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ハーレークインたちの外交儀礼【隔日夜更新】  作者: Fughse
第8章 情けは人のためならず、魔族は撃つ

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03

挿絵(By みてみん)

「マジで本物かよ!」

 ヨハンは悪態をついた。

「ひどいじゃないか――僕まで撃つなんて♪」

 無傷のままのサムエルが言った。

 軍人の若者は、それを無視して――予備弾倉を左手で抜き、拳銃を捻って空弾倉を飛ばす。

 最大の脅威である、魔族から視線を切らさず――手元を見ず、新しい弾倉を拳銃に差した。

 最後にスライドを引き、装填する。

 拳銃に弾を込めた彼は、倒れている強盗たちを一瞥して、

「他のやつらは、ちゃんと死んだよな?」と言った。

 それから、最初に後頭部を射抜いた1人を除き――容赦なく2発ずつ撃ち込んだ。

 確実に止めを刺すため、8発撃ってから――再び弾倉を交換する。

 この所業を目の当たりにしたサムエルが、

「それ、人道的にやっちゃ駄目じゃないの?」と訊いた。

「強盗の人権を守るのが人道だって? 魔界は変わってるな――俺に銃を向けた奴を、生かして帰すわけないだろ」

「交戦規定と一緒で、常在戦場というのが君の生き方だね――いや、死生観かな」

「なぜここに?」

 ちょうど、そこへ頭上から短いスカートを翻して――螺旋状に舞い降りてきた、ソフィアが訊いた。

「今頃、ニュースになっているはずだが――僕はこのたび、連邦政府の代理人として、こちらに派遣されることになったんだ」

 魔族の少年は正直に答えた。

「はぁっ!? 聞いてねえよ! そんなの!」

「私も初耳」

「ちなみに、到着は明後日だよ」

「なら明後日に来い! 時差ボケが派手すぎる!」

「それだと自転軸が逆――どこまで知性が低いの?」

 ソフィアが冷徹に、ヨハンの発言を訂正するために彼をこきおろした。

「あはは」

 2人のやりとりを見て、魔族の少年は屈託なく笑いだした。

 サムエルはそれから、足元に置いてあった紙袋を持ち上げる。

「どうしても、これが欲しかったんだ――帝都にしか売ってないっていうから、予定を繰り上げたのさ。誰にも内緒でね。来訪の〝下見〟っていう理由をでっちあげて」

 サムエルが取り出した紙袋の中身は、ソフィアが買いたかった――踊る花の玩具。

〝フラワー・ロックンロール〟だった。

「人間は、実に興味深い――こんなに面白いものを考えつくんだから」

「同感――私もそれ欲しかった。お母様に贈りたくて」

 サムエルとソフィアが揃ってヨハンを見た。

 そこへ。

 不意に背後から警笛が聞こえた。

「いたぞ! こっちだ!」

 振り返ると、武装した憲兵たちが裏路地になだれこんでくる。

「強盗とは貴様らかっ!?」

「武器を捨てろ!」

 ヨハンは言われたとおり、地面に拳銃を捨てて――両手を上げて振り向いた。

 しかし、こういうときに黙って従う彼ではない。

「俺たちは正義の味方だっつうの――悪もんは、そこらに転がってる間抜けどもだ。喜んでいいぞ? 手間を省いてやったんだから」

「間抜けだった、と言うべき」

 妖精の少女が律儀に訂正した。

「俺たちは後ろのお坊ちゃまを、悪漢どもから助けた善良な市民だ――非番の軍人で、所属は帝国陸軍第99連隊。ほら、身分証を出すぞ? 撃つなよ?」

「待て! 上着をめくれ! その位置でまわれ!」

 ヨハンは殺気立った憲兵たちに撃たれないよう、ゆっくり動いて背中を向けた。

「腰のナイフを捨てろ!」

 彼らは目ざとく、ベルトに水平に固定した――刃が飛び出すOTFナイフを見つけた。

 それを捨てて、懐から紙入れを取り出そうとしたとき、

「ん?」と首をかしげた。

 見ると、期せずして強盗から助けたサムエルの姿はどこにもなかった。

「あの糞ガキ、逃げやがった……」

 ヨハンは身分を照会され、軍人だと認められた。

 しかし、

〝手続きと供述調書をとる〟と言われて、憲兵本部に連れて行かれる。

 武装や火器の使用が不可能な、妖精族――ということで、ソフィアはその場で見逃された。

 しかし、彼女にも後日供述を聞くことになると――貴族出身の憲兵少佐は一方的に通達した。


「……」

 その様子を、魔族のサムエルは――ビルの屋上から見ていた。

 彼は、連行されていくヨハンの様子を見てつぶやく。

「これは妙な雲行きだ――かといって、僕が今さら出ていくわけにもいくまい。さて、どうしようか」



 先に基地に戻ったソフィアは、出来事を細大漏らさずミリアムに報告した。

「大尉がっ!? あの方は、どうしてこう、次から次に問題を……」

 驚いてから呆れだした副官、その横に立つ上級曹長は――落ち着きはらった様子で訊く。

「お待ちを――エインセル准尉、大尉は銃の携帯許可をお持ちだったのですね?」

「そのはず」

 ソフィアは頷いた。

「ならば大丈夫です――相手が武装した強盗の4人組ならば。それも、スラム街で人を助けたのですし」

 ヨハンは憲兵に〝事情聴取〟として連行された。

 これは小隊にとって大問題のはずだが、経験豊富な上級曹長は言う。

「大尉のことですから相手の息の根を必ず止めます――万が一、遺族その他に裁判を起こされたとしても、不利な証言をされることもないでしょう。調書をとって終わりかと」 

 これが普通の強盗相手の、単純な事件なら――おそらくシニアの言う通りだ。

 ただ、いくつか問題がある。

「しかし、妙ですね――憲兵はお忍びの公子殿下を護衛していた、という様子ではなさそうですし」

 厄介なのがこれだ。

 外国の要人絡みとなると、国際的な問題の渦中にヨハンが置かれる。

 そのことは、ミリアムもソフィアも理解していた。

「不味いことになりそうです」

 だが、シニアの懸念は別にあるようだ。

「というと? 上級曹長、貴官の見識をもう少し頼む」

 新任の少尉が促した。

「申し上げます――小官の知る限り、憲兵がスラム街での犯罪の取締に積極的になるのは、ごく稀です。具体的には身内が殺された時、それから賄賂の集金です。さらに、外国の要人を救出するための出動であったなら、公子殿下に単独行動を許している時点で、警備に問題があります」

 2人の乙女たちも頷いた。

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