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ハーレークインたちの外交儀礼【隔日夜更新】  作者: Fughse
第6章 猫と風が吹けば桶屋がもうかる真相

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06

挿絵(By みてみん)

「付け焼き刃の連携にしては、まあまあだったが――戦いは〝頭〟を使ってこそだ」

 上官はそう言いながら、歯を食いしばって耐える。

 次に、ミリアムの伸び切った肘を撫でるように触って――尖った部分を親指で弾くように小突いた。

「!?」

 熱湯をかけられたような、抗えない痺れが――ミリアムの左腕全体に広がった。

 彼女の片手を再び封じたヨハンは、組み付いてあっさり拳銃を奪う。

 足をかけながら、背後にまわり――背中を肘で押すように当てられたミリアムは、その場で転んでしまう。

「遊びは終わりだ!」

 彼は狙いをつけると迷わず撃った。

 ただし、その銃口は上空に向けられている。

「あ」

 ソフィアが声を漏らした。

 銃声に驚いた猫が箱から飛び出し、走り去っていくのはほぼ同時だった。

 それを見てヨハンは言う。

「おっと、逃げちまったか――じゃあ、いいか」

 奪った拳銃から、手際よく弾倉と弾丸を抜き取り――彼は部下を見おろした。

「格闘の訓練終了――わかったな? その空っぽになった箱は、ちゃんと元に戻しておけよ」

 ミリアムは顔を上げた。

「訓練……? ですか?」

「事後処理はそういう〝体裁〟ってこと? 箱は戻していいの?」

 頭の整理が追いつかないミリアムの代わりに、妖精の少女が訊いた。

「病み上がりでそれだけ動けるなら、いつでも任務に就けそうだ」

 ヨハンは答えず、足元に散らかしたものを拾い集めて――先に帰っていってしまう。

 その背中にソフィアが言う。

「ぶきっちょ」



 数日後。

 ハーレークイン小隊の兵舎の廊下を、見覚えのある猫が歩いていた。

「おお〝将軍閣下〟だ!」

 廊下で猫と出会った兵士たちは、その場で立ち止まって直立姿勢をとった。

 彼らを統率する下士官が号令をかける。

「全員敬礼!」

 猫のほうは素知らぬ顔で、談話室に入っていく。

 談話室の掲示板には、一昨日の日付で、

〝第99連隊隷下の各部隊ならびに所属の各員は、以下の猫の当基地における鼠、蛇、雀、その他の害虫等の駆除に付帯する警邏活動を全面支援せよ〟という通達が張り出されていた。

 基地司令である、ボーマン大佐の署名入りで。

 馬鹿げた出来事だ。

 しかし、基地司令と旧知の誰かが直談判した――という噂があった。

 何者かがお膳立てをしたらしい。

「いいえ――小官は存じ上げません。ボーマン大佐殿の奥方様が〝プライベートで捨て猫や捨て犬の保護、ボランティア活動に熱心〟などとは。いやはや、まったく初耳です」 

 ヨハンが席をはずした隙をついて、シニアはソフィアとミリアムに〝真相〟を明かした。

 今では基地のほぼ全員が〝ジェネラル〟と呼ばれている猫と顔見知りだ。

 軍医は暇を見つけて、動物病院に彼を連れて行く。

 需品係はこっそり牛乳を横流しし。

 厨房の調理師は、新鮮な魚や鶏肉が〝傷んでいる〟と申告するようになった。

 小骨や軟骨を取り除いてから〝ジェネラル専用〟と書かれた皿に〝廃棄処分〟する――1日に2回。

 幹部たちの執務室の一角には、衝立で仕切られた場所がある。

 テーブルの上に用意した、妖精族用の席でソフィアは休憩をとっていた。

「ジェネラル――パトロールはいいの?」

「にゃーん」

「ん」

 ソフィアは指先から光線を発振させて、それを細かく動かしながら猫の興味を惹く。

 本能を刺激された猫は尻を揺らして力を溜め、タイミングをはかる。

 光線の当たっている床を這うように追いかけ、壁をのぼりだす。

「……いいなあ」

 ミリアムは衝立の隙間から窺える、その様子を横目に――つい本音を漏らした。

 彼女は上官に口頭で日報の報告をしているところだ。

「少尉殿――まだ途中であります」

 シニアに促されて、ミリアムは我に返った。

「あ……」

「いやいや、いいんだ――上級曹長。少尉は優しいから、もう1度、最初からやってくれるはずだよな? 俺も聞き漏らしがあるかもしれんし、細かい報告を聞くのは大好きだ。たったいま、好きになった。ぬへへ♪」

「そんなっ」

 品行方正にして文武両道〝だった〟女騎士は上官の意地悪に悲鳴を上げた。


 翌日の昼下がり、

「この畜生! 心の底から、今畜生だ!」とヨハンは机で怒鳴った。

 彼の視線の先には、シニアが淹れてくれたカプチーノが机の上にあった。

 いつもなら、カップにきれいな山を描いている泡が〝なぜか〟目減りしている。

 猫はヨハンに怒鳴られても、まったく動じた様子もなく――ミルクの泡を舐めた。

 自分に害を加える人間が、この基地にいないことを知っているようだ。

 しかし、ここに1人だけ例外がいた。

「昨日は風が強かったからなあ――風が強いとなんで桶屋が儲かるか知ってるか? 埃が舞ってメクラが増えて、生業にしてる弾き語りに使う楽器が売れる。楽器は猫の革を使うんだぜ? でもって、桶屋が儲かんのは、きっと猫の棺桶の需要が増えるからだ!」

 ヨハンは腰の拳銃を抜いて、スライドを引いた。

 バネの力でスライドが閉鎖する、鋭い金属音を聞いた猫は、

「にゃーん」と言った。

 それから、殺気のこもった形相を見て――書類やペン立てを蹴飛ばしながら、机から駆け出す。

「今日こそ、射撃場の土嚢に生き埋めにしてやる! 待ちやがれ!」

 仕事を放り出した上官に呆れて、

「まったく、大尉ときたら――どうしてあの方はこうも、子供っぽいのか? 猫に向かって大人げない」とミリアムが小言をこぼした。

 机の上でペンを抱えて、書類の上でいつものごとく〝踊る〟ソフィアが言う。

「同族嫌悪――ヨハンの精神年齢が1桁だっていう証拠」

 その辛辣な物言いに、有能な副官の乙女が吹き出した。


第6章 猫と風が吹けば桶屋がもうかる真相

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