第12章 逆立ちカバを狙い撃ちで、ざまあw 01/11
ハーレークイン小隊の〝夏休み〟から1週間後。
〝リーベルラント解放戦線〟による、バスチュ要塞の陥落から、すでに2週間近くが経つ。
「ってわけで、出番だぞ――お嬢さんたち。夏休みでなまってないだろうな?」
「へーい」
「ういっす!」
20人を超す、荒くれ者にして厄介者たちは〝お嬢さん〟と呼ばれ――それぞれに意気込んだ。
第99連隊基地、ハーレークイン小隊の兵舎にある談話室に部下が集まった。
ヨハンは、統合参謀本部から受領した命令について話す。
「自由と民主共和のためとかいう、クッソ下らない理由で武装蜂起した馬鹿どもを横合いからぶん殴るのが、今回の任務だ――詳細は少尉から、はいよろしく♪」
有能な副官にして、女騎士であるミリアムに面倒事を丸投げし――小隊長は椅子に座って、細巻き煙草に火をつけた。
ミリアムは、豪奢なプラチナブロンドの髪をなびかせて――前に出る。
「今回、我らに与えられた任務はLRP――長距離偵察だ。目的は、リーベルラント解放戦線が築いた、対空砲陣地の位置を特定するためである。統合参謀本部にその正確な位置座標を報告し、別命を待つ。敵の支配地域であり、当該地域はDNZとなる。したがって、味方は展開できないため、かなりの危険が伴うことは明白だ。無論、不法越境だ。エインセル准尉、地図に印を頼む」
「ん――見える?」
妖精の少女、ソフィアが地図上に魔法の光線を発振して照らした。
敵と味方の前線の位置や、リーベルラントの城塞の位置を示していく。
「紺碧の渓谷も、乙なもんだ」
例によって、彼は無防備な妖精の少女のスカートの中身を〝実況〟した。
部下の男たちが笑い声を響かせた。
「大尉! そんなにお話しがしたいのでしたら、いつでも小官はブリーフィングの任を返上いたしますが?」
怒気をはらんだ口調で注意され、ヨハンはうなだれた。
「また怒られたー、ぴえん」
「自業自得」
下着を覗かれた被害者であるソフィアは、いつもの調子で淡々と告げた。
帝国と魔界を隔てる大河。
その岸に立てば、海と見間違うばかりに――川幅は広い。
大陸からはいくつもの支流が流れ込み、豊かな水量と豊富な資源は多くの恵みをもたらす。
その大河には自然と中洲が点在し、太古から移住した人々が――独自の社会を形成した。
〝神姫〟を擁する寺院が進出した頃から、徐々に帝国による侵蝕が始まった。
戦前にはいくつかの城塞都市が点在し、それぞれに独立自治を宣言する――都市国家郡となった。
そして2度目の世界大戦。
帝国と魔界の両大国が、大河の領有権を巡った――大戦の渦中に彼らは置かれた。
その地政学的重要性から、中立は許されず――存亡の危機に立たされることになってしまう。
元々、民族・文化や宗教的には――どの都市国家郡も、帝国よりではあった。
帝国の中央集権と帝政は中洲の一帯を信託統治領とし、来たるべき次の戦争では――併呑の橋頭堡にするつもりなのは明白だ。
これに反発したのが都市国家郡の1つ。
新興のリーベルラント共和国だ。
一部の過激な民主共和主義者たちが武装蜂起し、帝国のバスチュ要塞を陥落させた。
さらに、帝国の領事館を制圧し――関係者を拘束した。
その一報は、帝国首脳部を大いに悩ませた。
彼らは自らを〝リーベルラント解放戦線〟と名乗っている。
時間をかければ、平和的に解決することはできるだろう。
しかし、帝国は現在対岸の魔界連邦と停戦・講和交渉中だ。
既に水面下で、魔界はリーベルラント解放戦線に――〝自衛用〟の武器を供与しているという。
このまま、後手にまわれば――魔界からの本格的な介入を許してしまう。
そうなれば、ようやく前に進み始めた講和交渉において――帝国は大きく遅れをとる。
かといって、軍をいたずらに動かし――力づくで解決するのも難しい。
そうすれば、リーベルラント以外の他の都市国家と彼らが属する――共和国連合もこれに呼応する。
帝国に対する、新たな〝連合軍〟を結成して――逆侵攻してくるかもしれない。
そして、これが最も重要なことだが――大河を境界とする地域は緩衝地帯であり、非武装地帯だ。
したがって、帝国も魔界もお互いに――この地域に軍を駐屯させたり、派遣することを禁じている。
もし、帝国がその停戦合意を一方的に破棄すれば――魔界は都市国家郡を支援する大義名分を得る。
という分析が、統合参謀本部から帝国政府には送られた。
内閣は決議をとり〝神姫〟に帝国本土を防衛するための前線を、
〝限定的に構築したい〟という趣旨の上奏文を奏上した。
果たして〝神姫〟ヴィクトリアより〝神託〟は降り、それを大義名分として――帝国軍は出動した。
これを意訳すれば〝魔界の介入を許さないよう、圧倒的な軍事力を行使し――敵を完膚なきまで蹂躙する〟となる。
彼らは、中洲とつながる埋立地に小規模な軍を派遣し――防御線を構築しているところだ。
統合参謀本部の分析官たちが作成した〝対空砲陣地があると思われる〟地域を、透明なフィルムに転写した略図を重ね合わせる。
それを見て、ミリアムの説明が次に進む。
「言うまでもないことだが――対空砲火が強固なため、今回は空挺による降下はない。我々は当基地を進発し、然る後、味方のFOBを経由してAOに進む。質問は?」
ヨハンが手をあげた。
「お前さん、第2分隊を仕切ってみないか」
「え……?」
ミリアムは瞬いた。
ハーレークイン小隊は、発足時から〝小隊〟といいながら、任務に応じて変則的な編成をとってきた。
しかし、軍事組織としては非効率だと言わざるを得ない。
なにより蓋然性にかけるところがあった。
そこで、ヨハンはシニアの助言を取り入れて――同戦力の分隊を2つ編成した。
「少尉の分隊長就任に、異論のあるやつは?」
「おりませんよ――大尉」
シニアが言うと、集まった下士官たちも頷いている。
ミリアムがこの数ヶ月、過酷な任務に就きながら――寸暇を惜しんで、指揮官としての能力開発に取り組んでいたことを仲間たちは知っていた。
「あれですね――少尉殿が着任したばかりの頃にやった、行軍演習のときみたいじゃないですか」
「おー、あれキツかったわ」
「あのときの、汗だくの少尉は実に艶めかしかったですなあ」
誰かが呟いたその一言に、ヨハンが全力で便乗する。
「エロい! 巨乳! 女騎士の鑑!」
部下たちは歓声で沸き、拍手と口笛で――副官の若き少尉の成長を喜んだ。
「そこ! 私語はやめよ! あと、大尉はいいかげん黙ってください!」
ミリアムが注意した。
「ぱちぱちぱち」
妖精の少女が小さな手で同僚に拍手を贈った。
軍議に戻る。
ヨハンとミリアムがそれぞれ分隊を率いて、シニアが小隊本部に就き――全体の統制を行うという方針が決まる。
新たな任務の始まりだが、この時点で彼らは誰も――これよりヨハンがしでかす〝悪行〟を知らなかった。




