03
「中将閣下!」
ミリアムは反射的に直立して敬礼した。
「おお、誰ぞと思えば、シメオン伯家のお嬢ちゃんではないか――奇遇だのう」
マイアは敬礼を返してから、にこやかに声をかけた。
ミリアムは緊張しきった面持ちのまま、黙礼をしてからお辞儀をする。
頭を垂れながら彼女は言う。
「ご機嫌麗しゅう存じます――閣下のご高名はかねがね聞きおよび、こうしてご尊顔を拝す日を、末席とはいえ帝国軍に身をおいてから……」
「よいよい――そなたの生真面目さは美徳じゃが、あまりに平身低頭がすぎよう。軍人、貴族将校たる者は常に堂々とあれ。相手はたかが1匹のトカゲにすぎぬ。楽にせよ」
マイアの言葉を受けて、新任の少尉は威儀を正す。
「はっ」
品行方正にして文武両道を修める女騎士は、背筋を伸ばして両手を後ろで組んだ。
ここでようやくヨハンが口を挟む。
「なんでいるんだ? そもそも、来るのは明日だろ――ついにボケが始まって、今日の日付もわかんなくなっちまったのか?」
彼がいつもの調子で訊くと、
「なんじゃ、騒々しいのう――そう声を高くせんでも、ちゃあんと、このおばばには聞こえておるぞよ」とマイアは言った。
「さきほどから気になっておったが」
「は――閣下」
第99連隊基地の視察に訪れたマイアの案内はシニアに一任された。
本来、ホストを務めるべきなのはヨハンだが、
〝訓練と猫の散歩とサボテンの水やりがある〟と言い出して、彼は逃げた。
端的に言えば、小隊軍曹に養母の面倒を押し付けたことになる。
2人は基地の司令官、ボーマン大佐との面会を済ませたところだ。
そこで予定が繰り上がったことを伝え、現在はハーレークイン小隊の使う設備をマイアは見て周っている。
傍目には、壮年の男が孫娘を連れて歩いているような絵面だ。
もっとも好奇の視線を集めこそすれ、ハーレークイン小隊の下士官たちを日頃から束ねている――陸軍最先任上級曹長に絡んでくる命知らずはいないようだ。
「なにゆえ、兵舎のそばに厩舎があるのじゃ? それも牛の」
マイアの質問とともに、間延びした牛の鳴き声がした。
それを聞きつけた当番の下士官たちが、2人の見ている前で厩舎に駆け寄っていく。
「先日の作戦で回収したのはいいのですが――これはあくまで、引き取り手が現れるまでの、一時的な措置でして」
「はは――それにしては、丁寧に世話をしておるではないか? まあ、よい」
当初は基地で加工して食べればいいとヨハンは言った。
だが、ミリアムとソフィアを中核とした愛護派の猛反対にあってしまったようだ。
決め手になったのは、
〝搾りたてのミルクで、美味しいカプチーノが飲めるかも〟と言った、ソフィアのひとことだ。
それに食いついた彼はまたしても、
〝乳搾りなら任せろ! な? 少尉?〟とミリアムの神経を逆撫でした。
「なんとも、牧歌的な基地じゃ――牧場といえばある年の夏に、坊やを田舎の別邸で過ごさせたことがあった。そこで初めて馬に乗せたら〝高い怖いやだ〟と申して、とうとう泣き出してしまい、難儀したものぞ」
次に、兵舎から少し離れ――半分地下に埋めてあるトーチカのような建物にマイアは案内された。
「こちらでは武器を保管しております――爆発物を除く弾薬各種は隣のピルボックスにございます」
そこは、ハーレークイン小隊がほぼ専有している第99連隊基地の武器庫だ。
銃架には自動小銃や軽機関銃を始めとした、小隊で運用している銃火器が整然と並ぶ。
擲弾筒、携帯無反動砲や小口径の迫撃砲といったものが揃えて掛けられ――中には分解された大口径の汎用重機関銃まで置いてあった。
陣地防御用ではなく、望遠スコープのマウントを溶接して載せ――大型カメラ用の3脚と接続することで超長距離専用の〝狙撃銃〟として運用されている。
ボルト・ラッチ・リリースを意図的に操作することで、本来はフルオートで弾幕を張る重機関銃が〝大口径狙撃銃〟として生まれ変わったようだ。
欠点はその馬鹿げた重量に尽き、運用だけで2人――戦地に運搬するためには6人必要なことだ。
「これはなんぞ?」
マイアが指摘したのは、改良中の小銃の試作品だ。
帝国陸軍の小銃は自動式のライフルだ。
しかし、一部の帝国軍将兵からは――より軽量で全長の短い新型を熱望する声が少なくない。
「そちらは大尉が近所の銃砲店から部品を購入したものを、ガンスミスが組み立てた試作品です」
ハーレークイン小隊は遊撃部隊という性質上、通常の軍隊とは運用が異なる――急襲と離脱を繰り返すことがほとんどだ。
また、飛竜のキャビンといった狭い空間で待機することも考慮して――試作品は銃身や銃床を短く切り詰め、取り回しをよくする工夫が凝らされているようだ。
「昔からある騎兵銃――カービン・ライフルを、当世風にしたのだと仰っておりました。当初は銃身の長さを10インチとしましたが、曳光弾の発火に不具合が生じたため、現在は11・5インチを試しております。また、発砲炎を小さくするため、より大型のフラッシュ・ハイダーを取り付けました。14インチ半の、騎兵銃とほぼ同じ長さに揃えるためです。最終的には、フラッシュ・ハイダーの上からサイレンサーを被せる形で、隠密作戦でのサプレスド火器として運用する予定です。形式上はXM177E2と称しております」
「ふむ――いっそ銃床は、短機関銃のようにしてみてはどうじゃ? 伸縮調整が可能な方式にできるであろう? 空軍のGAU―5のように」
「それにつきましては、大尉は固定式の方がお好みだそうで――格闘で壊れたりすると、射撃に不都合が起きますし。そもそもバッファーチューブがあるため、小型化には限度がございます」
「さもあろう――して、予算の方はいかに通す?」
「それに関しましては、アッパーレシーバーと銃身部分のみを〝補修部品〟として申請する模様です――大尉の申しようを述べます。いわく〝シリアルはロア・レシーバーにしかないから、部品って建前でゴリ押しできる。議会の馬鹿どもは書類の体裁しか見ないザルだ〟と」
「はは――悪知恵が愛いのう。貴官の正直さに免じ、貴族院議員として聞かなかったことにしてしんぜよう」
「恐縮であります――閣下」




