05
ヨハンは最後の命令を伝える。
「突入分隊を編成する――待たせたな少尉、お前さんの出番だが人員は最小限だ。搬出時は反撃のみに徹し、足を止めるなよ。死地に飛び込むことになるから、覚悟しろ」
「はっ」
命の保証はないとミリアムは警告された。
しかし彼女は、かえって――目の中の青いエメラルドを燃やした。
新任の将校、それも貴族の若者にありがちな――堂々たる戦いへの憧憬を、彼女は抱いているのかもしれない。
「……」
魔界との大戦中、彼らの寿命は僅か17分だと統計が出ているのだが――自分だけは大丈夫だと誰が保証してくれるのだろうか。
ヨハンが少しだけ黙っていたところで、
「私は?」とソフィアが訊いた。
彼は一抹の不安を払拭するためか、いつもの調子で言う。
「俺たち本隊は待機だ――予備兵力としてな。別働隊のエコー・チームを率いるシニアとも連携しなきゃならんし。それにFAC、前線航空管制も並行して行う。指揮官らしく、ふんぞり返ってるさ」
ヨハンが新しい細巻きを取り出そうとしたところで、彼は思いついたように付け足す。
「そうだ――もう1点、突入分隊に通達することがあった。少尉、今回は雨具で担架は作らなくていいぞ。そういう、面倒なことは〝敵がやってくれてる〟から。解散!」
軍曹たちはいっせいに敬礼して、各々の持ち場に戻っていく。
ミリアムは目を丸くしていた。
「まさか、大尉……」
「なんだ、やっと気づいたのか?」
「ミリアム少尉は真面目――そこが良いところ。ヨハンも彼女を見習うべき」
「うっさいぞ、メスガキちゃん――正攻法で行ったら、敵とどこで出くわすかわからない遺跡の中を、右往左往しながら潜っていくんだぜ? で、帰りは荷物を抱えて、やっぱり伏兵に警戒しながら戻ってくるんだろ? そんなの敵に押し付けちまえばいいんだよ」
「そして横取り?」
「そういうこった」
2人の会話を聞きながら、ミリアムはシニアが語って聞かせた――ヨハンの人物評を思い出した。
〝良かれ悪しかれ、任務を達成するためには手段を選ばない〟
また、元帥たちよりも長く戦場に身をおいてきた――帝国陸軍最先任上級曹長はこう言った。
〝戦場においては頼りになる上官だ〟と。
もしも、彼の普段の言動が品行方正――とまで高望みはしなくても。
常識をわきまえた、現場叩き上げの士官――というくらいだったら。
自分は彼に憧れていたかもしれない。
ミリアムは少しだけ考えた。
しかし、現実はままならない。
端末水晶を通じて、ヨハンが小隊に通達する。
「全隊へ――シックスより一方通信で、通達する。重要な指示だから、よく聞け。これから、最も多く敵をぶっ殺したやつに、褒美を出すぞ♪ 俺が昼寝しながら夜なべして作った〝パフパフ・チケット〟だ。責任もって巨乳の女騎士であらせられる少尉殿が願いを叶えてくれるはずだ! 欲しいやつはいるかっ!? なら戦え! キル・ストリークを稼げ! シックス、アウト」
「大尉!」
指揮官が部下を鼓舞する声に、新任の少尉は怒りを露わにした。
副官として――不埒な言動の上官に諫言するため詰め寄る。
ヨハンが離れた場所にいるシニアを呼びだす。
「ファイブへ――シックスだ。状況報告を送れ」
《こちらファイブ――エコー・チームはLZを確保。ブレイク、地点〝ウプサラ〟で待機中です》
シニアが率いる別働隊の任務は、飛竜の発着点を確保することだ。
それから、通信状態を解決するように命じていた。
古代遺跡からは徒歩で1時間ほど離れた場所にある。
そこならば、周囲の地形もあって安全に脱出を図ることができる。
「ファイブへ――シックスは了解した。ブレイク、ナイナーへ。ピクチャーを送れ」
ヨハンが端末水晶でソフィアに呼びかけて〝ピクチャー〟――戦況の観察を報告するよう命じた。
彼女は自ら志願して、遺跡の上を翔んで――最後の偵察に出ている。
目立たずに空を翔ぶ、妖精族だからできる任務だ。
それ以外の小隊員たちは、ヨハンの指示に従って遺跡の周囲に潜伏――攻撃の合図を待っているところだ。
合図の決め手を握っているのは、小隊で1番小さな妖精の少女である。
《全隊に告ぐ――こちらナイナー。敵が出てきた。ブレイク、人数は181人を確認。どうぞ》
「ナイナーへ――シックスだ。HVTのPIDは識別できるか?」
《シックスへ――こちらナイナー。敵の中央で担架に縛り付けられた人間がいる。ブレイク、おそらく優先目標と思われる。どうぞ》
ヨハンは報告を受けると、機関銃と狙撃銃で援護するブラボー・チームに訊く。
「ブラボーへ――目標を確認できるか?」
《シックスへ――ブラボー・ワンは目視でPIDを確認》
《ツー、同じく》
その直後、
《ブレイク、ブレイク、ブレイク――全隊へ。HVTが爆破加害範囲を出た》とソフィアが通信に割り込んだ。
ヨハンは端末水晶に告げる。
「全隊へ――〝帝国万歳〟だ」
《ファイア・イン・ザ・ホール――ファイア・イン・ザ・ホール》
その瞬間、遺跡の入り口に仕掛けた爆薬がいっせいに起爆した。
ヨハンは轟音を聞くと、稜線を利用して身を隠しながら――双眼鏡で様子を窺う。
光を反射しないよう、ストッキングを対物レンズに被せてある。
後日のことだが〝材料〟の持ち主はミリアムだと発覚した。
〝履き古して薄くなったのが、イチバンいいからだ! 盗んでなにが悪いっ!?〟
この開き直りも含めて、彼は副官から長時間の説教を受けるのだが――それは別の話となる。
遺跡の出入り口に爆薬を仕掛けた、シュミットとベイツ、2人の専門は爆破と破壊工作だ。
またはその逆に、地雷や爆弾の解体も行う。
彼らは、小隊が持ち込んだ爆薬だけでは足りないと判断し――味方の遺体からも弾薬を集めた。
そして、古代遺跡の入り口――敵が展開しそうな範囲に仕掛けを施した。
「――っ!」
「……っ!?」
敵の叫ぶ声が山の斜面を反響して聞こえた。
生き残った敵の軍は混乱を見せつつ、目標を中心に囲う方陣のような隊形を組んだ。
奇襲に対応しつつある。
「ブラボーへ――発砲開始。ブレイク、アルファは次のフェーズラインで、突入に備えろ」
ヨハンに命じられた援護班は、陣形を組んだ敵を削るように――確実に倒していく。
そこへ、ミリアムからの応答が返ってくる。
《シックスへ――アルファ・チームは第2フェーズラインに到着。待機しています》




