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ハーレークインたちの外交儀礼【隔日夜更新】  作者: Fughse
第8章 情けは人のためならず、魔族は撃つ

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挿絵(By みてみん)

「あくまで〝事情聴取〟というのが厄介ですね――逮捕となれば、法に則って弁護士を立てる権利を保証し、勾留期限も48時間と決まっていますから」

「こうなったら、憲兵隊にも圧力が及ぶ有力者に――助力を乞うべきではないか」

 ミリアムが言った。

 その〝有力者〟がマイアだということは、名前を出さずとも3人とも理解していた。

 ヨハンの養母にして、空軍の中将――貴族院議員、そして帝国〝神姫〟の守役たる太傅を2千年に渡って務める女傑だ。

 その権勢を〝悪用〟すれば、法も捻じ曲げられる。

 さらに、彼女には――もうひとつ心当たりがある。

 だが、できればそれには頼りたくない。

 なにより〝私的な目的のために〟法を悪用しては、自分たちの上官を陥れた――憲兵隊の一部と同じではないか。

 ヨハンならば、迷わず目的を優先するだろう――しかし、ミリアムは誇りを旨とする気高い騎士だ。

 時間だけが経過していく。

 伝令が執務室を訪ね――ボーマン大佐が呼んでいると告げた。


 再び、基地司令室に通されると――ミリアムは悪い知らせを受け取った。

 例の強盗事件において〝目撃者〟が現れたらしい。

 そして、その証言で――ヨハンの過剰防衛と私刑の容疑が固まったそうだ。

〝スラムの住人、4人を一方的に射殺〟

〝将校による、第1級殺人〟

〝最大量刑は1人につき30年――2人以上は死刑または終身刑〟

 明朝、正確には――数時間後に起訴される。

「このタイミングで目撃者の登場など、不自然であります――スラムの住人は、他人の犯罪行為に関わるほど、暇ではないでしょう。いわんや、憲兵隊が絡んでいるならば、誰も捜査に協力などしません」

「私は目撃者を当たる――いい?」

 ソフィアが言った。

「単独でスラムへ行かせるわけにはいかん――4人ほど連れて行け。武装は拳銃のみ許可する」

 ミリアムが頷いた。

「ん」

 妖精の少女は飛び出すように、執務室を出ていく。

 鈴の音とともに翅を揺らし、妖精の輝く粉が軌跡を残して遠ざかる。

 それを見送って、シニアが言う。

「小官は部下と〝夜間実弾演習〟の準備をしてまいります――大尉をお迎えに上がるかもしれませんので」

 ミリアムは瞬いた。

 この思慮深い、落ち着き払った上級曹長は――たった今、暫定の小隊指揮官であるミリアムに対して、

〝憲兵本部を急襲して、ヨハンを救出する〟と暗に言ってきた。

「……本気か? 上級曹長」

 彼女は思わず訊かずにはおれなかった。

「はい――少尉殿。責任は全て、小官がとらせていただきます。その代わり、大尉は必ず助けてご覧にいれましょう」

「……」

 シニアは踵を返して、執務室を出ていこうとした。

 その非の打ち所のない所作に、彼の覚悟が表れている。

 彼は本気で、小隊長を助けるために――自分の全てをかけるつもりだ。

 ヨハンはたしかに問題の多い、というより――常に厄介ごとの中心にいる、素行不良の上官だ。

 しかし、ミリアムの知っている限り――貴族出身の士官で、彼ほど下士官や兵たちに信頼されている軍人を見たことがない。

 それに、彼女自身もヨハンがいなければ戦死した場面が――いくつもある。

 これは、あの鼻持ちならない不真面目で不謹慎で覗き魔の嫌味な上官に――借りを返す好機だろう。

 ミリアムはそう考えて、自分を正当化した。

「待ってくれ――上級曹長」

「なんでしょうか? フォン・シメオン少尉殿」

「私の実家は伯爵家だ――父は貴族院にも籍を置き、法務尚書とも懇意にしている。どうにか、とりなしを頼んでみる。だが、それにはいま少し時間がかかる」

 ミリアムは言葉を選びながら、自分が何をするつもりか話した。

 シニアは頷き、上官の言葉を聞いた。

「夜明けまで待ちます」



 未明の空が白みはじめた頃。

 第99連隊基地にソフィアが戻ってくると、目撃者の情報を持ち帰ってきた。

 その人物がスラムの住人であること。

 住居に踏み込んだときには、既に失踪したことが報告された。

 さらに妖精の少女は、

「現地は〝消毒済〟だった」と付け足した。

「おそらく、憲兵隊の仕業でしょう――裁判まで、彼らのセーフハウスで軟禁されているはずです」

「ん」

 ミリアムはミリアムで、基地の端末水晶から家宰に連絡をとった。

 緊急だと告げて父親に代わってもらい、不当な拘束を強いられている上官の窮地を救ってもらえないか――相談した。

 その条件として、彼女は少なくない代償をこれから払う。

 まず、断り続けていた縁談の話を進めること。

 伯爵令嬢として社交界に復帰し、

〝淑女に相応しい振る舞いを取り戻す〟と約束させられた。

 要するに〝父親の推薦する相手との見合いを進め、早く結婚し――世継ぎを生め〟ということだ。

「……」

 シニアは部下を全員召集し、市街戦装備を身に着けるように命じた。

 ただし、私服着用――身分証等の携行は厳密に禁じて。

 また、自身も野戦装具を身に着けて――待機していた。

 追加した弾帯のポーチをひとつ空にし、彼は予備の拳銃をそこに入れて蓋をしている。

「なぜ拳銃を2挺も?」

「片方は、大尉にお届けする分です――あの方は、武器が手元にないと、すこぶるご機嫌を悪くしますので」

「細巻煙草も持っていったら? 駄々っ子には〝おしゃぶり〟が要るもん。減らず口を聞かずに済むし」

 ソフィアの皮肉に、ミリアムは微笑した。

「……」

 彼女は上官の机に置いたままの、未開封の細巻煙草を1つとって――胸ポケットにしまった。


 指揮官のいないハーレークイン小隊が、予定外の〝夜間実弾演習〟に出発しようとした直前だ。

 第99連隊基地の正門を塞ぐように、6頭立ての巨大な馬車が止まった。

「間に合ったようじゃの」

 馬車から降り立ったのは、帝国の太傅であり竜王にしてヨハンの養母――マイアだ。

「エフライム中将閣下!」

 ミリアムは幌馬車の御者席から飛び降りた。

 空軍の礼服を身につけた童女を迎えるなり、ハーレークイン小隊の面々はいっせいに威儀を正して直立――整列した。

 敬礼を返しつつマイアは言う。

「シメオン少尉――まずは、武装を解除せよ。今なら〝何もなかった〟ことにできるでな」

 ミリアムが驚いていると、ソフィアが訊く。

「どういうこと?」

 竜王は鷹揚に頷く。

「先刻、帝国内閣宛に書簡が届いた――魔界の連邦政府からの〝感状〟じゃ。それによると〝強盗に遭った同胞を、危険を顧みずに助けた勇士を称えたい〟と」

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