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ハーレークインたちの外交儀礼【隔日夜更新】  作者: Fughse
第8章 情けは人のためならず、魔族は撃つ

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06

挿絵(By みてみん)

 ミリアムは――部下たちに〝待機〟を命じた。

 それから、ソフィアとシニアの2人を伴って――上官が不在の執務室にマイアを案内した。

 応接ソファの上座に彼女を迎えて、

「どうぞ――閣下。少尉もお召し上がりください」と言って、シニアが恭しくカップを2つテーブルに置く。

「大義なり」

 竜王が返事をし、シニアは一礼し――無言でさがった。

 ヨハンに忠を尽くすため、小隊軍曹に甘んじている――この上級曹長は、本来ならば将軍や元帥たちの従卒を務めるのが似合う。

 あるいは大貴族の執事長や家令か。

 マイアの向かいには、背すじを伸ばして座るミリアムがいる。

 小隊の指揮官代理として、緊張した面持ちで詳しい経緯を聞かされる。

「……」

 ミリアムの横には、ソファの背もたれに腰かけるソフィアもいた。

 彼女は、人間社会の序列や儀礼を飛ばして、

「で――ヨハンはいつ戻るの?」と妖精族らしい奔放さで尋ねた。

「エインセル准尉、閣下に対して無礼であろう――控えよ」

「嫌――ミリアム少尉がさっさと聞き出さないのが悪い」

「っ!」

「まあ、よいではないか――そう畏まらぬでも。これでは、妾が意地悪な姑になってしまうぞよ」

 マイアは2人の乙女たちを落ち着かせてから、優雅な所作でカップに口をつけた。

 それから竜王は語る。

「さて、坊やは詳しい経緯を帝国のさるお方に報告する手筈じゃ――済み次第、こちらへ戻ってこよう。太傅にして帝国空軍中将と貴族院議員を兼任する、この妾が保証してつかわす。これでよいか? エインセルの子よ」

「ん――ご褒美に、ジェネラルのご飯の当番を譲る」

〝ジェネラル〟とは、この基地で表向きは飼っていないことにされた――野良猫の愛称だ。

 以前、マイアが表敬のために訪れた際――この竜王は2歳の猫と親しく過ごした。

 その証拠に彼女は目を輝かせた。

「おお、それはよき哉!」

「遊ぶ権利もつける」

「僥倖じゃ!」

 それからマイアは、従卒の部下にあるものを運ばせてきた。

「そなたに届けよとの由じゃ」

 ソフィアへの贈り物だという。

 テーブルの上に、見覚えのある紙袋が置かれた。

 封の部分には、見るからに上質で――手が切れそうなカードが留めてある。

〝ひとつ貸しにしておくよ――宵の明星〟

 中にあったのは、サングラスをかけてエレキギターを携え――物音に反応して踊る、花の玩具だ。

 それは、ソフィアが母親への贈り物にしようとしたものだった。

 同じ物を求めて、魔界の貴公子も帝国に密入国した。

「ん」

 妖精の少女が指を鳴らした。

 花の玩具はゆらゆらと身を躍らせる。



 ほぼ同じ頃。

「コナリー少佐――そろそろ、自白の時間だよな」

 前日の昼からこの未明、15時間に渡って続く――取調室での事情聴取で、ついにヨハンは口を利いた。

 勾留が長引き、お互いに疲れを露わにしていたときだ。

「ふむ?」

 憲兵隊の将校が身を乗り出した。

「くたばれ」

「っ!?」

 言うなり、ヨハンは両手を突き出した。

 そのまま――上着の襟を剥がすようにして相手の身動きを奪い、頭突きを見舞う。

 次にコナリー少佐の髪の毛を掴んで、横向きに――こめかみから机に叩きつけた。

 それからわざと上着の拘束を解く。

「っがぁあ!」

 先制攻撃に怒った相手が、腰から拳銃を抜こうとしたところ――その手をとった。

 親指の関節を反対方向にねじって、根本から関節を脱臼させる。

 勢いに任せて肘を喉に打ち込んだ。

「あらよっと」

 そのまま彼は拳銃を奪い――呆気に取られた調書係を睨みつける。

「銃を左手で抜いて、床に捨てろ――さもないと、少佐の硬い頭の風通しをよくするぞ?」

 ヨハンは憲兵本部の事情聴取室で、コナリー少佐から銃を奪い取って――彼を人質にしながら立てこもった。

 憲兵隊は投降と少佐の即時解放を求めて、交渉しようとした。

「カプチーノをよこせやぁあああ! 皆殺しにするぞごらぁあああ!」

 ヨハンは、話の通じない狂人のように喚いた。

 直後に彼は、

「ルビコン川を渡るなら――泳ぎきるか、溺れるかだ。もう、後戻りはできないぞ」

 普段と打って変わったように――冷酷な声だった。

「何のことかわから――うっ」

 ヨハンは無言でコナリー少佐の小指を折った。

「指はあと8本――その次は足だ」

「わかった! 教える!」

「……どうせ嘘だろ」

 薬指を折った。

「本当だ! 本当のことを言う!」

「遠慮するな――抜き打ち〝アンケート〟を楽しめ」

 そう囁いたところで、彼は物音に合わせて――目線を動かした。

「!」

 ヨハンはいきなり、取調室のドアを撃った。

「突入するならうまくやれ! 下手くそども!」

 そのまま〝アンケート〟は続き、両手の指を全て折られたコナリー少佐は――上官の名前、今回の筋書きを親切な悲鳴とともに教えてくれた。


 間もなく、憲兵隊の本部に宮内省の馬車が到着する。

 迎えに現れたのは、正装であるモーニングを身に着けた――ローゼンクランツ宮内尚書、本人だ。

 ヨハンは挨拶を省いて、部下たちの様子を訊く。

「基地の連中は?」

「は――そちらには、太傅エフライム侯爵が御自ら、玉体をお運び遊ばして御座います」

 ローゼンクランツは恭しく拝礼して答えた。

 それを聞いて彼は大きく息をつく。

「そうか――ババアの年の功で、悪ガキどもも収まったわけだ。世話をかけたな、爺さん」

「御意――こたびは災難でした。臣の不明を平にお赦し賜りたく存じまする。神皇子ヨハネ・ユージン・ヒルカノス大公殿下」

 ヨハンが今上〝神姫〟ヴィクトリアの双子の兄であり、女系保護と伝統を維持するために廃嫡された――皇族の男子だと知る者は、ごく限られる。

 この極秘事項を知るのは〝神姫〟本人、ヨハンを猶子として養育した太傅であり竜王のマイア、それからこの宮内尚書だけだ――公式には。

 彼は不用意な発言をした勅使を叱る。

「黙れジジイ! その諱と氏で俺を呼ぶな――神皇子ヨハネもヒルカノス大公も、この帝国のどこにも存在しねえ! 俺はヨハン・スミスだ! ババアが貴族どもから奪った、スミスの苗字だけが俺のもんだ!」

 彼は珍しく、個人の感情を剥き出しにした。

「その覇気、その不撓不屈――いずれも陛下の懐剣の役がため、ゆめゆめ、お忘れめさるな。ヨハン・ユージン・スミス大尉殿。重ねて老人の非礼をお詫びする。どうか許してくれたまえ」 

 皇族に傅く、数多の侍従たちの長たる宮内尚書ともあろうものが――貴人の〝諱〟を軽々しく口にするはずがなかった。

 つまり、

「わざと俺を煽ったのかよ――食えないジジイだ」とヨハンは彼の意図を察した。

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