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ハーレークインたちの外交儀礼【隔日夜更新】  作者: Fughse
第9章 良いニュースと悪いニュースがある

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04

挿絵(By みてみん)

 昼食会の次は、そのまま官邸の会議室に場を移す。

 そこで、サムエルが連れてきた官僚たち――帝国の外務省の役人の顔合わせを兼ねた、実務者協議の初回が行われた。

 当然ながら、サムエルも魔界側の全権代理人として――その場に同席する。

 初回は現状と互いの要求事項の確認に終始するため、さしたる問題もなく進行していく。

 会議室の廊下で待機するヨハンが、

「官邸で仕掛けてくるような、アホがいいな――そしたら、馬鹿の半分をこの世から一掃できるぜ♪」と不穏なことを言った。

 会議室の中にいる〝権力者たち〟と、講和を妨害しにくるテロリスト――両方を始末したいようだ。

 だが、ここでも大した問題は起きなかった。

 続く、戦災孤児育英のための養護施設の視察。

 そこでは、過激な市民団体が抗議のために乱入してくる〝茶番〟があったくらいで――銃声も爆弾も鳴りを潜めていた。

「あー、きっつ」

 馬車の中で、ヨハンは冷水で濡らしたハンカチを両目に当てている。

 早朝からずっと、周囲に気を配ったり――ビルの屋上に狙撃手がいないかを見たりで、彼は目を酷使していた。

「外交とは忍耐の連続だ――それに今回の進行は僕の経験では、かなり上手く行っている方だと思うよ」

 夕方。

 ヨハンとサムエルは、魔界連邦と帝国のバナーを掲げた――陸軍の大型馬車から降りた。

 この日の滞在先は、帝国の中でも最も新しいホテルだ。

 建物としてもかなり巨大で、20階建というだけでも――この国では稀に見る高層建造物だ。

 屋上には飛竜の発着場まで設えられている。

 ホテルの中は地階から5階まで、吹き抜けの商業施設で――6階に宿の受付とラウンジがある。

 そこには、軽食を出す喫茶店も併設される

 6階、宿の受付までは――エスカレータという、階段状のリフトが設置されている。

 低層と高層で、乗るエレベータも分けられている。

 最上階のスイートを使う要人のために、20階にしか止まらないものもある。

 それに乗り込むためには、専属の係にルームキーの提示が必要だ。

 その特別エレベータの前を、ヨハンたちは素通りした。

「いいのかい?」

「厨房の先にある貨物用を使う」

「ああ、なるほど――今日はご苦労だったね、スミス大尉」

「まだ終わってねえよ」

 ヨハンの言う通り、レストランの奥には――各階に物資や従業員を運ぶエレベータがある。

 武装護衛隊のブラボー・チームとして、先行してホテルの内部を確保した――ミリアムに彼らは出迎えられた。

 ヘルメットをはずして、彼女はそれを小脇に抱えつつ言う。

「報告いたします――20階を確保。18階以上の各部屋は、予定通り宿泊客の退去済です」

 副官の女騎士は敬礼して報告した。

「了解した――少尉、メイソンと代わって少し休め。おつかれさん」

「は――大尉」

 2人の話が終わると、サムエルが前に出た。

 魔界の貴公子は、胸に手を当てて――略式だが礼儀正しく挨拶をする。

「僕の名はサムエル――魔界のしがない魔族だ。君が元気そうでよかった。過日は被弾してて、話す暇はなかったからね」

 サムエルの態度は、旧知の友人にでも言うように――親しげだった。

 彼が言う通り、初めて両者が対峙したときは戦場で――その際にミリアムは敵弾によって負傷していた。

 彼女を撃ったのは、魔界の貴公子に仕える近衛兵だった。

「恐縮であります――公子殿下」

「マスコミの前じゃないんだ――そう、畏まらなくて大丈夫だよ。ええと、シメオン少尉だったね? 戦闘服もいいけど、いずれは舞踏会で晴れ着も見てみたいな。君の美しさに目を奪われ、みんなダンスどころではなくなるだろう」

