第12章 逆立ちカバを狙い撃ちで、ざまあw 02/11
武装蜂起した〝リーベルラント解放戦線〟は、帝国海軍が水上封鎖や臨検といった――軍事行動がとれない情勢を利用した。
彼らは迅速な果断速攻に打って出た。
まず、寺院や民間の輸送船や旅客船を拿捕。
次は、大量に徴発した地元の漁船を盾に――帝国領に強襲上陸を敢行したのだ。
現地の帝国軍守備兵力は、魔界連邦との講和交渉が始まったことで――大幅に戦力が縮小されており脆弱だった。
彼らは敗走を余儀なくされ、帝国軍は大河の後方――10マイル地点まで後退したところで、再編成を行い、新たな防御線を構築中だ。
統合参謀本部は、反攻作戦を練り直すことを強いられる。
リーベルラントが魔界連邦から輸入したと見られる、新型の自走式対空砲が強力で――その対策に苦慮しているらしい。
シニアが運転する、軍用車の助手席にいたミリアムが――このように現状をまとめた。
後ろの席にいるヨハンは、例によって持ち込んだ――私物の真っ赤なラジカセを車両の外部入力端子に繋いでいる。
バンジョーを抱っこして♪
アラバマからやってきた♪
ルイジアナへまっしぐら♪
可愛い子ちゃんを探しに♪
初日は雨に降られてても♪
晴れたら空気が乾いてて♪
凍え死にそうになっても♪
可愛い娘は泣かないでよ♪
おおー、スザンナちゃん♪
泣いたりなんかしないで♪
バンジョーを抱っこして♪
アラバマからやってきた♪
ハーレークイン小隊は、敵の射程外で飛竜から降りて――軍用車両とトラックに分乗した。
陸路で味方の前線にたどり着いた。
第26連隊が駐屯する前線基地は、戦時下の最前線とは思えないほど規律が緩みきっている。
「たかが小隊で援軍だとさ」
「おめでてぇ奴らだ――〝ハーレークイン〟だってよ。ってことは、あのお嬢ちゃんが白粉を塗ったくって、裸踊りでもすんのかね?」
「おい、妖精まで連れてんぞ――これじゃ軍隊じゃなくて、サーカスだ」
「本職は〝見世物小屋〟なんじゃねえの」
「……っ!」
歩哨に立っている兵たちの嘲笑に、ミリアムが気色ばんだ。
「ちょい待ち」
彼女が綱紀粛正に出ようと、前に進んだところを――ヨハンが止めた。
2人の前には、既にシニアが立っている。
「口の利き方に気をつけろ! 伍長! 友軍の上官に対して礼節を欠くとは――貴様は、それでも栄えある帝国軍人か!」
小隊軍曹が、これまで聞いたことがないほどの怒声を放った。
「それとも貴官らは、帝国陸軍最先任上級曹長の〝指導〟を受けたいか! 遠慮なく申し出ろ!」
そう言った彼は、歩哨の襟首を掴んで――腕力だけで野戦装備を身に着けた兵士の足を地面から浮かせた。
もう1人の方は、ローガンがすでに制圧していた。
「他のやつならいざしらず、シニアに舐めた口を利くとか――なーんか、ぴえんな予感がするなあ」
ハーレークイン小隊は、無事――前線基地〝ヴィクトリー〟に到着した。
小隊長は部下たちに大休止を指示して、シニアに指揮権を移譲した。
彼はミリアムを伴って、基地司令に挨拶へ出向く。
その直前になって命令を追加する。
「ローガンとメイソンに辺りを探らせといてくれ」
「お任せを――大尉」
「頼む」
「大尉! どうされましたかっ!?」
ミリアムに呼ばれた彼は大股で歩き出した。
「ようこそ当基地に――と言いたいところだが、貴官らが着任することは通達が来ていない。目的を話せ、大尉」
ヴィクトリー基地の責任者、コールマン少佐は言った。
大隊の指揮官を務めるべき少佐が、なぜ連隊基地の指揮を執っているのか。
どうやら、それにも〝ままならない〟事情があるようだ。
だが、この場ではその話は出なかった。
「こちらをご確認ください――少佐」
ヨハンは、背嚢から蝋を塗って防水処理した封筒に収めてある――統合参謀本部からの命令書を取り出した。
ミリアムが丁寧な口調と発音で言う。
「統合参謀本部秘匿令第558―979―460号です――我ら第99連隊直属第1小隊は、これより深敵地に対するLRPを敢行いたします。つきましては、ヴィクトリー基地の司令であらせられる、コールマン少佐殿に、ご協力をいただければ幸いであります。また、情報と物資の提供をお願い申しあげます」
文書には統合参謀本部議長、ドレイク元帥の署名がある。
コールマン少佐はコーヒーを口に運びながら言う。
「……うーん、つまり貴官らは〝援軍〟ではない、と? いったい、統合参謀本部は何を考えておるのか。それに貴官らは、我々に協力を求めるが、それは公平性を欠く行為だとは思わないかね?」
「……は?」
「えぇ……?」
ヨハンとミリアムは揃って瞬いた。
こういった場合〝うちの仕事の邪魔をするな〟と釘を刺されることはある。
それでも、別働隊の友軍に見返りを求めるようなことはしない。
あるとしても、せいぜい賄賂を要求されるくらいだ。
「とにかく、小官では判断しかねる部分もある――軍議を要する事案だ。伝令、至急に士官と先任の下士官たちを召集せよ。スミス大尉と部下の諸君には、決定事項を追って通達するため、待機を命じるものとする。以上だ、さがりたまえ」
なによりヨハンとミリアムを驚かせたのは、この指示だ。
コールマン少佐の言葉を翻訳すると、
〝自分では決められないから部下の多数決をとる〟となった。
およそ将校、指揮官とは思えない――情けない通達だ。
嫌がらせにしても稚拙すぎる。
こんな命令を受けたのは、ヨハンも初めてである。
「いやいやいや、お待ちを少佐――俺たち、なにか少佐殿のご不興を買いましたか? もしもそうであれば、謝罪をいたします。部下の不始末がありましたら、厳重に注意をし、今後は2度と起きないようにしますので」
「……? 何を言ってるのか、大尉は――これは貴官らの問題ではなく、あくまで当基地の規律の話である。レイノルズ中尉、彼らを案内せよ。完了次第、可及的速やかにこちらに戻って来るように」
「こちらへ――仮の幕営をご用意いたしました、大尉殿」
ヨハンたちはヴィクトリー基地の西端に用意された幕営に移った。
士官の2人には、それぞれ個人用の幕舎が割り当てられ――ソフィアはミリアムの幕舎に間借りする。
下士官である兵たちは、大型の幕営を使うのだが――明らかに数が足りていない。
そのことを尋ねると、案内役のレイノルズ中尉は、
「少佐からの追加のご命令です――ハーレークイン小隊は8名を選抜し、別命あるまで、西側の歩哨に立つようにとの由であります」




