第12章 逆立ちカバを狙い撃ちで、ざまあw 08/11
「バックブラスト・エリア・クリア!」
「よろしい――撃て」
シニアは、正面の防衛線をローガン1等軍曹に任せ――自らは部下を率いて、戦車に側面攻撃を仕掛けた。
携帯無反動砲で、戦車の履帯を狙わせるために。
《ファイブへ――こちら、シエラ・ワン。弾着を確認、効果あり。再度告げる、効果あり。目標、タンゴ1及び2は擱座した》
着弾を観測する、狙撃班から端末水晶を通じて――報告が入った。
「移動して、もう1発グスタフをカマしますか? それとも、次は歩兵を狙ってフレシェット弾を?」
部下に訊かれたシニアは、首を振った。
「いいや――すぐに撤退、防衛線に戻る。ROEは3-2に移行、隊形は1-1」
「了解――任意発砲は反撃のみ、フォーメーション・カラムですね。聞いたかっ!? 野郎ども! ずらかれ!」
《ハーレークイン小隊、アルファ・チームへ――こちらシックスだ。これより火力支援を行う。デンジャー・クロース。グリーン・サイドの斜面を遮蔽に、撤退しろ》
端末水晶を通して、ヨハンの命令が届いた。
直後に、基地の後方に展開する52口径火砲の砲弾が飛翔する音が――聞こえてくる。
シニアが率いる、ハーレークイン小隊と周囲の味方部隊――機関銃陣地が迎撃している間。
司令部の指揮系統を回復させるため、ミリアムとレイノルズ中尉は奔走した。
それと並行し、ヨハンは後方基地の砲兵隊に――火力支援を行うよう、要請した。
敵の歩兵に砲撃を行うためだ。
ヨハンたちは、この基地に来て以来――コールマン少佐から、連日のように周辺の測量とパトロールを命じられた。
そのため、いつのまにかヴィクトリー基地周辺の地形や地理を――全員が把握していた。
狙撃の観測手が生業の、ハインツとコワルスキーが――高倍率のスコープによって行う、測距と弾着の観測は正確を極める。
10ヤードの誤差でも、彼らは正確に砲撃に必要な情報の諸元を報告できた。
〝リーベルラント解放戦線〟は、この攻撃にかなりの兵力を割いたらしい。
日中の第1波を凌いでから、夜間にも奇襲を仕掛けてきた。
「脳筋どもめ――照明弾を打ち上げろ。以後、2分ごとに継続。そっちが、その気なら一晩中、付き合ってやろうじゃねえか♡」
ヨハンの命令を、レイノルズ中尉が端末水晶を介して、後方基地の砲兵隊に命じた。
この時点で、ヴィクトリー基地の指揮系統はほとんどが回復した。
リーベルラント共和国というより、これは中洲の都市国家郡全体の傾向だったが――彼らは、内戦を繰り返していた。
その勇猛果敢な国民性が、致命的な敗北を喫するまで――戦いの矛を収めようとしない。
その特性と、ヨハンのような戦闘狂がぶつかれば――戦場のインフレーションが加速してしまう。
「機甲部隊は歩兵を随伴して、中隊ごとに両翼に展開、迂回進撃してくる敵の浸透を阻止しろ――各銃座は引き続き射撃を継続、敵の足を止めろ。後方の砲兵隊は、合図で効力射を開始。花火大会を見物しようぜ♪」
ハーレークイン小隊の退避壕は、臨時の連隊指揮所となった。
そこでソフィアを通じて、各中隊の指揮官には直接――端末水晶で命令を伝達している。
妖精族きっての才媛が、基地の全通信を掌握し――その統制を図る。
これで通信の混信、誤送信といったものが排除された結果――指揮官の指示は、即座に必要な部隊に届けられた。
異なる場所に展開する諸兵科が、妖精族の統制する通信網を通じて――有機的に結合している。
当事者たちに自覚はなかったものの、これは〝戦場の霧〟を晴らす、ある種のパラダイムシフトだった。
「砲撃の後に両翼に展開した部隊は交互躍進――深追いせず、攻撃発起点の1クリック先の稜線まで追い払ったら撤退していい。時間をかけて、ピール・ムーブを徹底しろ。後方と野戦病院のルート確保と搬送には、両隣の基地から応援を頼め。あと、魔界連邦の軍事顧問がいたら、なるべく生け捕りにしろ」
