06
機関銃の十字砲火が考案されたのは、世界大戦の初期だ。
効果的な運用が前提だが、少数の部隊でも――多勢に打撃を与えられる。
これは実戦で何度も証明されている。
さらにヨハンは、軽機関銃と狙撃銃が同じ口径の弾丸を使用することに注目した。
弾道がほぼ同じであるなら、同じ場所から――精密射撃を行えないものかと案じたようだ。
従来の狙撃手から、より攻撃的な選抜射手という運用の転化と言える。
待ち伏せの一斉射撃においては、効果が期待できると見込んだらしい。
《シックスへ――コワルスキーです。ヘイズが指揮官を仕留めました》
「やったぜ――〝パフパフ・チケット〟1枚ゲットだと伝えろ」
ブラボー・チームの射撃統制を行っている、コワルスキーから通信で報告された。
どうやら、機関銃班が敵の頭数を減らしたおかげで――射線が通ったところを狙撃できたらしい。
「アルファへ――前に出て蹂躙せよ」
指揮官が倒れたなら、残る敵は指揮系統を回復するまで、組織的な抵抗が鈍る。
ヨハンは敵に立ち直る暇を与えないよう、ミリアムに強調して命じた。
《了解! アルファ、攻撃開始》
「ナイナー、再度ピクチャーを寄越せ――送ったら戻ってこい」
ヨハンは上から戦況を確認しているソフィアに命じた。
《シックスへ――こちらナイナー。敵の反撃は散発的。陣形を崩した東側の一部は敗走をはじめている。どうぞ》
「ナイナーへ――シックスは了解。ブレイク、アルファは右手から攻めろ。敵は蹴散らすだけでいい。ブレイク、ブラボー・チームに告ぐ。合図で発砲停止しろ。もう1度告げる。ブラボーは俺の合図で発砲停止。確認したら送れ」
《こちらセブン――アルファ・チームは右手、東から攻めます》
ミリアムの応答に続いて、
《シックスへ――ブラボーは了解。合図を待ちます。308の銃身が真っ赤ですよ。大尉》
つづいて援護班からも応答が返ってきた。
間もなく、小銃に銃剣を着けたミリアムたち――突入分隊である、アルファ・チームが、崩れた敵の一角を急襲する様子が見えた。
「ブラボー! シース・ファイア!」
《ブラボー全隊、発砲停止》
敵味方が、お互いに手が届きそうな間合いで――白兵戦が繰り広げられる。
ミリアムは言われたとおり、またはそれ以上に――敵を恐慌状態に陥れていく。
ヨハンは彼女が幼年学校時代に、剣術の全国大会に出場していたという話を思い出した。
果たしてその実力は、実際の戦場でもいかんなく発揮された。
「おーおー、はりきっちゃって――そんなに自分の〝パフパフ・チケット〟を稼ぎたいのか? スケベな女騎士だぞ、たまらんな♪ ぬへへ」
双眼鏡を覗きながら、ヨハンが言った。
「実質、これがミリアム少尉の初陣みたいなもの――前は監視と援護だったし」
ソフィアが戻ってきた。
それとともに、援護班――ブラボー・チームはその場を撤収すること。
そして、ヨハンの現在位置に集合するよう通達した。
通信専門の准尉が戻ってくると、妖精の少女に本来の仕事を頼む。
「チャンネル0―81だ――上空のホッグ中隊に繋げ」
ホッグ中隊とは、こちらに向かっている空軍の飛竜のことだ。
近接航空支援を専門とする、サンダーボルトⅡ級である。
その状況を本人から直に聞くため、端末水晶の通信帯域の波長をソフィアに切り替えてもらう。
「繋いだ――チャンネル0―81」
《デクレア――我はホッグ・ワン。リョーエン大尉である。貴官らの認証コードを告げるがよい》
「ホッグ飛行中隊へ――こちらはハーレークイン小隊。認証コードは〝栄光の悪意と最悪の幸運〟確認して」
