第11章 海とソフィアのえにっき・リプレイ 01/07
ハーレークイン小隊に、少し早い夏休みが与えられた。
エリザベス号が保養地に停泊したところで彼らは下船し、南国の街の中に繰り出していく。
帝国の中でも、この保養地は最も戦場から遠い街だ。
海軍にとっては重要な拠点でもある。
半島から突出した小島は、まるごと海軍の基地となっている。
そこはかつて、交易の中継を担う結節点として栄えた歴史がある。
ホテルのロビーで、ハーレークイン小隊の面々は部屋の鍵を受け取り――以降は、1週間後の再編成まで軍務から解放された。
《こんなことを言いたくないんだが――貴官は頭がどうかしてるのか?》
ヨハンはホテルの端末水晶を借りて、第99連隊基地に口頭で報告を行った。
その結果。
当然、彼は基地司令であり――直属の上官、ボーマン大佐から叱責を受けている。
「しかし、任務は無事にこなしましたので……」
《無事っ!? いま無事と申したか? おかしいのは私の耳か? やはり貴官の頭か!》
「俺の頭はいつでもハッピーセットです――大佐殿」
《茶化すな! うつけもの! 勝手に統合参謀本部の警備計画を無視した結果、どれだけ多くの同僚や友軍、関係各機関に迷惑をかけたと思うっ!? 独断専行にもほどがある! メイ中佐が、私と同じく兵卒から成り上がった苦労人で――話のわかる人だったからよかったものの。門閥貴族のお歴々であったら、小隊はおろかこの基地の全員が更迭されているところだ》
エリザベス号がハーレークイン小隊によって武装占拠された件は、統合参謀本部が帝国政府を通じて――海運会社と話をつけたらしい。
また、被害総額を上回る寄付を受け取ったこともあり――海運会社は〝なかったことにしたい〟という、統合参謀本部の意向に納得した。
有り体に言えば、法外な口止め料に屈したということだ。
これで、公的にはハーレークイン小隊ならびに――その指揮官であるヨハンは、幸運にも処分の沙汰を免れることができた。
そもそも、陸軍の上層部は議会の主戦派と水面下で結んで――魔界連邦の代理人、サムエルを暗殺しようと目論んでいた。
この情報は、当初は半信半疑だったものの――実際に彼が帝国にやってくる直前に、ほぼ事実だと別の情報源から明らかになった。
具体的にいうなら、それはヨハンの養母で――帝国太傅たるマイアによって、もたらされたものである。
目的は消化不良に終わった、世界大戦を再び仕掛けることだ。
ハイジャックが暴挙なのは間違いない。
だが、全ては暗殺を阻止し――〝神姫〟ヴィクトリアが進めようとする、講和交渉の流れを淀ませないためだった。
また、ヨハンは〝神姫〟より、サムエルを守るためには、
〝あらゆる超法規的行動を認める〟と、口頭で勅命を与えられていた。
彼にしてみれば、
〝手段を選ばず、命令を実行し任務を達成した〟と言いたいのだろう。
そして、直属の上官は〝そのことを知らない〟ということになっている。
要するに、この説教はおそらく盗聴しているであろう――軍上層部に対しての〝茶番〟にすぎない。
ボーマン大佐から訓戒を交えて、数時間ほど小言を聞かされ――ヨハンはようやく解放された。
部屋に戻った彼は、花柄の悪趣味な半袖シャツと膝丈のズボンに着替えた。
麦わら帽子を背負うように、紐を首にかけ――ホテルのロビーに降りてくる。
「夏休みってどうすればいいの?」
ロビーにいたソフィアが訊いてきた。
「お前さん、まだいたのかよ――他の連中と一緒に街に出たんじゃなかったのか」
「待ってた」
「誰を?」
妖精の少女は無言でヨハンを指差す。
それを受けた彼は茶化すように真似をして、自分を指差す。
「……」
無言で自分を見つめてくる、氷でできたルビーから目を逸らして――ヨハンは言う。
「夏休みなんてビーチのパラソルの下で、マイタイでも飲りながら、ヤシの木の向こうにいる――水着のプレイメイツを眺めてりゃ、あっという間に終わるもんだ」
「それだけ? 眺めて終わり?」
「メインディッシュは水着の〝中身〟だが、味見の前に鮮度を見たり――いろいろあるんだ♡」
「それで、どこに行くの?」
行くあてがないのか、以後もソフィアはヨハンに同行する。
「ついてくんなよぉお」
「駄目――私はヨハンに従う契約で軍に入った。だから、あなたは常に私を従えているべき。でしょ?」
ソフィアはきわめて事務的な口調で言った。
彼女らしい主張だ。
帝都の外で極端に目立つ妖精族を、こんな場所で1人ぼっちにしておくのは――トラブルの元になる。
ただ、引率者をもう少し彼女は検討すべきだろう。
頭ではわかってるはずだが、ヨハンはたまらず反論する。
「休暇は例外だ!」
「恣意的な解釈で、契約を無効にしちゃだめ」
「マジぴえん」
断りきれず、彼はこれからソフィアを連れ回すことになった。
「行き先は? 好きに決めさせてあげる」
ヨハンの肩に腰掛けたところで彼女は言った。
「夏の観光地でやることっていったら、決まってんだ――まず、かき氷を食べてカジノでひと稼ぎ。次にポケットから溢れた金貨に物を言わせて女遊び♪ いつもの60分コースじゃなくて、90分でな。それも4人パーティで♡ スッキリしたとこで、割高で不味い名物を食って、風呂に入ってバーで寝酒を腹に入れて昼まで寝落ちってな」
「ふーん?」
彼なりの夏休みの過ごし方を、ヨハンは得意げに披露した。
軍人の休暇といえば、こうだと言わんばかりに。
ヨハンの計画は、中身はともかくとして――特別休暇を与えられた軍人らしいと言えばらしい。
彼ら職業軍人というものは、大抵――街に出て騒ぎたがるものだ。
軍人、特に最前線から生還した軍人たちは――自分の命が儚いことを身にしみて知っている。
だからこそ、現世で享楽的に振る舞いたがる。
ミリアムのように、静かに内省しようとする者は――士官であっても、実のところ少数派だ。
「そんなのが、楽しいんだ」
そして、妖精の少女の反応は冷ややかだ――いつも通り。
「楽しいかつまらないか、やる前から知ってるのか? 〝叡智〟のメスガキちゃんはHだな♪」
ヨハンは言った。
ソフィアの名前の由来をからかって。
「ん」
不品行を泥水で煮詰めたような〝予定表〟に、彼女はどこまで付き合ってくれるのだろうか。
すぐに呆れてヨハンを見放し、妖精族らしい奔放さで――どこかに遊びに行くかもしれない。




