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ハーレークインたちの外交儀礼【隔日夜更新】  作者: Fughse
第8章 情けは人のためならず、魔族は撃つ

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02

挿絵(By みてみん)

「……」

 ヨハンは咄嗟に、上着で包んだ拳銃の安全装置のレバーをさげる。

 ソフィアが警告しなかった、ということは――背後に驚異はない。

「隣の路地」

 肩から小鳥のような重さがなくなった。

「おいおい――放っておけって」

 そう窘めたが、妖精の少女は好奇心に駆られたのか――1人で様子を見に行ってしまう。

 追いかけると、ビルの壁を陰にしたソフィアが――口の前で指を立てた。

「旅行者が強盗に遭ってる――武装を確認ずみ」

 肩に立つと、耳元に口を寄せてソフィアが小声で言った。

「人数は?」

 彼女は指を4本立てた。

「……ギリギリだな」

 ヨハンの使う拳銃は弾倉に9発、薬室に1発の弾丸が込めてある。

 不意を打ったと仮定して、先に2人は撃てるだろう。

 しかし、残りの強盗が反撃してくれば――予備弾倉に交換している間に、10発以上は撃たれる。

 遮蔽物のない近距離では、こちらの練度に関係なく――数の暴力を覆すことは厳しい。

 彼は冷徹な決断を下す。

「邪魔しちゃ悪いから、帰ろうぜ」

 ヨハンは、強盗に遭った旅行者を見捨てると言い出した。

 しかし、妖精の少女が首を振った。

「駄目――私たちが見過ごしたと後で発覚したら、帝国軍は市民の信用を失う」

「元から信用されてねえよ――だいいち、アホの旅行者の命ひとつで失われる信用なんか、大事にする価値あんのか?」

 彼は例によって、レトリックを悪用し――自分たちが介入することに異議を唱えた。

 だが、

「ある」とソフィアに断言されてしまった。

「……」

 ヨハンは少し黙って、簡単な作戦を立てた。

「上から小銭をばらまけ――連中が気を取られた隙に仕留める」

「撃ち損じたら?」

「そのときは、お前さんの〝猫じゃらし〟の出番だ――目潰しをかけて、1人ずつ各個撃破だ」

「了解」

「行け」

 ヨハンは、ソフィアにペンスやファージングといった――硬貨を持たせて、ビルの上に移動させた。

 上着を羽織りなおして、拳銃のスライドを少し引き――薬室の装填を確認した。

「!」

 地面に小銭が落ちる音がした瞬間、ヨハンは飛び出した。

 構えた銃の照準が、強盗をなぞるようにして速射していく。

 最初の1人の後頭部を1発で射抜いたのは、コンマ2秒の瞬間だった。

 次の2人に2発ずつ撃ち込む、時間にして――1秒半から2秒の間だろうか。

 普通の人間からしたら息をつくような短い時間を、軍人は最大限に利用するよう訓練を受ける。

 特に、銃撃戦においては。

 残弾は残り5発。

 予想通り、強盗に遭っていた被害者は――壁際に追い込まれる形で中央にいた。

「なんだ!? 手前ぇ!」

 最後の1人が被害者を盾にして、回転式の拳銃を構えた。

「銃捨てろ! 捨てやがらねえと、コイツの頭ぁ吹っ飛ばすぞ!」

「さっきも言ったけど――それは無理だよ。その銃じゃ」

 銃を突きつけられていた、被害者の若者が言った。

「おい、嘘だろっ!?」

 ヨハンは珍しく声を出すほど驚いた。

「やあ――また会ったね」

 強盗の被害に遭っていたのは、魔界連邦の中核州を治める藩王の公子――サムエルだった。

「ここで地獄への片道切符をくれてやるぜ!」

 ヨハンは拳銃を構えて、サムエルに言った。

 もはや強盗のことなど、完全に忘れている。

「地獄なら、この前も行ってきたよ――この前の戦争と戦死者のせいで、人口が増えちゃってね。少し狭くなってたけど、君たちが思ってるほど悪いところじゃない。特に、君は気に入ると思う。どうだい? 君の死後、地獄に堕ちるというのは?」

「言われなくたって、その予定だ!」



 ヨハンとソフィアが路地裏で、強盗たちと戦っていた頃。

 第99連隊基地で、部下たちとの訓練を終えたミリアムは――上機嫌で執務室に戻った。

 隙あらば覗いてくる、不届きな上官のいない間に――シャワー室を独占できたからだろう。

「失礼――少尉殿、お聞きになりましたか?」

「なにごとだ? 上級曹長」

 執務室に入ってきたシニアは、基地に届けられた夕刊を手にしていた。

 1面の記事には、大きな見出しが入っている。

 ミリアムは〝魔界の貴公子、サムエル殿下――帝都へ〟という、トップニュースを一瞥し――驚いて部下と顔を見合わせた。

 記事には、

〝週明けの月曜日に、特別列車にて帝都に到着する〟ともあった。

 そこで、いくつかの式典に出席し――正式な講話条約の締結を進めるという。

 彼の立場は、魔界の連邦政府に属する――外務省事務官たちの責任者であり、特使とのことだ。

 その他の内容は、サムエルの生い立ち――魔界の中核州における、藩王公子としての序列など。

 他にも、いくつか持っている肩書への補足があった。

「停滞している講和交渉を進めるために、河の向こうからお偉方がおいでになるという噂があったのですが――まさか、公子殿下が自らお出ましとは。魔界は大胆ですね」

「この、サムエル殿下とやらが例の――先日の作戦で介入してきた魔族か」

「大尉のお話では、その通りかと」



 ヨハンとサムエル、素行不良の帝国陸軍大尉と魔界の貴公子が再会した。

 2人が〝挨拶〟を交わしていると、強盗は混乱しつつ――主導権を取り戻そうとする。

「おい! 手前ぇらなんだっ!? 知り合いかっ? なにをわけのわかんねえことを……」

「うるせえ! まとめておっ死ね! 〝猫じゃらし〟だ!」

 合図でソフィアが光を発振、強烈な光線を照射した。

 夜間の高高度を飛行する飛竜に向けて、遠距離から攻撃目標を指示できるほどの輝度と――緑色の波長で発振される光線は、直視すれば簡単に人間の視力を奪う。

 場合によっては失明する。

 昼間であってもそれは有効だ。

「がっ!?」

 強盗の生き残りが怯んだ隙を、彼は見逃さず――引き金を2回絞った。

 さらに、残った3発をサムエルに向けて撃つ。

「おかげで助かった――ありが、あばば」

 いつかの戦場で邂逅したときと同じく、魔族には銃弾が通用しなかった。

 弾倉が尽きて、拳銃のスライドが後退して止まった。

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