第10章 ハイジャックのチケットは片道切符 04/08
「ブラボー・チーム! 我に続け! 左にピール・ムーブしつつ、展開して吹き抜けを掃討! 右上にいるのは味方だ! 誤射に注意!」
別働隊が動き始めたからには、もう後戻りはできない。
閃光音響手榴弾を放って、1秒半で信管が炸裂。
ミリアムも覚悟を決め、突入した。
強烈な閃光と轟音が響くものの、敵は全く怯まない。
しばしば勘違いされるが、閃光音響手榴弾が至近距離で炸裂しても――人間は気絶もしないし、閃光で失明することもない。
それどころか、敵が高度に訓練されているのなら――構わず反撃してくる。
暗い吹き抜けの広間は、無数の閃光が明滅する。
1つは銃の発砲炎、1つはハーレークイン小隊が銃にとりつけた――強力なフラッシュライトの光だ。
「!」
ミリアムの片目が、構えた銃の照準と重なる。
そして、フラッシュライトの光に照らされた――標的の影を捉える。
彼女は、目の焦点を照準に合わせるよりも早く、光の中心が敵に重なった瞬間――引き金を素早く絞った。
3発の銃声と反動が肩を叩く。
直後にライトを消し、再び点灯――仲間たちも同じように、一瞬だけ照らしては消す。
背後から続いた部下が、倒れた敵に2発――追い打ちをかけた。
ブラボー・チームは、左に並行移動するように――横に展開していく。
先行して、吹き抜けの1つ上の階から突入した――シニアのチャーリー・チームは、射手と弾薬手を排除し、2門の軽機関銃陣地を無力化した。
〝敵〟の武装警備員を半包囲する形で、彼らはその場で武装警護員の全員を射殺した。
「右クリア!」
「左クリア!」
「オール・クリア!」
「……」
照明が戻った。
「シエラ・ナイナーへ――こちらブラボー・チーム、セブンだ。敵を無力化。アルファ・チームの誘導を開始せよ。ブレイク、これより〝トリポリ〟を制圧する」
《ブラボー・チームへ――シエラ・ナイナー、了解。アルファの誘導を開始した。ブレイク、声が変だけどWIA? ミリアム少尉》
「いいや――大丈夫だ。フラッシュ・バンの煙を吸い込んだせいで、喉がおかしい。ブレイク、負傷者なし。ブレイク、セブンよりファイブ。そちらの状況は?」
女騎士はとっさに嘘をついた。
同僚の、妖精の少女に――余計な心配をかけたくなかったのだろうか。
間もなく、呼びかけたシニアからも応答がある。
《セブンへ――こちらファイブ。オールクリア、負傷者なし。現在地は〝トリポリ〟の前です。どうぞ》
「セブン了解――1分で合流する。アウト」
シニアのチャーリー・チームと再編成を果たした。
ミリアムたちは、艦橋に閃光音響手榴弾を2つ投げ込んで――一瞬で制圧した。
船長以下、甲板部士官9名と乗員の15人の拘束は――1人の死傷者も出さずに進んだ。
海上を翔ぶソフィアが、港に入ってくる黒塗りの豪華な無地の馬車――貴族が〝夜遊び〟に使用する車両を目で追う。
「アルファ――グリーンライト、グリーンライト」
サムエルを護送する、ヨハンが率いるアルファ・チームの到着だ。
《あいよ――メスガキちゃん。音楽スタート、ポチッとな♡》
「音楽?」
馬車の御者席からは、脳天気な曲が漏れてくる。
例によって、素行不良の小隊長は――私物の真っ赤なラジカセを持ち込んだようだ。
特に意味もなく。
ジェレマイアがへべれけだ♪
野郎はダチの1人なんだが♪
御託ばっかりほざいててさ♪
黙らせるためワインを奢る♪
最高の1樽を土産にくれた♪
さあ諸人こぞりて歌おうぜ♪
世界中に酔いのお裾分けだ♪
子どもたちを寝かしつけて♪
海で溺れる魚たちより先に♪
この世で酔っ払って祝福を♪
さあ諸人こぞりて歌おうぜ♪
《もし俺が裸の王様だったら♪ なにをしでかすかわからん♪ 車も酒場も戦争も放り出す……♪》
「うるさい」
ソフィアが文句を言ったところで、ちょうど――音楽とヨハンの歌声も止まった。
馬車は港の警備をしている、海軍の衛兵に止められたようだ。
端末水晶を通じて、ヨハンの〝御託〟も聞こえてくる。
《よお、よお、よお――ポパイども。魔界の王子様のお通りだぜ♪ なに止めてんだ? 道をあけろよ、馬鹿ども♡》
彼はそれから魔界連邦の特使こと、サムエルが部下たちとともに――エリザベス号で本国に帰還するのだと、それらしいことをまくしたてた。
〝魔界連邦の藩王公子殿下は、昨日と同じく列車で本国に帰還する予定だ――と聞いている〟
海軍の警備兵たちは生真面目に、そう反論した。
しかし、
《なんなんだお前ら、セーラー戦士どもは? 月に代わって〝お仕置き〟するぞ! ホテルの爆破が起きただろ! うちらの情報が漏れてんだよ――あと、列車での帰還は〝囮〟だ。ほら、警備計画責任者の、メイ中佐からの命令書を見ろ。出来立ての本物だぜ》
ヨハンはそう言って、ソフィアが偽造した命令書を提示した。
単に港を警備しているだけの、海軍の警備兵たちには判断できない問題だろう。
〝上官に確認をとる〟
そう言った相手に、
《いいぜ――こっちも、お前さんの名前を上に報告するから。それとも何か? 俺たちを足止めしてるってことは、さては、テロリストの仲間ってことか? 違うんなら! 早くどけよ! おらぁぁ!》
彼は喚くように因縁をつけて、海軍の警備兵を困らせた。
《ヒャッハーして、無理やり押し通ってもいいが――それじゃ、お前さんたちの立つ瀬がないだろ? どうする?》
間もなく、偽造した命令書が〝本物〟だと――確認がとれた。
こうして、ヨハンは〝何事もなく〟サムエルをエリザベス号に護送することが出来た。
「状況報告を頼む」
サムエルを連れたヨハンが、艦橋の下の階にある士官用の食堂で――シニアとミリアムに訊いた。
「さきほど、上級曹長が申しました通り――こちらに被害はありません。ただし、乗員の中に犠牲者が出ました」
ミリアムは武装した警備員とはいえ、民間人の被害が出たことに――見るからに憮然としていた。
半ばヨハンを責めるような、棘のある口調だ。
騎士の家に生まれ育った、彼女の生真面目で誠実な人柄を考えれば無理もない。
隣のシニアが補足する。
「彼らがブラボーを待ち伏せし、釘付けに――やむを得ませんでした」
それを聞いた指揮官は、
「傭兵は死ぬのも給料のうちだろ? 気にすんな――ただ、俺たちと〝履いてるブーツが違う〟だけなんだから」と辛辣に吐き捨てた。
ヨハンは周囲を見回して、部屋の隅に並べてある死体を見た。
「これは誰が撃った?」
「小官であります――大尉」
ミリアムが1歩前に出た。
「いいとこに当てたな――上達してて偉いぞ」