「マジかよ――今畜生」

「大尉っ! 弁えてください!」

「んん?」

 サムエルが首を傾げて、ヨハンの顔を仰いだ。

「誠に不本意ではありますが――小官も殿下のご見識に賛同いたしたく存じます」

 ドレスをまとったミリアムは、さぞかし見目麗しく――夜会で映えるだろう。

 この魔族の少年の座興に、素行不良の隊長も同意した。

 ヨハンが威儀を正して、そう言ったこと――それ自体が悪ふざけを助長した。

 ミリアムが時間を止められたように瞠目し、

「あはは」とサムエルは笑い出した。

「……お戯れはそこまでに願います」

 生真面目な女騎士は踵を返した。

 ヨハンたちはあえて19階で降りた。

 別のエレベータで先行した、アルファ・チームの部下と再合流し――こんどは非常階段で20階にあがる。

 一見、無駄ともとれる不規則な行動をするのは――待ち伏せや罠を警戒しているためだ。

 宿泊予定の下の階で、いったん降りるように助言したのは――小隊軍曹であり、上級曹長のシニアだ。

「貨物エレベータで、20階にあがることは稀です――小官なら時計と連動する仕掛けで、標的が到着したら〝箱〟ごと爆破します」

 無人のフロアは当然ながら静かそのものだ。

「室内、クリア!」

「オール・クリア!」

「安全確保――大尉、どうぞ」

 ヨハンは部下に先導させて、サムエルの部屋をあらためて制圧してから――入室した。

「君も少し休むといい――僕もちょっと疲れたよ。ああ、せっかくだから夕食を一緒にどうだい?」

 ヨハンは懐から紙入れを取り出した。

 中からけばけばしい、スパンコールの施された名刺のような紙を指で挟んで――オリエント様式で造られた紫檀のテーブルに置く。

「これは?」

「誰かと一緒にいたいんなら、そこに連絡しろ――頭と股の緩い女が寄ってくるぜ。ただし、金だけはたっぷり用意しとけ」

 彼は意地悪そうな口調で言った。

 だが、サムエルにはまったく通じない。

「へええ――なるほど、帝国にも娼館はあるんだ。一度、行ってみたいと思っていたんだけど。皆に駄目だって言われててね」

「シエラ・チームへ――シックスだ。ハーキュリーズを、LZ〝ワシントン〟に降ろせ」

《シックスへ――シエラのファイブです。ハーキュリーズと向かいます。ETAは3分。シエラ、アウト》 

 ヨハンはシニアを呼んで、上空で待機している飛竜を屋上につけるように命じた。

 彼らはそれに乗って、ホテルからほど近い――川沿いの安宿に移る。

 ハーキュリーズのキャビンの中で、ヨハンはシニアに訊く。

「で、花火のリサイクルは出来たんだよな? シュミットとベイツがはりきってただろ?」

 その2人は、ハーレークイン小隊において――爆発物の取り扱いを専門とする。

「全て予定通りです――大尉」

 上級曹長、シニアは短く答えた。 



 真夜中。

 地震のような衝撃とともに――仮眠用にとった、川沿いの安宿のベッドにいたヨハンは目を覚ました。

「あーらら――こらら♪ こりゃ、大変だ」

 窓から外を見る。

 帝都の誇る高層ホテルは、サムエルが宿泊しているはずの20階から屋上にかけて――丸ごと爆薬で吹き飛ばされたのだとわかった。

「おら! マスカキやめてパンツをあげろ!」

 ヨハンは拳銃を片手に、幼年学校の指導教官軍曹――ドリル・インストラクターの口調を真似しながら、隣のベッドを蹴飛ばした。

 同じ部屋にいた人物を叩き起こすために。

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