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ハーレークインたちの外交儀礼【隔日夜更新】  作者: Fughse
第9章 良いニュースと悪いニュースがある

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03

挿絵(By みてみん)

 新聞社の特派員たちから、サムエルには矢継早に質問がぶつけられる。

「殿下――護衛をお連れなさらなかったのは、なぜでしょう?」

 記者の1人に訊かれた魔界の貴公子は、ヨハンの腕を掴んで――文字通り〝盾〟にして答える。

「それは、この彼のせいさ――僕の近衛を務めていた中隊が、過日の戦闘で壊滅させられて。人員の補充が間に合っていないんだ。昨日の敵が、今はこうして僕を守ってくれている。人の縁とは、なんとも不可思議な運命が司っているのかな? これは我が連邦と帝国の復縁を予言する、兆しかもしれない」

 先日のことだ。

 帝国軍の一部が、自国領土内でダムに化学物質を混入させ――それを魔界の仕業とする、偽旗作戦を画策した。

 それを、サムエルたちが察知したらしい。

 彼は自ら近衛兵を率いて、帝国軍の部隊を撃滅した。

 そこに、正体不明の敵に攻撃を受けたとして――ヨハンたちハーレークイン小隊が、偵察と確認に来た。

 不幸な遭遇戦の末に、ヨハンたちは――サムエルの近衛兵を、空軍から派遣された飛竜たちの近接航空支援で排除した。

 ハーレークイン小隊を無力化するため、サムエルは極大呪文を発動しようとした。

 だが、肝心の――偽旗作戦に帝国が使おうとしたダムが、戦闘の巻き添えで破壊されたため、撤退した。

 ダムを破壊したのは、空軍の飛竜の爆撃だが――誘導したのはヨハンだった。

 この出来事をきっかけに、彼らの間には――奇妙な縁が生じた。

 サムエルは、日付と具体的な出来事を誤魔化しつつ話した。

 おそらく、悪気はない。

 しかし、当然ながら――このことでヨハンは機嫌を悪くした。

「スミス大尉! 今の王子殿下のお言葉の真偽について、お答え願います!」

「軍事機密に関わる――個別の作戦活動に関する質問に答える権限を持っていない。それよりお宅の新聞、いつになったら、あのクソ漫画の作者をクビにするんだ?」

「それが外国の王族を警護する近衛の態度ですかっ!?」

「帝国陸軍の品位を疑われてしまいますよ!」

「うっせえばーか! ローガン――鉄のカーテンをおろせ」

 ヨハンは質問を無視して、部下に命じた。

 ローガン1等軍曹は、ハーレークイン小隊の中でも屈指の体格と膂力の持ち主だった。

 その彼には、巨大な鉄板を削り出した――即席の防弾盾を持たせてあった。

「おっと手が滑った」

 ローガンが白々しく言って、食い下がる記者のつま先に鉄板を落とした。

「っ――」

 記者が息を呑んだ、直後に彼は悶絶してその場で崩れた。

 1枚につき重量が20ポンド、それを〝鉄のカーテン〟は2枚使用する。

 総重量は50ポンドで、正面は至近距離の小銃弾はおろか――重機関銃の直撃にも、1度は耐えられる鉄塊だ。

 そんな代物が、革靴の爪先に落ちてきたら――骨折は免れないだろう。

 とはいえ、不躾な質問を重ねてくる記者は――これで何人か減らせた。

「今のうちです――殿下」

 ヨハンは部下とともにサムエルを囲んで、半ば強引に移動を再開した。

 護衛は〝概ね〟順調だった。

 駅での記念撮影を経て、戦没者慰霊の共同墓地での献花と黙祷を行った。

 サムエルは王族に相応しい、完璧な礼儀作法と所作で――特使としての義務を果たしていく。

 この式典で、もしも敵が狙うとしたら――超長距離による狙撃だと、ヨハンは推測した。

 並の狙撃手が〝普通の〟ライフルで狙撃できる距離は、800ヤードだという。

 しかし、魔族のそれも〝使徒〟を狙う人間が、普通のライフルを使うわけがない。

 対戦車ライフルか、50口径の重機関銃を改造した武器が想定された。

 ヨハンたちは軍議の席で、

〝1クリック半の範囲が危険区域だ〟と事前に進言した。

 しかし、人手不足と帝都の混乱を避けたい憲兵本部から――全ての建物の封鎖と、市民の強制退去は却下された。

 やむを得ず、ミリアムの指揮するブラボー・チームを3手に分けて――最も狙撃に適した、建物の最上階と屋上を急襲させた。

《シックスへ――ブラボー・チームのセブンです。屋上、最上階ともにオールクリア。空振りです》

 しかし、その懸念は外れ――慰霊の式典は滞りなく進んだ。

 肩透かしを食ったような気分だった。

 ただ、それよりもサムエルの行動がはるかに彼を疲れさせた。

「次はこちらです」

 ヨハンが彼を案内しようとするたび、

「うん♪」とサムエルは素直に頷いた。

 しかし、魔族の王子は遠巻きに見守っている見物客に向かって――無造作に歩きだす。

「ファっ!?」

 ヨハンは慌てて、小走りで彼の背を追いかけた。

「ごきげんよう――帝国市民諸君。僕はサムエル、魔界の魔族だ。帝国と我が祖国がもう戦争をしなくて済むよう、話し合いを進めるのが僕たちの望みだ」

 浅黒い肌の美少年は、群衆に向かって親しげに語りかけながら――事前に憲兵隊が張り巡らせた、仕切りの綱を跨いでいく。

「……」

 サムエルが近づくと、群衆たちは同じ距離を保って――遠ざかってしまう。

 その反応を見た彼は、気分を害した様子もなく――微笑して語りかける。

「まるで〝未来〟のようだね――近づけども、決してたどり着けない。でも、歩み寄る努力と対話は続けよう」

 彼は穏やかに――諭すように言った。

 あるいは自らに言い聞かせるように。

 ほとんどの帝国の人間が、魔族を初めて目の当たりにして――恐れと好奇の間で、気持ちが揺れているのだろう。

 サムエルは集まっている人々に向かって言う。

「君たちの中には、魔族を憎んでいる人もいるだろう――あるいは懐中に短剣を忍ばせているかもしれない。それもいい。憎むことも敵を殺そうとすることも、自由だ。ただ、僕としては友好的でいたい。そのことを知ってもらう、これが初めの1歩となれたら嬉しく思う。詳しくは、明日のタブロイド紙を読んでみたまえ。一部1ペンス2ファージングで売ってるから。ただし、マンガはこの護衛の彼いわく〝クソつまらない〟らしいね♪」

 その即興のスピーチは、レセプションでスピーチライターの原稿を読み上げるより――はるかに、帝国市民の心に刻まれたのではないだろうか。

 こうしたことを平然と、自然体で行う――屈託や悪意のない王族ほど、外交上の強敵はいない。

 おそらくだが、この後に控える講和交渉で――帝国の外務省の事務官たちは苦戦を強いられるだろう。

 魔界の連邦政府は、彼の〝個性〟を知った上で――サムエルを特使に任命したのか。

「……殿下、どうぞこちらに」

 眉間とこめかみに皺を深くしながら、ヨハンは言った。

 行く先々でこの調子だ。

 このため、政府官邸での昼食会は――予定を1時間ほど遅らせて始まった。

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