表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハーレークインたちの外交儀礼【隔日夜更新】  作者: Fughse
第8章 情けは人のためならず、魔族は撃つ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
51/56

04

挿絵(By みてみん)

 ソフィアが訊く。

「偶然ができすぎている――そう言いたいの?」

「いいえ――もっと姑息かつ、私怨めいたものを感じます。何者かが大尉を貶めるために、状況を私的に悪用した可能性があるのではと。覚えていらっしゃいますか? 我々の最初の任務を」

「たしか……」

 ミリアムが視線を落として思い出そうとした。

 その間に、ソフィアが短く内容を要約する。

「緩衝地帯でのCSAR――極秘裏のHALO降下。しかる後に、ゴーレムの〝守護者〟を撃破。白金級の冒険者を拉致同然に救出した」

「そう――たしか、ルートヴィヒ・フォン・ゼブルン氏の救出で、私たちの初陣だ」

「ん」

 2人の乙女たちが口々に言ったところで、シニアは本題に入る。

「かのギルドが誇る英雄殿は、現憲兵総監であるフォン・ゼブルン元帥閣下の養子にして甥御でございます――彼は我々に対して〝余計な世話〟〝不当な扱い〟〝無礼な態度〟と、たいそうなご立腹だったそうで。おそらく、大尉の〝評判〟は元帥閣下や、その周りのお歴々の耳にも届いているかと」

「……貴族の社会は狭く、横に繋がりが深いからな」

 ミリアムは頷いた。

「その私怨? ふーん――貴族の知性って、ヨハンと同じくらい低いの?」

 人間社会のしがらみに囚われない、妖精の少女は辛辣に言った。

「それだけならば――まだよいのですが」

「?」

 妖精の少女が首を傾げた。

「上級曹長――何が言いたいのか、聞かせてくれまいか?」

「は――やはり公子殿下の単独行動を、憲兵隊が許したのが引っかかります。彼らは〝怠け者〟ですが無能ではありません」

 軍歴40年に達する、上級曹長が含みを持たせて言った。

 その迫力に、ミリアムは少しだけ気圧されたが――気になることを問いただす。

「まさか〝わざと〟サムエル公子殿下から目を離したと? スラムで強盗に遭う可能性を無視して――そんな馬鹿な」

「むしろ、それが狙いだったのではありませんか」

 ミリアムが瞬いた。

 彼女も、シニアの言いたいことがわかってきたようだ。

 ソフィアが訊く。

「どういうこと?」

「未必の故意による暗殺です」

 副官の女騎士と上級曹長の視線が交わり、老兵が短く言った。

 今度はミリアムが口火を切る。

「しかし、そんなことをして、誰がなんの得をするのか? 帝国の地で、魔界の要人を亡き者とすれば、講和交渉が全て破綻する――そればかりか、再び戦端が開かれるだろう」

「仕掛けた者たちの狙いが、そこにあるとしたらどうでしょう? 殿下から目を離し、強盗を雇って襲わせるか――または救出の際に〝誤射〟をするか」

「いくらなんでも……」

 ミリアムは否定しようとした。

 しかし、両国の停戦合意がなされて以後――講和交渉は遅々として進まない。

 これを理由に、軍部や議会の主戦派が交渉を打ち切って――あらためて、魔界連邦との決戦に臨もうとしている。

 そういう噂話は、いたるところから漏れ出ていた。

「私たちにできることは?」

 ソフィアが話を先に進めようとした。

「さしあたっては、所定の手続きに則るべきかと――軍規に基づいて、大尉の即時解放を求める上申書を、基地司令たるボーマン大佐に出して頂き、我々からも嘆願書を憲兵本部に送付するところからですね。よろしいですか? 少尉」

 シニアはミリアムに許可を求めた。

 実務はともかく――ヨハンがいない以上、小隊の指揮官は彼女である。

「ああ……」

「では、かかりましょう」

 シニアが柏手を打って、それを合図にミリアムとソフィアは動き出した。



「おい、上等兵――なんだこの泥水は?」

 ヨハンは帝都の中心にある、憲兵本部の事情聴取室に軟禁されていた。

 すぐに帰れるはずだと思っていた彼は、空腹も手伝ってか非常に機嫌が悪かった。

 あるいは、既に6時間近く――狭い部屋にいることが原因かもしれなかった。

 ヨハンはコーヒーを運んできた兵卒に絡んでいる。

「俺がこの世でただひとつ我慢できねえのは――カプチーノを注文したのに、ミルクの商標をとっただけの、乳化させた植物油をぶち込んだコーヒーだけだ。滅びろ、コーヒーフレッシュ!」

 彼は横柄に言うと、紙コップを壁に向かって投げつけた。

 中身がこぼれて、どす黒い茶色の中身が白い床を汚す。

 それを黙って見ていた、憲兵隊の上級指揮官――コナリー少佐は淡々と話す。

「では大尉――もう一度、はじめから確認したい。貴官は、強盗の現場に遭遇した。そこで帝国市民の義務であるところの通報を怠ったのはおろか、警告も威嚇もせず、一方的に4人を射殺した。この時点で、君はいくつかの軍規を犯した。軍人による第1級殺人は1人につき、懲役30年だぞ? 帝国刑法においては、過剰防衛と私刑を犯した罪で立件も可能だ。さらに、助けたと君が主張した強盗の被害者とやらはその場から逃走した。このため、君の正当性を立証するのは困難だ。そして事後、我々が到着した。以上に間違いはないかね?」

「……」

 ヨハンは両手を揃えて、テーブルの上に出した。

「……? なんのつもりだ?」

 コナリー少佐はそれを一瞥して訊いた。

「さっさと逮捕しろ――話はそれからだ」

「我々は貴官を逮捕した覚えはない――これはあくまで、通常の手続きに必要な口頭聴取だ。では、答えて貰えるかな? 我々の確認している事実と、君の主張に齟齬があるかどうか」

「……」

 こんどは無言で返した。

「コーヒーの注文以外、口にする気はないのか?」

「逮捕じゃないなら、捜査に協力する義理はねえぞ――憲兵なら法律くらい守れ馬鹿」

 彼はいつもの態度で言った。

 コナリー少佐は、

「では再び、はじめから確認しよう」と辛抱強そうな口調で返してから頷く。

 その時、

「失礼いたします」と憲兵隊の伝令が入室してきた。

 コナリー少佐が椅子から立ち上がって、部屋を出た。

 しばらくして、戻ってきたコナリー少佐は言う。

「目撃者が見つかったそうだ――スミス大尉、君が一方的にスラムの住人を射殺したと、そう証言した。既に宣誓供述書にも署名されている。さて、君とは長い付き合いになりそうだ」

「カプチーノの出前をよろしく頼む――こんどこそ〝本物〟を寄越せよ。しくじったら、殺すぞ?」



 執務室に戻ったミリアムは――憮然とした。

 基地司令であるボーマン大佐、ハーレークイン小隊の直属の上官の名で――憲兵本部に上官の拘束を解くように上申した。

 ところが、

〝これは逮捕ではない〟という答えと〝手続きが終了しだい即時解放する〟という応答があったきりだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