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ハーレークインたちの外交儀礼【隔日夜更新】  作者: Fughse
第8章 情けは人のためならず、魔族は撃つ

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01

挿絵(By みてみん)

「最悪――最悪」

「なんで2回も言った? 仕方ねえだろ――先着限定なんて知らなかったんだ」

 ヨハンとソフィアは休日を利用して、帝都の中心街に来ていた。

 妖精の少女が、母親――ティターニアへの贈答品を選びたいというので、運河沿いのデパートメントに案内してきた帰りだ。

 ところが、ソフィアの希望した――物音に反応して踊る花の玩具は、製造会社が経営破綻したことがわかった。

 そのため〝フラワー・ロックンロール〟は、流通在庫しかないという。

 夏至の日の売出しで、在庫が放出されると聞いたため――2人は滅多に入らないデパートメントを訪れたものの、見事に空振りとなった。

「私が選んだ上着のほうが、似合うのに」

 自分の買い物が失敗した不満を解消するためか、あるいは〝乗り心地〟を良くしようとしたのか。

 妖精の少女はヨハンの私服を見立てた。

 しかし、熟考を重ねて選びぬいた服をにべもなく却下されたことで――彼女は余計に機嫌を悪くした。

「お前さんが選んだやつは、どれも窮屈すぎるんだよ――俺はもうちょっと、緩めのが好きなんだ。紅白で縞々の〝紳士の鞘〟も、白の方が好きだし」

「ふーん」

 非番ということもあり、ヨハンは私服を身に着けている。

 下はインディゴブルーのデニムに、ヌバック革のジョッパーブーツ――上は麻のボタンダウンシャツに、背抜きをした薄手の黒い上着を羽織っている。

 特注の靴を除けば、どれも既製品で――まったく貴族将校らしくない。

「シャツの裾を外に出したら? それが今の流行だって、ミリアム少尉が読んでた雑誌にも書いてあった」

「銃に引っかかるから、やーだ」

 私服の彼は拳銃を右腰の後ろ、ベルトの内側に隠す――ボタンで両刃を出し入れするナイフは、その反対側にある。

 銃と同じく目立たないよう、ナイフは専用の鞘を介して――ベルトと水平に固定してあった。

「非番のときの武装は、軍規に引っかかる」

 彼女の指摘は正しい。

 だが、彼は銃の秘匿携帯許可書を取得しているので――厳密には法に触れない。

 この有能な才媛ならば、百も承知だ。

 つまり、相棒が自分好みの服を着てくれないことに――文句を言いたかったのではないか。

〝引っかかる〟という揚げ足をとって、言葉遊びに興じたのがその証拠だろう。

「……」

「内緒」

「なにも言ってないぞ?」

「ん」

 夏至が近いこともあって、もうじき夕刻だというのに太陽はまだ高かった。

 週末だからか、駅まで続く通りの歩道は人で埋め尽くされている。

「すごい人出――別の道がいい」

「遠回りになっちゃうだろ――我慢しろ」

 そう言った彼が、唐突に立ち止まった。

「どうしたの?」

 ソフィアが怪訝に思って訊くと、ヨハンは歩道で親子連れに風船を手渡している道化師を一瞥した。

「あれ撃ちたくなっちゃうんだよなあ」

 彼は、道化師に〝いい思い出〟がないようだ。

 それを知らない妖精の少女が、

「風船を?」と訊いた。

 それには答えず、彼は、

「たまには回り道をしよう」と言って、路地を曲がろうとする。

「裏道なら静かに通れる」

「治安が〝賑やか〟だから、さっさと抜けようぜ」

「ん」

 帝都の運河沿いは、再開発が始まった地区や一部を除いて――帝国でも屈指のスラムだ。

 ここには武装した憲兵ですら、巡回には滅多にやって来ない。

 また、銃声が鳴ったとしても――この辺りの住人はほとんどが不法入居者で、その程度のことでは通報もされない。

 耳を澄ませると、遠くから怒鳴り声や子供の泣く声――ガラスか食器の砕ける音が聞こえてくる。

「……」

 ヨハンは上着を脱いで、腰に差してある拳銃を抜いた。

「敵?」

「この辺を通るときのマナーみたいなもんだ――ほら、レストランでナプキンを膝にかけるだろ? あれと一緒だ」

 彼は、脱いだ上着で拳銃を包むように保持すると――そのまま歩く。

「もしも強盗に遭ったら、隠して撃つってこと?」

 貴族の身分で、侯爵家で甘やかされて育った割に――彼はこういうところでの用心を欠かさない。

「撃たれるより、上着を駄目にするほうがマシだろ」

 妖精の少女が瞬いた。

 彼女は何かを思いついたらしい。

「撃ったら、新しい上着が必要になる――こんどこそ私が選んであげる。嬉しい?」

「黙って後ろを見てろ」

「監視につく」

 ソフィアは彼の肩に腰かけて、背後に気を配った。

「あれなに?」

 薄暗い路地の交差する小さい広場には、室内球技に使うゴールポストが立ててあった。

 地面にはうっすらと、ペンキで描いた歪んだ曲線が浮いている。

「貧乏人ほど、大きいボールで遊ぶんだ――失くしても見つけやすいようにな」

「ヨハンはエフライム中将の侯爵家で育ったから、小さいボールで遊んでた? ゴルフとかテニス?」

「ああ――22口径のプリンキングから始めて、今はもっぱら38スーパーが遊び相手だ。〝現場〟じゃ、ほとんど223の小銃弾しか撃たないけどな」

「銃は玩具じゃない」

「弄んでるのは、いつも敵さんの命だからセーフ♪」

「アウト――倫理的な意味で」

 用心が功を奏したのか、あるいは青年と妖精の少女という組み合わせが――奇妙すぎたのか。

 または、別の不幸な被害者が先客として――この裏路地を通り抜けようとしていたのか。

 2人は何事もなく、表通りの見えるところまでたどり着いた。

「晩飯は食ってから帰ったほうがいいよな――それか駅で弁当でも買うか」

「キッシュがいい――山菜とチーズのやつ」

「たまには肉を食えよ――好き嫌いしてちゃ、おっぱいが育たないぞ?」

「ミリアム少尉みたいに?」

 この場にいない女騎士の副官、巨乳が目立つのを気にしている同僚を――2人が揶揄したところで、すぐ近くから男たちの怒号が聞こえてくる。

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