07
「結果だけ見たら間抜けだけど、よくある話だよな――こういうの」
「大尉……」
「いや、だってさ――帝国が今まで築いてきた屍山血河に比べたら、あんなの可愛いもんだろ」
「……」
ミリアムは伯爵家の生まれで、男の兄弟がいなかったことから、跡継ぎになるために奮闘してきた。
しかし、騎士の名誉と自分の栄達のために――望んで人の命を犠牲にしたいか。
答えるまでもないだろう。
「それより、これって妙なことになってねえか?」
ヨハンは部下たちを振り返った。
「例のお馬鹿は、つまりギルドの〝アイドル〟様だろ? でも、そいつを助ける協力を連中が拒んだわけじゃん?」
「たしかに」
シニアが頷いた。
「命令は統合参謀本部から下ったものです――この際、冒険者組合教会と今次の作戦は無関係ではないかと、小官は思います」
ミリアムが言うと、彼女に視線が集まった。
「小官が知る限り、ゼブルン侯爵家は門閥貴族の重鎮です――何代にも渡って、傑出した軍人や官僚を輩出してきた、名門でもあります。また、現当主のゼブルン侯爵は帝都憲兵総監の地位にあります」
「なるほど、そちらの線でしたか」
「つまり?」
世相に疎いソフィアが訊いた。
「こうか? 〝助けて、息子が死んじゃうの。なんでもするから助けて〟って、貴族様が地位に物を言わせて、統合参謀本部にねじ込んできたんだろ」
貴族社会の世間は狭い。
軍隊と同じように、上層ほど横同士の繋がりが強くなる傾向がある。
「もう帰っちゃおうか――なんか、やる気なくなってきた」
上官の肩に乗って、ソフィアは彼の耳を引っ張って叱る。
「まだ、始まってもいないのに帰っちゃ駄目」
一段落したところで、シニアが言う。
「さしあたっては、現在地の座標を記録して先に進みましょうか」
食事休憩を兼ねた大休止をはさんで、小隊は3つに分散して移動をはじめた。
突撃分隊、アルファ・チームがひとつ。
監視と援護に就くブラボー・チームを2つに分けるという編成を、ヨハンが通達してくる。
「アルファを、大尉がご自身で率いるんですかっ!?」
ミリアムは分担の割り振りを聞いて驚いた。
小隊とはいえ、通常なら指揮官は中央で全体の統制を行うものだ。
「人手不足だもんな――とにかくOP2での監視は、お前さんに頼んだぜ。なにかわからないことがあったら、すぐに1等軍曹のメイソンに訊けよ」
ヨハンはそう言うと、部下を率いて行ってしまった。
「……」
彼の背中が遠ざかると、ミリアムは少しだけ心細くなった。
あんな上官でも――何度か助けてもらううち、知らない間に頼りにしていたのだろうか。
彼女は僅かに芽生えた不安を払拭するために、部下の前で威儀を正す。
「メイソン1等軍曹」
自分の倍以上の年齢の、肌の黒い先任の下士官を呼んだ。
「はっ」
「我らも監視所に進む――先導を頼めるか」
突撃分隊――アルファ・チームは予定の場所に到着した。
部下たちに簡易陣地の構築を命じたヨハンは、将校偵察に出た。
その護衛としてホーキンス2等軍曹を伴って、双眼鏡を覗いている。
隣にいる部下が言う。
「大尉――包囲は完了したようですぜ」
「イマイチ、気分が盛り上がんねえよ――助ける相手が、むさ苦しい男なんかじゃなくて。顔が良くてスケベな身体をした女騎士だったら、やる気も出るんだが」
「ですよね」
ホーキンスが頷いた。
「PIDを目視で確認――っと」
「こちらでも確認」
ヨハンとソフィアが口々に、救出対象者が本人だと認めた。
救出対象の白金級冒険者。
ルートヴィヒ・フォン・ゼブルンは――白銀に輝く特注のフルプレートメイルに、両手持ちの戦斧という時代錯誤も甚だしい武装で戦っている。
その相手もまた、古代に造られた〝守護者〟と呼ばれる異形の自律機械人形――ゴーレムだ。
先ほどから、ルートヴィヒは足場を使って跳んでは、上段から戦斧を振り下ろしている。
だが、ほとんど有効打を与えていない。
「あらら――手数で押し込まれちゃってるな。ところで、なんかアイツ、妙に叫んでないか? エターナルなんとかって、なんだ……?」
「さあ?」
隣の部下もまるで見当がつかないようだ。
「同じ詠唱の繰り返し? 戦士なのに?」
ヨハンの肩に立ちながら、ソフィアが言った。
ホーキンスは何かに気づいたように、思いつきを口走る。
「もしかして、技名では? 彼の個人技の」
「んなアホな」
ヨハンは思わず呟いた。
その横でこんどはソフィアが観察結果を告げる。
「彼は技を繰り出すたびに、全身が緊張している」
「マジかよ……」
「そのせいで、攻撃がワンテンポ遅れてるってわけですかい」
「ん」
部下たちとルートヴィヒの戦いぶりから得た印象を確認し、状況を把握したヨハンたちは偵察を終了した。
突撃分隊が待機している場所まで戻っていく。
「あの馬鹿たれは――正義の味方が変身するまで攻撃してこない、ヒーロー物の敵の次に賢いみたいだな」
それを聞いたホーキンスが失笑を漏らした。
「なにそれ?」
人間界の娯楽に疎いソフィアが訊いた。
「俺がガキの頃に再放送で人気がでたんだが、ミスター・エックスっていう車椅子に乗ったハゲの……」
ヨハンが雑談に付き合おうとしたところで、ミリアムからの通信が入る。




