトリー基地は〝やむを得ず〟撤退を開始。

 解放戦線側は、基地占領に専念し――敗残兵を〝敢えて見逃す〟というシナリオが、この場で決められた。

 新たな作戦を進める下拵えが整った。

 捕虜交換という体裁で、ヨハンと密約を交わした――ルクレール中尉は今頃、こう述べている。

〝ヴィクトリー基地は相次ぐ指揮官の戦死で、指揮系統が崩壊した〟

〝彼らは無傷での撤退を条件に、基地を明け渡すつもりだ〟

〝この機に乗じて、戦力を集中運用し――帝国侵攻の橋頭堡を確保すべきだろう〟

 優秀な参謀候補生のルクレール中尉に、ヨハンは期待しているようだ。

 戦争とは奇妙なことが起きる。

 頼むべき上官が無能で信頼できず、対するべき敵が有能で信頼できる。

 遅刻をする天使と、時計を持つ悪魔と――どちらと取引をすべきだろうか。

 別れ際、ヨハンは協力者となった魔界連邦の中尉に、

〝本国に顛末を報告するって理由をでっち上げて、すぐに前線から逃げろ〟と助言した。



 同じ頃。

 ヨハンは別の協力者に宛てて、私信を送った。

 帝国の太傅であり、竜王にして空軍の中将であるマイアは空軍の重鎮であり――ヨハンの養母だ。

 かの女傑に送った文面は、

〝間もなくこの地方の霧が晴れる〟というものだ。

 帝都の防空基地で、この知らせを聞かされたマイアは――執務室の椅子について、床に届かない足を揺らした。

「坊やの敢闘を無碍にはできぬのう――むしろ、妾が出馬したいところじゃ。これ、誰ぞある? シンリョウ元帥に取次あれ」

 椅子から立った、10歳の童女にしか見えない――人の姿を纏う竜王は、機嫌よく執務室を出た。

 その足で、馬車を統合参謀本部に走らせる。

 空軍のシンリョウ元帥は、竜王の〝表敬訪問〟を拝跪で迎え――すぐに端末水晶を通じて、直属の飛竜たちを招集した。

 こうしてヴィクトリー基地の後方に、戦略爆撃を専門とする――大型の飛竜で構成される〝ランサー〟飛行戦隊が配備された。

 呼応するように、リーベルラント解放戦線は――ヴィクトリー基地に属する全将兵の武装解除を条件に、撤退の打診を認めた。



 その後。

 ヴィクトリー基地の将兵は、レイノルズ中尉が基地司令代理として――敗残兵を装った。

 リーベルラントから派遣された、軍使の前で武装を全て廃棄し――連隊の軍旗を掲げ、基地を後にする。

 その間に、先発隊として基地から離れた場所に――ヨハンたちは潜んでいた。

 ヴィクトリー基地を占領しようとする、リーベルラント解放戦線の部隊と――新兵器である〝ツングースカ〟が展開するのを監視するためだ。

 偽装した偵察用の陣地に隠れながら、ヨハンは双眼鏡でその様子と――レイノルズ中尉が率いる、連隊の現在位置を確認した。

《シックスへ、こちらシエラ・ワン――〝コールマン少佐は逆立ちしたカバ〟繰り返す。〝コールマン少佐は逆立ちしたカバ〟確認を願います》

 撤退するレイノルズ中尉たちを援護していた、狙撃班の1つから合図の通信が入った。

《シックスへ――シエラ・ナイナー。連隊の安全地域への離脱を、目視で確認。グリーン・ライト、グリーン・ライト》

 続けて、上空を翔ぶ妖精の少女――ソフィアからも報告があった。

「やっちまえ!」

 ヨハンは、シュミットとベイツ――小隊で破壊工作を担当している2人の下士官に命じた。

《ファイア・イン・ザ・ホール、ファイア・イン・ザ・ホール》

 ヴィクトリー基地に仕掛けた大量の爆薬が一斉に起爆した。

 基地の地面には、撤退の際に処分した武器で偽装していたが――52口径の榴弾砲弾が1000発と、汎用の梱包爆薬を雷管と信管、リード線で結んだものが埋めてあった。

 地震や地鳴りを凌駕するかのような〝この世のものと思えない〟轟音とともに、合計して――1万ポンドを超える爆薬が炸裂した。

 瞬くよりも疾く、それは巨大な火球と強烈な衝撃波を広げる。

《シックスへ――シエラ・ナイナー。敵、対空砲の2次爆発を確認》

《シエラ・ツーより、シックスへ――複数です》

 ヴィクトリー基地の周囲に展開していた、自走式対空砲の撃破を確認したことが――狙撃班とソフィアから送られてきた。

 ヨハンは対空砲群の撃破を確認すると、端末水晶を取り上げる。

「ランサー飛行戦隊、ランサー飛行戦隊へ――こちら、ハーレークイン・シックス。ブレイク、認証コードは〝栄光の悪意と最悪の幸運〟だ。至急、航空支援を要請する。ブレイク、敵の対空砲を始末した。ヴィクトリー基地方面に、戦線の隙間ができた。マーク84の雨を降らせて蹂躙しろ。帝国に逆らった身の程知らずの馬鹿どもを〝ヒャッハー!〟で石器時代に戻してやれ!」

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