03
「マジで本物かよ!」
ヨハンは悪態をついた。
「ひどいじゃないか――僕まで撃つなんて♪」
無傷のままのサムエルが言った。
軍人の若者は、それを無視して――予備弾倉を左手で抜き、拳銃を捻って空弾倉を飛ばす。
最大の脅威である、魔族から視線を切らさず――手元を見ず、新しい弾倉を拳銃に差した。
最後にスライドを引き、装填する。
拳銃に弾を込めた彼は、倒れている強盗たちを一瞥して、
「他のやつらは、ちゃんと死んだよな?」と言った。
それから、最初に後頭部を射抜いた1人を除き――容赦なく2発ずつ撃ち込んだ。
確実に止めを刺すため、8発撃ってから――再び弾倉を交換する。
この所業を目の当たりにしたサムエルが、
「それ、人道的にやっちゃ駄目じゃないの?」と訊いた。
「強盗の人権を守るのが人道だって? 魔界は変わってるな――俺に銃を向けた奴を、生かして帰すわけないだろ」
「交戦規定と一緒で、常在戦場というのが君の生き方だね――いや、死生観かな」
「なぜここに?」
ちょうど、そこへ頭上から短いスカートを翻して――螺旋状に舞い降りてきた、ソフィアが訊いた。
「今頃、ニュースになっているはずだが――僕はこのたび、連邦政府の代理人として、こちらに派遣されることになったんだ」
魔族の少年は正直に答えた。
「はぁっ!? 聞いてねえよ! そんなの!」
「私も初耳」
「ちなみに、到着は明後日だよ」
「なら明後日に来い! 時差ボケが派手すぎる!」
「それだと自転軸が逆――どこまで知性が低いの?」
ソフィアが冷徹に、ヨハンの発言を訂正するために彼をこきおろした。
「あはは」
2人のやりとりを見て、魔族の少年は屈託なく笑いだした。
サムエルはそれから、足元に置いてあった紙袋を持ち上げる。
「どうしても、これが欲しかったんだ――帝都にしか売ってないっていうから、予定を繰り上げたのさ。誰にも内緒でね。来訪の〝下見〟っていう理由をでっちあげて」
サムエルが取り出した紙袋の中身は、ソフィアが買いたかった――踊る花の玩具。
〝フラワー・ロックンロール〟だった。
「人間は、実に興味深い――こんなに面白いものを考えつくんだから」
「同感――私もそれ欲しかった。お母様に贈りたくて」
サムエルとソフィアが揃ってヨハンを見た。
そこへ。
不意に背後から警笛が聞こえた。
「いたぞ! こっちだ!」
振り返ると、武装した憲兵たちが裏路地になだれこんでくる。
「強盗とは貴様らかっ!?」
「武器を捨てろ!」
ヨハンは言われたとおり、地面に拳銃を捨てて――両手を上げて振り向いた。
しかし、こういうときに黙って従う彼ではない。
「俺たちは正義の味方だっつうの――悪もんは、そこらに転がってる間抜けどもだ。喜んでいいぞ? 手間を省いてやったんだから」
「間抜けだった、と言うべき」
妖精の少女が律儀に訂正した。
「俺たちは後ろのお坊ちゃまを、悪漢どもから助けた善良な市民だ――非番の軍人で、所属は帝国陸軍第99連隊。ほら、身分証を出すぞ? 撃つなよ?」
「待て! 上着をめくれ! その位置でまわれ!」
ヨハンは殺気立った憲兵たちに撃たれないよう、ゆっくり動いて背中を向けた。
「腰のナイフを捨てろ!」
彼らは目ざとく、ベルトに水平に固定した――刃が飛び出すOTFナイフを見つけた。
それを捨てて、懐から紙入れを取り出そうとしたとき、
「ん?」と首をかしげた。
見ると、期せずして強盗から助けたサムエルの姿はどこにもなかった。
「あの糞ガキ、逃げやがった……」
ヨハンは身分を照会され、軍人だと認められた。
しかし、
〝手続きと供述調書をとる〟と言われて、憲兵本部に連れて行かれる。
武装や火器の使用が不可能な、妖精族――ということで、ソフィアはその場で見逃された。
しかし、彼女にも後日供述を聞くことになると――貴族出身の憲兵少佐は一方的に通達した。
「……」
その様子を、魔族のサムエルは――ビルの屋上から見ていた。
彼は、連行されていくヨハンの様子を見てつぶやく。
「これは妙な雲行きだ――かといって、僕が今さら出ていくわけにもいくまい。さて、どうしようか」
先に基地に戻ったソフィアは、出来事を細大漏らさずミリアムに報告した。
「大尉がっ!? あの方は、どうしてこう、次から次に問題を……」
驚いてから呆れだした副官、その横に立つ上級曹長は――落ち着きはらった様子で訊く。
「お待ちを――エインセル准尉、大尉は銃の携帯許可をお持ちだったのですね?」
「そのはず」
ソフィアは頷いた。
「ならば大丈夫です――相手が武装した強盗の4人組ならば。それも、スラム街で人を助けたのですし」
ヨハンは憲兵に〝事情聴取〟として連行された。
これは小隊にとって大問題のはずだが、経験豊富な上級曹長は言う。
「大尉のことですから相手の息の根を必ず止めます――万が一、遺族その他に裁判を起こされたとしても、不利な証言をされることもないでしょう。調書をとって終わりかと」
これが普通の強盗相手の、単純な事件なら――おそらくシニアの言う通りだ。
ただ、いくつか問題がある。
「しかし、妙ですね――憲兵はお忍びの公子殿下を護衛していた、という様子ではなさそうですし」
厄介なのがこれだ。
外国の要人絡みとなると、国際的な問題の渦中にヨハンが置かれる。
そのことは、ミリアムもソフィアも理解していた。
「不味いことになりそうです」
だが、シニアの懸念は別にあるようだ。
「というと? 上級曹長、貴官の見識をもう少し頼む」
新任の少尉が促した。
「申し上げます――小官の知る限り、憲兵がスラム街での犯罪の取締に積極的になるのは、ごく稀です。具体的には身内が殺された時、それから賄賂の集金です。さらに、外国の要人を救出するための出動であったなら、公子殿下に単独行動を許している時点で、警備に問題があります」
2人の乙女たちも頷いた。




