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ハーレークインたちの外交儀礼【隔日夜更新】  作者: Fughse
第5章 コラテラルダメージは保険の適用外

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07

挿絵(By みてみん)

 目標を確保した、ミリアムたちのアルファ・チーム。

 彼らは予定の経路を辿って移動中だ。

 唐突に端末水晶が不具合を起こし、

「アンダー・ファイア!」と誰かが敵からの攻撃を報告した。

 伏兵に遭ったとわかり、

「防御態勢! 敵は北東! 距離は至近!」とミリアムは、部下たちに指示を下した。

 担架ごと奪取した目標を木陰に隠し、自分たちも遮蔽物で身を守る。

「っ!」

 敵のいそうな方角に見当をつけて速射する。

 それに呼応して、敵の放つ銃弾が空気を切り裂く甲高い音がした。

 耳の近くや頭上を、敵による無言の殺意が通り過ぎる。

 背後からは斜面に着弾した時に立つ、乾いた枝を折るような音が続く。

 彼女は遮蔽物にした木の幹に平手をついた。

 その手の親指と人差し指で輪をかたどって――自動小銃を簡易的に固定する。

「……」

 銃を構えながら、身体を傾けつつ片目で覗くように窺う。

 木立の向こう――谷筋をはさんだ、反対側の斜面から撃たれているのがわかった。

「……っ」

 照門と照星を敵と重ねて、目の焦点を照星に集中させる。

 標的がぼやけたところで引き金を静かに絞る。

 敵を1人倒したところで、ミリアムは端末水晶をとって――指揮官に状況を報告、応援を頼もうとした時だ。

 不具合を起こした端末水晶が、果たして機能するかどうか。

 その不安がよぎった。

 それが一瞬の隙を生んだ。

「っ!」

 彼女は汗に濡れたような、不快感を脇腹に感じた。

 防具の合金製の抗弾プレートを避けて、横向きの銃弾と破片がめり込んだ。

 別の木に当たった跳弾が、運悪く飛んできたのだろう。

 血の染みが野戦服に広がりはじめる。

〝撃たれた〟

 そう自覚したとたん、ミリアムは脳裏に様々なことがよぎっていく。

 部下たちの無事。

 目標に流れ弾が当たっていないか。

 傷の深さ。

 そして指揮官、ヨハンはどこにいるのだろうか――と。

「少尉! シメオン少尉殿! 急所は逸れてます! お気をたしかに!」

 ミリアムをメイソンが呼んだ。

 彼は危険に身を晒すのを覚悟で、散発的な銃撃を受けつつ駆けつけてきた。

「すまない――1等軍曹」

「いいから傷の圧迫を――撃たれたらそうしろって、あなたが教えたんでしょうがっ! 俺たちに!」

「そうだった……」

 メイソンは手際よく、サージカル手袋を着けて――ミリアムの防具と装具をはずした。

 それから服を切り、傷の具合を診る。

 ミリアムは自分の手で脇腹を押さえた。

 手で押さえると血の滲みがどんどん広がっていく。

 その瞬間、火傷に火を近づけたような――激しい痛みが彼女を襲った。

「っ!」

「だめです! しっかり押さえて!」

 メイソンが代わって傷口を圧迫してくる。

「いいから、1等軍曹――そなたも、各個に反撃せよ。守勢にまわると、目標が危険だ」

 痛みのせいか、腹筋に変な力が入る――そのため、いつもの凛とした声が張れなかった。

 代わりに先任の下士官が大声を出す。

「分隊! 制圧射撃をしながら、スモーク展開! ソフトカバーを作れ!」

 メイソンは仲間に呼びかけて、煙幕を張るように指示した。

「ポッピン・スモーク!」

 その掛け声で誰かが煙幕手榴弾を投げた。

 また、擲弾筒を構える別の仲間が、

「スモークアウト!」と言って煙幕弾を敵の位置に放った。

 その間に、メイソンはミリアムの服の下に手を入れる。

「触りますよ――少尉」

 身体を両手で撫でまわすように、腹部から胸の上――次に腰から背中の上を調べた。

 同様に下半身も足首から膝、太ももから股にかけて――出血や傷の有無を調べる。

「……う」

「駄目です――じっとして。傷は盲管銃創のみ。貫通していません」

「跳弾で、低威力――だった、はず」

