↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハーレークインたちの外交儀礼――素行不良の大尉が、妖精と女騎士に挟まれ、兵隊を率いて「ヒャッハー」したら……なぜか魔界との戦争が遠のいた  作者: Fughse
第10章 ハイジャックのチケットは片道切符

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
65/109

第10章 ハイジャックのチケットは片道切符 05/08

挿絵(By みてみん)

 副官の女騎士と違って、この素行不良の上官には〝罪悪感〟というものがないのだろうか。

「よくやった――みんなにも言っておいてくれ。ブラボー・チームとお前さんは、先に休んでろ」

 ヨハンはミリアムに言った。

「……はい」

「PIDの照合が済んだら、死体は早めに片付けよう――霊安室があるだろ? シニア、ブリッジに案内を頼む」

「はっ」

 ヨハンは食堂にミリアムを残して、シニアとともに通路の階段を上がっていく。


「……君が主犯か」

 船長を務めるヒル氏は62歳だ。

 平民出身ながら、若くして帝国海軍の士官学校を出て――55歳で掃海艦の艦長を最後に、少将に昇進して退役した。

 以後、海運会社に籍を移し後進を育成し――エリザベス号の艦長には5年前に就任した。

 ヨハンの年齢よりも、遥かに長く海で生きてきた男は――首謀者の若さに驚きを隠せないようだ。

「これから、あんたらの拘束を解くが――指示に従ってもらうのが条件だ」

「よかろう」

「……」

 ヨハンが頷くと、部下たちがヒル艦長をはじめとした――乗組員を縛っている樹脂の結束バンドを切っていく。

「君たちは何者だ? 目的はなんだね?」

 ヒル船長は訊いた。

「帝国陸軍第99連隊直属の第1小隊、指揮官のスミス大尉――この船を占拠した目的は、魔界のVIPのPSDだ」

「魔界の……?」

 ヒル船長は片方の眉を動かした。

 彼は、上着のポケットからパイプを取り出して言う。

「それにしても、まさか正規軍とは――君たちは同胞の船をハイジャックしたのだぞ? わかっているのか? これがどれだけ重罪か。いったい、誰がこんな暴挙の許可を出した? まさか統合参謀本部の直命とでも言う気か? 〝ルテナン〟スミス」

 船長は嫌味のつもりか、敢えて海軍式の呼称で言った。

「あんたの、クソ度胸に免じて〝上〟が誰か教えてやってもいいぜ――統合参謀本部じゃない。もっと上の、そのまた上だ」

 統合参謀本部の上部組織は、帝国政府中枢の内閣であり――その〝上〟となれば〝神姫〟しかいない。

 遠回しに彼は〝勅命を奉じている〟と言ってきた。

「……まさか」

 ヒル氏は息を呑んだ。

 ヨハンは背後に控えているシニアを振り返った。

「上級曹長、ブリッジに〝エンジェル〟をお連れしろ」

 しばらくして、部下に護衛されたサムエルが艦橋に現れた。


「やあ」

「……あなたが彼らを?」

 サムエルに向かってヒル船長は訊いた。

 魔界の貴公子は、

「いやいや――僕はお荷物だよ」と自分を卑下した。

「失敬、ご両人とも」

 その間にシニアが割り込んだ。

 上級曹長が改めて紹介する。

「ヒル船長、もとい退役少将閣下――こちらはサムエル殿下。魔界連邦の中核州を治める藩王陛下の公子殿下にして、こたびの帝国と魔界連邦の講話条約締結における、全権代理人であり外交特使であらせられます。殿下は現在、正体不明の〝敵〟にお命を狙われており、一刻も早く国外脱出を図る必要があります。このたびの作戦行動は、高度に政治的な問題が背景にあるものとご理解ください」