《確認――指揮官に代わるがいい》
「ホッグ・ワンへ――こちらはハーレークイン・シックス。スミス大尉だ。そちらの状況を知りたい。ブレイク、ETAと諸々のピクチャー、それから兵装を教えてくれ」
《ハーレークイン・シックスへ――ホッグ・ワンより申す。こちらの武装を告げる。兵装は主砲、1174発。並びにマーク84の2000ポンド爆弾が3発、マーク82の500ポンド爆弾が6発。2・75インチ対地ロケット・ポッド、14発。M156の黄リン弾のみ。対空装備はなし》
続いて、飛竜の隊長――リョーエン大尉からは順調に向かっていると聞かされた。
ヨハンは彼らに、こちらの戦況の方も間もなく片がつくと告げた。
《……では、我がアベンジャーは火を吹けぬか――無念である》
飛竜のリョーエン大尉が言った。
サンダーボルトⅡ級に属する彼らは、制空権下における航空支援が専門だ。
低空を飛び、一撃離脱を繰り返しながら――正確な砲撃と爆撃を上空から行う。
飛竜の中でも最も危険な任務を引き受ける、命知らずの猛者だろう。
「せっかくお出まし頂いたのに、申し訳ないが――うちの女騎士がはりきっちゃって。〝7砲身パンチ〟は次の機会に拝ませてくれ」
ヨハンはこの場にいない、ミリアムに責任を転嫁した。
その冗談めかした口調にも、リョーエン大尉は生真面目な口調で返す。
《貴官らの策が肯綮にあたったということか――謝辞など無用ぞ。我は飛べるだけでも満足である。人間どもの造りし都は、造りが万事に窮屈にすぎる。エフライムのおひいさまこと、竜王マイア様も〝都とはすべからく雄渾なれ〟と仰せだ。かの方の猶子たる貴殿も承知であろう? これより、予定通り上空を旋回、待機する。我が武威を頼りたくば、遠慮なく申し出るがいい。与力として義務を果たしてしんぜよう》
ヨハンたちが話していると、ミリアムから報告が入る。
《シックスへ――こちらセブン。アルファ・チームは目標を確保。これより地点〝ローマ〟へ、バウンディングを開始。確認を願います》
双眼鏡を手にしたヨハンが目を凝らす。
目標と思しい〝来訪者〟を運ぶ、ミリアムたちの姿が確認できた。
「ん?」
不意に頬骨に何かが押し付けられた。
ソフィアが、ヨハンの顔と双眼鏡の間に割り込んできたようだ。
妖精の少女はそのまま、自分の顔より大きな接眼レンズに顔を寄せる。
「見たいんならそう言え」
「ん」
妖精の少女のために、顔の位置をずらしたヨハンは左目で右の接眼レンズを覗く。
ミリアムたちは、道を塞ぐ敵に小銃で応戦しつつ――離脱するところだ。
「セブンへ――こちらシックス、確認した。ブレイク、ファイブへ。聞いてのとおりだ、送れ」
《……》
しかし、シニアからの応答がない。
ヨハンは装具に身に着けている、端末水晶に表示されている記号を確認した。
表示上は問題なく、端末水晶は正常に稼働している。
「……また通信不良か? ポンコツめ」
「ヨハン」
悪態をついた指揮官の耳を、妖精の少女が引っ張ってきた。
「ちょっと待て」
「だめ――何者かが通信使用帯域に妨害をかけている」
「んん? なんだそれ」
「強力な魔術の結界――それで、通信が妨害された。全チャンネルが応答不可能。ホッグ中隊からの通信も途絶えた」
ヨハンは瞬いた。
「不味いぞ」
珍しく指揮官が狼狽した。
そばにいたソフィアにも、これは想定外の事態なのだろう。
彼女はいつもの無表情から、汗の真珠を1粒だけ滴らせた。