 短く区切るように、ミリアムは答えた。

 おそらく弾丸は横向きになって、内臓の手前で止まっている。

 止血剤と血液凝固剤がガーゼと一体化した、銃創用の自己粘着包帯を腹部に巻く。

 止血の処置をしてから、モルヒネと抗生物質を注射器で投与した。

 こうなったら、ここを動くことは難しい。

 となれば、こちらに向かっている――ヨハンたち本隊とブラボー・チームを待つ他ない。

 ミリアムの傷は急所をはずれていたものの、出血が多い――早急に外科手術が必要だ。

 煙幕が囲む中、

〝徐々に敵が距離を詰めてくる〟と仲間が知らせてきた。



 同じ頃、ヨハンたちはアルファ・チームが釘付けにされている場所へ――移動中だった。

「ホーキンス! 俺の背中から鏡とパラコードをとってくれ――サバイバルキットに入ってる」

 ヨハンは部下に背嚢から、中心に孔のあいた信号用の鏡を取り出してもらう。

「これ持って、木の上まで翔べるかっ!?」

 彼はそれに短く切った紐を結んで、ソフィアに差し出した。

「ん」

 妖精の少女は肩からそれを掛けて、背中から生えるアゲハ蝶のような翅を震わせた。

「私が絶対に助ける」

 ソフィアは誰にも聞こえない、小さな声で呟いた。



 負傷していてもミリアムは冷静に自己診断をする。

「ひどく寒い――失血性のショック症状だ……」

「わかってます――少しご辛抱を」

 そう言いながら、メイソンは自分の背嚢から雨具を取り出して――ミリアムの身体を包む。

 被弾したミリアムの応急処置を、メイソン1等軍曹がしているときだった。

 敵の攻撃が止まったところで、

「帝国軍よ――抵抗はやめたまえ」と呼びかけられた。

 戦場に似つかわしくない、穏やかな少年の声だ。

 メイソンが木の陰から覗くと、平服――チャコールグレイの3つ揃いを着た少年がいた。

 浅黒い肌を輝かせながら彼は言う。

「これ以上、その女の子の血を流してはだめだ――投降してくれないかな? 誇りにかけて、決して、悪いようにしない。この僕が約束しよう。なにしろ、君たちからは自国のダムに〝なぜ化学兵器を混入させようとしていたか〟誰の命令で、この偽旗作戦に従事しているのかを聞きたいからね。停戦中に古代遺跡に隠れて、化学兵器を密造していたことも問題だ」

「……自国のダム?」

「化学兵器? 何の話だ?」

 仲間たちは口々に、首を傾げていた。

 それよりも目前の現実――敵の方が問題である。

 まるで悪い夢だ。

 敵の軍を背後に従えているのは――普通の少年にしか見えなかった。

 しかし、メイソンは長らく軍隊にいる。

 大戦中の初期――軍曹になりたての彼は1度だけ魔族を見たことがある。

 帝国に恭順する竜族と同じく、普段は人の姿をしているが――ひとたび、封印を解いて真の姿になれば、絶大な魔力と局所的な災害のような、苛烈な攻撃をしてくる。

 とりわけ〝使徒〟の一族が最も危険視される。

 なにより、彼らは封印された人の姿のままでも――強力な魔法攻撃をしてくるのだから。

「僕の名は……」

 魔族の少年が名乗ろうとしたとき、

「ん?」と彼は首をかしげた。

 その足元から、赤い煙幕が立ち上る。

 空軍との合同演習で、メイソンたちはそれをよく目にした。

 昼間の赤い煙。

 それは上空の飛竜に対して、近接航空支援の際に指示する〝攻撃目標〟だ。

「不味い! 伏せろ! デンジャー・クロース! アベンジャーが来る!」

 そう言って、メイソンはミリアムをかばうようにして――覆いかぶさった。

 同時に別の仲間――擲弾手が、

「フレア・アウト! カラー、グリーン!」と言った。

 彼は真上に向けて、緑色に発光する信号弾を撃った。

 飛竜に誤爆や誤射を避けてもらう、味方の位置を知らせるための手順だ。

 間もなく、ミリアムやメイソンたちアルファ・チームの上空――背後から1騎の飛竜が急降下してきた。

 ホッグ中隊、サンダーボルトⅡ級の騎影が通り過ぎる。

 その主砲である〝アベンジャー〟が放たれた。

 毎分3900発、1発1発が手榴弾の威力に匹敵する――砲弾の豪雨が2度に区切られて降った。

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