 ヒル船長は、艦長席のわきに置いてある――昨夜の夕刊を一瞥した。

 おそらく、そこの1面にはサムエルの電撃訪問の記事が載っている。

 また、社会面までページをめくれば――彼の直衛として、ヨハンの写真も見つかるはずだ。

「要求は殿下が御自ら行う――どうぞ」

 ヨハンに促されて、サムエルは前に進み出た。

「乗船を許可してくれたまえ――僕と連れが2人。それと、彼ら帝国軍人は合わせて30人だ。そして、ただちに外洋に向けて出港してもらいたい。目的は先ほども上級曹長が言った通り、僕の国外脱出だ」

「……」

 間もなく、ヒル船長は伝声管を通じて――機関室にエンジンを始動するように命令を発した。

 そして数時間後、ハーレークイン小隊に武装占拠されたエリザベス号は――汽笛を鳴らして出港した。

 港湾局の哨戒艇や帝国海軍の沿岸警備艇は、その快速にことごとく追いつけず。

 飛竜の戦闘行動半径を突破して以降、彼らの足取りは途絶えてしまう。

 その直前になって、ヨハンはエリザベス号の通信担当士官――スチュアートに言う。

「上の飛竜に打電を頼む――〝エンジェルはハーレークインとともにあり〟って」

「……はい」

 スチュアートが信号を送ると、ヨハンは肩の上に立つ妖精の少女――ソフィアを見た。

「確認――でも、彼は同時に救難信号と、私たちの人数、この船の状況を知らせた」

「スチュアート! 余計なことはするな!」

 ヒル船長が、しわがれた声を張って――ヨハンたちに向き直った。

「部下の不始末をお詫びします、大尉――しかし、彼は船の運行には欠かせない人材です。この場はどうか収めてもらえますか?」

 ヒル船長は、部下に危害をくわえられることを危惧したのだろう。

 彼からすれば、ハーレークイン小隊は陸軍の愚連隊であり――ハイジャック犯なのだから、無理もない。

「いいって、船長――あんたらの方から言った方が、軍も信頼しやすいもんな。うちから送ると〝なぜか〟信用されないんだよ」

 彼は白々しく言って、ポケットから細巻きを取り出して火をつけた。

 ヒル船長は落ち着きを取り戻して言う。

「大尉にいま一度、確認をします――南洋から大河を遡上し、魔界連邦側の領海に。とのことでしたが、2つ問題があります」

「問題?」

 ヨハンが訊くと、ヒル船長は席から降りた。

 それから、海図の前に案内した。

「補給が必要です――今回の航海計画では、南洋の保養地を経由して、そこであらためて物資や燃料を補給し、外洋の島々を巡る予定でした。物資は、我々だけとなれば充分でしょうが、航続距離を考えますと、このままでは大河の途上で重油が尽きてしまいます。ましてや、往復など不可能です」

「おそらく、小官もそうなるかと――いえ、船舶については門外漢ですが。洋上ならばまだしも、大河での立ち往生は憂慮すべき事態です」

 この場の人間で、ヒル船長ともっとも年齢が近いシニアが言った。

「往復航行が可能な範囲はどこまでかな?」

 やりとりを見守っていた、サムエルが訊いた。

「この保養地の南西――約500海里が限度かと。到着までは2週間を要します」

「なら、そこに迎えに来てもらうよ――友人に」

「は? お前さんにそんなのいるのかよ?」

「失敬な――かの英雄サムソンだって、僕のよき友だよ」

「そいつ〝ペリシテ人絶対殺すマン〟じゃねえか! そんなヤバいやつに迎えに来られて、たまるかよ」

「おさげを解いてあげれば、大人しくなるよ――覚えておきたまえ」

「いっそ丸刈りにしちまえ」

「そんなことをしては駄目だ――当代のは、かわいい子なんだから」

 周囲からの呆気にとられる視線を気にせず、ヨハンとサムエルは雑談に興じていたが、

「お2人とも、そこまでに」とシニアに窘められた。

 サムエルはヒル船長に向き直って訊く。

「……それで、もうひとつの問題とは? おそらく補償の件かな?」

「は――殿下のご明察の通りです」

 ヒル船長は頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。