第12章 逆立ちカバを狙い撃ちで、ざまあw 07/11
いつもとは違い、陣地の至近距離に〝偶然〟迫撃砲弾が命中したようだ。
立て続けに弾着が起こり、そのたびに轟音と爆発音が響いた。
着弾は徐々に、司令部の中心へと集まりだす――そこにいる者を逃がすまいと、攻撃に怨念がこもるかのようだ。
ヴィクトリー基地の中は、非常事態を告げる警報と――怒声が飛び交う。
「あの、大尉……? まさか」
「ヨハン――あなたは、敵に連隊本部の座標を教えたの?」
腹心の乙女たちから、口々に問いかけられた。
彼は白々しく、大げさな身振りで否定する。
「とんでもない! 教えちゃいねえよ――敵さんを煽って、おちょくるラクガキに、誰かが書いた〝デタラメの数字〟が、たまたま少佐の寝てる場所と一致しただけだって! いやいや〝偶然〟って怖いなあ♪」
そう軽口を叩いた頃に、敵からの効力射と思われる――一斉砲撃が撃ち込まれ始めた。
「ほら、お前さんたちも退避壕に急げ――このために、土方囃子を歌いまくったんだぜ。ぬへへ」
ヨハンたちが身を隠す、ハーレークイン小隊の退避壕に――司令部からの伝令が飛び込んできた。
レイノルズ中尉の部下が、コールマン少佐の戦死を報告した。
「よっしゃ! ざまぁあ! ……いや、よくないよくない――痛てて、やめて。2人とも。わかったからやめて! ぴえんしちゃうから!」
彼の肘を、ミリアムがつねった――強い力で。
反対側からは、ソフィアが耳たぶを引っ張っていた。
「連隊本部の陣地改修が間に合わなかったのは、誠に遺憾である――これを、スミス大尉はいたく悔やんでおいでだ」
有能な副官が、上官の心情を〝代弁〟した。
ヨハンは気を取り直して言い直す。
「ご苦労さん、軍曹――それで、生き残ってる士官の先任は誰だ? 指揮系統はどうなった?」
「現在はスミス大尉が、当基地では最先任の士官であらせられます――よって、大尉殿に暫定的な指揮をお願いしたいと、レイノルズ中尉から言伝を預かりました。喫緊の状況でありますので、文書は間に合いませんでした。が、既に清書を進めてございます」
「ここは第26連隊の基地だ――〝よそ者〟が仕切ってもいいのか?」
「当基地は〝危機的な非常下〟である、という見解です――兵たちを預かる小官としても、現状においては、スミス大尉にお任せすべきと愚考仕ります。〝本物の〟歩兵将校に辣腕を発揮して頂きたく存じます。何卒」
レイノルズ中尉の部下は頷いた。
指揮権を移譲されたこと、その言質をとったヨハンは――待機している部下たちを振り返る。
「聞いたかっ!? お嬢さんたち!」
「はっ! 大尉!」
上級曹長のシニアが、代表して答えた。
ヨハンは頷いて、部下たちを見据える。
「お待ちかねの、戦争の時間だっ! ヒャッハー!」
彼の背後には、既に武装を整えた――屈強な歴戦の部下が26人、控えていた。
敵による砲撃は、夜明けから1時間ほど経っても続いている。
ヨハンはまったく構わず、退避壕の外に出た。
周囲を見回して言う。
「敵の狙いは正確に司令部に集中している――ただちに散れ! それと、端末水晶のチャンネルを寄越せ!」
彼はソフィアを見た。
「ヴィクトリー基地の通信を、全て掌握する――2分ほど待って」
妖精の少女が報告した。
ヨハンは振り返って上級曹長を呼ぶ。
「シニア!」
「はっ!」
「小隊の指揮権を委任するぞ――アルファとブラボー・チームの全員で、近場の連中を率いて南側の防衛に当たれ。東から南にかけて、コンマ5クリック地点に、機銃掃射の十字砲火点を設定。この準備砲撃が終わり次第、敵は打って出てくる。そこをモグラ叩きで牽制しながら、敵の足を鈍らせろ。頭をさげたところに擲弾の雨を降らせてやれ」
