第11章 海とソフィアのえにっき・リプレイ 03/07
ハーレークイン小隊が、夏休みを満喫している頃。
統合参謀本部では、定例の軍議が開かれた。
円卓を囲むのは陸海空、並びに憲兵隊といった各軍の長官――つまり、いずれも制服組の頂点たちである。
陸軍のピット元帥。
海軍のオハラ元帥。
空軍のシンリョウ元帥。
憲兵総監のゼブルン元帥。
統合参謀本部議長のドレイク元帥
統帥本部総長のデュマ元帥。
ならびに、彼らを補佐し助言を与える――参謀たる、首席幕僚と次官。
そして、最先任の下士官たち。
統合参謀本部次官補の地位をもつ、マイア――フォン・エフライム中将の椅子は空席だった。
彼女は今〝後始末〟のために奔走中だ。
また、帝国政府からも国防省や情報省といった機関から――背広を着た高官や、彼らを補佐する官僚たちが席を埋めている。
まずは、懸案だったサムエルの電撃訪問が〝何事もなく〟日程を消化したこと。
表向きは。
ならびに、彼が帰国の途についたことが報告された。
それに伴い、帝都のホテル爆破事件が――状況から見て〝道化師〟による犯行が濃厚だという分析結果もあがってくる。
数年前。
〝神姫〟ヴィクトリアを弑逆しようとした、暗殺者グループがいた。
通称は〝道化師〟とされたが、彼らについては――数年前から調査委員会が設けられ、正体や規模、そしてその目的など情報収集が進められている。
ただし、遅々として成果はあがっていなかった。
「制服組と背広組と言われる、組織間においての連携がとれていないせいだ」
という声が、帝国政府からはあがった。
「内閣による統帥権の侵害は慎まれよ!」
統帥本部総長、デュマ元帥が即座に一喝した。
これに、陸軍を預かるピット元帥が同調する。
「そもそも、テロの危険性があると我々が指摘したにもかかわらず、陛下の国事行為を奏上仕ったのは貴様たちだ――他人事のような申しよう、はなはだ不適切にして無責任きわまる」
憤慨する陸軍元帥に対して、内務省の次官は眼鏡を開かせて言う。
「当日、警備体制は〝万全だ〟と請け合ったのは、元帥閣下ご自身では?」
「貴卿はなにが言いたいっ!? はっきり、申してみよ!」
帝国において〝神姫〟の存在は申請にして不可侵なものであり、国家そのものの象徴だ。
彼女が、未遂とはいえ弑逆を企てられたのは大問題だろう――そして、自爆犯を操る黒幕が一向に捕まらないことこそ、最大の問題だ。
その原因と責任の所在がどこにあるのか、軍議の場は紛糾したものの――ある参謀が、
「それで、もう片方のピエロの処遇はいかがしましょう」と強引に話題を切り替えた。
言うまでもなくハーレークイン小隊のことだ。
「当該部隊について、内部の者からの報告書があがっています」
「ああ――フォン・シメオン少尉が執筆したという……」
「はい」
ミリアムの報告書は、これまでのハーレークイン小隊が作戦にどう従事してきたか――細大漏らさず克明に記されていた。
彼女は、ハーレークイン小隊には――規律の緩みが蔓延していると断じた。
また、大小いくつもの規則違反が多いとも論った。
その原因が、上官の不品行な言動にあるのは否めないと――あくまで事実に即して。
「まったくもって彼女に同意します――陸さんは、どうも身内に甘い」
海軍のオハラ元帥がため息とともに吐き出した。
なにしろ、つい先日――ハーレークイン小隊は、魔界からの特使が暗殺の危機に瀕していたとはいえ〝自国の豪華客船をハイジャック〟までしたのだから。
公式には〝存在しない事案〟だが、真相を知る――他に居並ぶ高級将校たちも、同じ意見のようだ。
頷いたり、互いに顔を見合わせている。
しかし、報告書の最後で――ミリアムは、
〝ハーレークイン小隊と、その指揮官は劇薬だ――だが、必要悪だろう〟と結論づけてもいた。
彼女が見てきたところ、この部隊は平時においては軍の〝腫れ物〟に間違いない。
それでも、戦時下や困難を極める作戦において、
〝必ずや帝国に戦果をもたらし、国益にかなう存在だ〟と。
報告書の最後のページをめくりながら、海軍のオハラ元帥は言う。
「どうにも、2度目の作戦以降――フォン・シメオン少尉は、スミス大尉に丸め込まれてしまっているようですね」
「やはり、あのときに処断すればよかったのでは」
憲兵総監、ゼブルン元帥が口を挟んだ。
彼の言う〝あのとき〟とは、おそらく――スラム街でヨハンが強盗を射殺した1件だろう。
たまたま、助けたのが魔界連邦の関係者だったため――政治的な理由で放免となった。
もしも、それがなければ――彼は憲兵隊の拘置所に今も収監されていたはずだ。
「それは私怨では? ゼブルン卿」
現在の憲兵総監の甥に、ルートヴィヒという名の〝白金級の冒険者〟の青年がいる。
彼は、ハーレークイン小隊の最初の任務で救出された。
だが、
〝無礼で不当な扱いを受けた〟と養父であり、伯父の憲兵総監に相談した――という噂があった。
「そのようなことはない――我々は、あくまで法に則って行動した」
ゼブルン元帥はただちに否認した。
この場は彼を弾劾する場ではないため、それ以上は追求されることはなかった。
問題はあくまで、ハーレークイン小隊をこのまま継続して運用してよいのか――という点だ。
小隊長を何らかの理由で解任し、後任として――より有能な青年将校を据えるか。
または、小隊をまるごと解散し――現在訓練中の空挺部隊を中核とした部隊を新たに編成するか。
他にも案はいくつか出てくるものの、決定打に欠ける。
「しかし、彼らの独断専行がなかった場合、サムエル殿下は例のホテルで〝道化師〟の手にかかったかもしれません」
「厄介な連中だ」
統合参謀本部議長のドレイク元帥が吐き捨てるように言った。
隣にいる 統帥本部総長のデュマ元帥が疑問を口にする。
「解せないのは、政府というより、内閣からの強い要請があったことだ――若輩のスミス大尉に、新設の部隊を任せるなどと。彼奴に、さほどの政治的な後ろ盾はないはずだが……?」
「いいや、あの御方がおわす――スミス大尉はかの方の猶子だ」
「……フォン・エフライム中将か! そうか。あの御方が、スミス大尉の後見を務められていらしたのを、失念していた」
「お気まぐれに人間の庶子を拾ってみたら――思いの外、情が湧いたのでしょうか」
「太傅といえども、やはり心意は可憐なままでいらっしゃるか――そのかんばせのごとく」
「はは」
ここまで成り行きを見守っていた、空軍のシンリョウ元帥――飛竜の長老が言う。
「諸将、ならびに臨席の人の子らに申し告ぐ――讒言はそれまでに。然らざれば、おひいさまへの誹謗とみなす」
シンリョウ元帥を除く全員が息を呑む。
「……」




