05
妖精の少女は、
「……」無言で指先に光を集める。
この場でヨハンの戦闘力を傷つけずに奪い取る――そのための即席の連携だ。
武装を解除すれば、あるいは勝機が見えてくる。
「行けるか? エインセル准尉」
「ん」
ミリアムが訊くと、ソフィアは親指を立てた。
とはいえ油断は禁物だ。
彼の格闘技は軍隊式を煮詰めたように、徹底して手段を選ばない。
矛盾の寓話を格闘技教官に聞かされたとき、
〝盾で殴ればいい〟と反論して、懲罰で幼年学校の敷地を10周――20マイル走らされた逸話が、幼年学校では今でも語り継がれているほどだ。
3人は向き合っている。
「せっかく覚悟を決めたのに、攻めてこねえのか――じゃあ、こうしよう」
ヨハンは拳銃の弾倉を地面に落として、遊底を引いて薬室からも弾丸を抜き取った。
「いい機会だから、俺の超ウルトラ・スーパー・クールなチート・スキルを見せてやる――名付けて〝おねだり〟だ」
彼はベルトに連結してあるポーチからも、予備弾倉を1本ずつ抜いて残らず捨てた。
「ほら」
スライドが後退して、弾切れの拳銃を片手に――そのまま無造作に向かってくる。
一見すると無防備だが。
「……」
試しにソフィアが目くらましの光線を放つ。
「!」
しかし、ヨハンは顎を引いて目の焦点をずらして避けた。
「メスガキちゃん――目線と筋肉の緊張で、狙いがバレバレだ♪」
「これならどう?」
挑発を受けたソフィアはすぐに本気を出す。
指先ではなく、背後に光線の発振用の魔法陣を浮かべて――連発した。
「やるじゃん! さあ、踊ろうぜ!」
身を翻しながら、ダンスのステップを踏むように間合いを詰めてくる。
この上官は、こういうときに必ず罠を張っている。
コートの裾を翻しながら彼は言う。
「俺が勝ったら、前に聞きそびれた――追い詰められた〝女騎士のマントラ〟を唱えさせる! メスガキ妖精ちゃんは、ストリップの刑だ!」
その不埒な物言いに、乙女たちは口々に言い返す。
「なんなんですかっ!? それ!」
「そんな安っぽい罰でいいの?」
ヨハンが空の拳銃を握った手を伸ばす。
ミリアムは反射的に、抜き身の剣でそれを払おうとする。
「!」
鈍い金属音が響いて、剣を握る手首に痛みがはしった。
よく見ると、拳銃から露出した銃身とスプリング・ガイドの間に、刀身が挟まっている。
敢えて銃を撃てなくしたのは、剣を〝掴む〟ための布石だったのか。
「よっと」
その気の抜けた声に合わせて拳銃を回転させると、手首を捻られたミリアムはたまらず――剣を取り落とした。
緩やかに半回転して、地面に突き刺さる。
ミリアムはやむを得ず、反対の手で腰から拳銃を抜こうとした。
上半身を捻り、肩の関節の柔らかさが幸いして――彼女は苦もなくやってのけた。
だが、一手だけ遅れた。
「これもーらった♪」
ヨハンが見せたのは、ベルトに固定されていたポーチから盗んだ――予備弾倉だ。
陸軍の支給品で、2人とも同じものを使っている。
「ほらな? これが超ウルトラ・スーパー・クールなチート・スキル〝おねだり〟だ」
ソフィアが小さな頭を傾げて言う。
「スリの技?」
「ただの手癖の悪さでしょうっ!? それ!」
「だっから〝チート〟って言うんだ!」
反射的に、彼らは言い合った。
おそらく、この上官は最初からこれを狙っていたのだろう。
一連の出来事は、相手の利き手を封じて――彼女が無理な姿勢で拳銃を抜かせるため。
左の脇が開く、その隙を作るように仕向けたかったのだ。
ヨハンが弾倉を装填して、スライドを前に戻すレバーを下げた。
ミリアムが拳銃を握り直して構える――ほぼ同時だった。
「大尉! やめましょう!」
互いに拳銃を向けたが、ミリアムはすぐに銃口をはずして指を伸ばした。
「なんでだ? ここからが面白いのに――じゃあ、ほら。言えよ」
「……なにをですか」
「だっからあ〝く〟で始まる、女騎士が追い詰められたときの台詞だって――なんたって、お前さんは今まさに追い詰められた女騎士じゃん?」
「っ……」
ミリアムの頬が紅潮した。
「だめえ? じゃあ、もう少し攻めちゃうぞ――ぬへへ♪」
そう言うなり、彼は自分の拳銃を捨てた。
「っ!?」
地面に落ちる拳銃に視線を誘導された、その一瞬で膝を沈ませ――彼も地面に倒れていく。
その勢いを利用して踏み込むと、一瞬で彼我の間合いが詰まる。
「姑息な技を!」
「ギグにアドリブはつきもんだ♪」
ミリアムが拳銃を構え直すと、指が気味の悪い蛇のように手首に絡みついてきた。
「エインセル准尉! 今だ!」
彼女は合図した。
それと同時に、ソフィアは指を鳴らした。
「っ!?」
両者、ヨハンとミリアムの間で光だけが爆発するように――眩しく輝いた。
空気中の水分を集め、発振させた複数の光線を束ねて乱反射させ――大きな光源を作り出したようだ。
「……っ」
それを予想していたミリアムは薄目でヨハンの挙動を見極めた。
一時的に視力を失った上官は、手探りで手首を掴んできた。
格闘技の訓練で同じ技を見たことがある。
手首や肘といった場所を捕られて〝力〟と体重の逃げ道を失うと――軽い打撃でも恐ろしい威力になる。
特に体重を乗せた肘を急所に打ち込まれると、子どもの筋力でも大人を悶絶させられるほどだ。
手首を引っ張られるのを、ミリアムは感じた。
「!」
このタイミングを図った彼女は、あえて抵抗をやめて飛び込んだ。
同時に掴まれていない方の手を使って、掌底を繰り出す。
おそらく、ヨハンには防がれるだろう。
だが、次の手は決めている。
ミリアムの掌底がヨハンを捉えた。
彼は頭を突き出して――額で掌底を受け止めてくる。