夜明けとともに攻めるなら、敵は太陽に背を向けてくるはずだ。
ヨハンはとっさにそう判断したらしい。
「砲兵隊の火力支援の統制を回復するまで、時間を稼ぐのが目的だ――逃げ足を鈍らせるために、敢えて第1フェーズ・ラインを突破させろ! かかれ!」
「お任せを! 大尉!」
「ヘイズ! スナイパー・チームは、2挺の重機関銃を分捕って、ボルトラッチ・リリースをうまく使って、セミオートで敵兵のHVTを狙撃しろ! 指揮官と通信手、選抜射手と軽機関銃が優先目標だ!」
重機関銃をあえて〝セミオート〟で撃つ、超長距離狙撃は――前線経験者に伝わる〝裏技〟だ。
「合点です――いくぞ、野郎ども!」
「少尉は俺と来い――ホーキンスとメイソンは俺たちの護衛と補佐だ。レイノルズ中尉と協力して、生き残りの士官や下士官をまとめて、指揮系統を回復させる」
「了解いたしましたっ」
ミリアムも声を張って上官に付き従う。
これまでもそうだった。
この小隊長は、戦闘に対峙したとき――がらりと人が変わる。
任務を果たすため〝だけ〟なら、誰よりも模範的な将校として振る舞う。
「権限を上書き――完了。現刻より、ヨハンが基地の司令代理に就任。呼出符丁は〝ヴィクトリー・シックス〟を付与」
ソフィアはこの間に、基地の端末水晶を介した――通信網の全てを掌握した。
これでコールマン少佐が保有していた指揮権や、使用していた通信チャンネルを――ハーレークイン小隊で独占できる。
「準備いいか? メスガキちゃん♪」
「ん――好きなだけ〝歌わせて〟あげる」
妖精の少女が親指を立てた。
この瞬間、ヴィクトリー基地の通信プロトコルは――全てソフィアが支配した。
ヨハンは、端末水晶のハンドセットを取り上げる。
「ヴィクトリー基地の全将兵に、一方通信で送る――こちらはハーレークイン小隊指揮官、スミス大尉だ。総員、手を止めずに聞け。ブレイク、敵の砲撃に遭い、残念ながら当基地司令コールマン少佐は〝重傷〟を負われた。従って、現刻より帝国陸軍階級序列によって、俺が臨時に指揮を執る。ブレイク、だが、心配はいらん。なぜかっていうと〝いちばん厄介な敵〟は、もうくたばったからだ! ブレイク、追って指示があるまで、各隊は部所と索敵範囲を制圧。任意発砲と、あらゆる火器の使用を許可する。ブレイク、基地の南側の部隊は接敵に備えている、ハーレークイン・ファイブの指揮下に入れ。帝国陸軍最先任上級曹長が、お前らのケツ持ちだ。ヴィクトリー・シックス、アウト」
ヨハンの言った〝いちばん厄介な敵〟が誰か――名前を出さずともわかりきっていた。
だが、そのことについて――敢えて指摘する必要はないだろう。
コールマン少佐は、この戦いで〝名誉の戦死〟を遂げた――それが公式記録だ。
《シックス、シックス――こちらハーレークイン・ファイブ。敵のコンタクトあり。方位135及び170。ブレイク、主力は戦車6両。距離、およそ1クリック半。ブレイク、随伴歩兵は、おそらく2個中隊規模》
端末水晶を介して、シニアからの通信が入った。
敵は攻撃準備射撃を終えると、やはり――南側から侵攻してきた。
「敵さんがおいでなすったぞ――ハーレークイン・ファイブへ。シックス、了解。交戦を許可する。ブレイク、可能な限り引きつけてから発砲を開始。確認したか?」
《シックスへ――了解。ハーレークイン・ファイブ、アウト》
しばらくすると、警戒線を越えてきた敵と――シニアたちの交戦する音が聞こえてきた。