ヨハンはそのまま、ほとんど寝食も忘れて――明け方に敵が撤退するまで、防衛の指揮を執りつづけた。
これまで、中隊規模の部隊の指揮を執ったことしかない彼にとって――大規模な部隊を意のままにすることに、夢中になっているのだろうか。
「……」
それを間近で見ていたミリアムは、戦慄を禁じ得なかった。
彼は、自分と同じく歩兵小隊の指揮官に過ぎない――したがって、少佐以上から始まる、参謀や将官補佐の教育課程も修めていないし、実務経験もない。
にもかかわらず、本来は大佐または准将が率いる――連隊基地の将兵を手足のように使い、後方の砲兵隊とも連絡を絶えずとる。
自分はもちろん、数千人の仲間の命を預かったこの局面で――彼はどこまでも冷徹で、平常心を保ち続けている。
生まれながら、人の上に立つ資質と――羊の群れを導く才を宿しているのか。
ヨハン・スミスという青年将校は、竜王――太傅にしてエフライム侯爵として名高い、マイアの〝猶子〟という話だ。
しかし、ただの貴族の庶子や庶民の子が――竜族の庇護を受けるなど、道理にはずれている。
竜王とは本来、帝国を統べる〝神姫〟を守護する存在だ。
そのことを考え合わせれば、ヨハンの生い立ちは〝神姫〟に近い存在なのではないか。
また、奇しくも今上〝神姫〟ヴィクトリアと――ヨハンは同年齢でもある。
「まさか……」
ミリアムはしかし首を振った。
この想像、推測は――軍人の分を超えているのだから、無理もない。
かつての帝国は、竜族の力を後ろ盾と最大の矛としていた。
だが、近代化以降の人間たちは――それに匹敵する武力を持つに至っている。
魔界は魔界で、似たようなもので――魔族の絶大な魔力に頼っていた。
しかし、今では帝国と同じように――軍隊が強力なものに育っている。
事実、リーベルラントが魔界連邦から輸入し――切り札として運用している自走式対空砲は、明らかに帝国空軍への対抗兵器だ。
飛竜の打撃力や空挺降下を脅威とみなして、生み出されたものに違いない。
ヴィクトリー基地は、最初こそ基地司令の退場で混乱した。
しかし、その後の立て直しは早く――生き残った将兵たちの奮闘もあり、丸1日以上も続いた、敵の攻勢は敗走を余儀なくされた。
しかし、彼らはすぐに再編成をして――2日後に再び打って出た。
このときの主力は歩兵ではなく、新兵器が投入された。
「うぉお! なんだあれっ!? なんだあれ!」
ヨハンは防御陣地から、前線の様子を覗っていた。
そこに、飛竜の放つアベンジャー砲のような――小口径の榴弾が、横薙ぎに連射された。
着弾から半秒ほどして、怪物の咆哮を思わせる――間延びした砲声が連続して響き渡った。
「ツングースカです! 大尉!」
「あれがそうか! 今畜生! サンダーボルトⅡ級の〝7砲身パンチ〟が敵にまわった気分だぜ! こんなにヤバいのか! 敵さんもずるいぞ!」
〝ツングースカ〟とは、帝国軍が定めた敵の新兵器の通称だ。
本来の役は対空砲だが、敵はヴィクトリー基地の攻略のために――新しい戦術を考案した。
すなわち〝対空砲の水平射撃〟という、歩兵にとって悪夢のような戦法を。
大戦中に塹壕を越えるために、装甲化された車両を〝戦車〟として運用しはじめたのは――帝国も魔界連邦も同時期だ。
しかし、戦車は飛竜にとっては動きの鈍い的であり――帝国は過小評価した。
その戦車の砲塔を換装したのが、自走式対空砲だ。
本来は艦艇用に開発された連装砲で、魔界連邦が新開発したという。
歩兵は蹂躙され、対空砲を撃破可能な火砲では――狙いをつけている間に逃げられる。
飛竜で空爆をかければ、逆に撃墜されてしまう。
厄介な新兵器への対処をせねばならない。
正面から攻撃すれば、苦戦と流血を強いられる。
しかし、このとき渦中のヴィクトリー基地を指揮しているのは――ヨハンだった。
これが後の惨劇に繋がる。




