04
部下が集まった。
「休憩中に悪かったな、お嬢さんたち――まずは聞いてくれ。状況は下方修正された。よって、当初の作戦は全部忘れろ。ってわけで、プランBだ。おっぱいって意味だぞ♪」
そう言って、ヨハンは事前に立てた――作戦計画書の複写をカマドに放り込んだ。
ミリアムの顔色が変わった。
彼女は、
「では、突入――いいえ。任務はどうなさるんですか?」と訊いた。
「目標は確保する――それが俺たちの任務だからな。だろ?」
ミリアムは頷くしかなかった。
彼女にはまだ、現場で上官に異論を唱えられるほどの経験はない。
ヨハンは集まった下士官たちに状況説明を始めるため、ソフィアを一瞥した。
「ん――中継開始」
妖精の少女は、彼らの眼前に小さな魔法陣の公式を浮かび上がらせた。
端末水晶を経由して、ここでの会話を離れた場所にいるシニアに送り始める。
「ファイブへ――シックスだ。感明を送れ」
《……ス――シックス。こちらファイブ。雑音まじりですが、聞こ……す》
ヨハンはソフィアを見た。
「出力を上げられるか?」
「できる――でも、飛竜に搭載した端末水晶のレピータがないと無駄。電離層からの反射がイマイチ」
「だそうだ、ファイブ――ブレイク、これよりシックスから一方通信で送る」
指揮官は小隊軍曹に我慢するように伝えた。
それから改めて、現在の最新情報をまとめて概要を送った。
「……と、以上が現状のインテルになる――諸々の痕跡と情報から、敵に先を越されたと見るべきだ。そこで遺跡への突入は中止。ここで敵を迎撃しよう。幸いにも遺跡の出入り口は1箇所で、敵はこちらに気づいていない。一網打尽にしてやろうぜ」
ヨハンはそう言って、小石と枝を並べた略図を銃剣の切っ先で指示していく。
「まずは遺跡の入り口に爆薬を仕掛ける――目的は敵の退路を断つためだ」
「爆破してしまうのですかっ!? そんな許可は……?」
ミリアムが口を挟んだ。
爆破で敵の退路を断つのは、有効な方法だと彼女にもわかる。
ただ、遺跡は帝国の文化遺産でもある。
貴重な研究史料でもある遺跡に損害を与えては――あとで問題になるのは明白だ。
「少尉の懸念はもっともだが、俺たちの任務は〝目標の確保〟だ――それ以外に生じる、あらゆる被害は、コラテラル・ダメージってことにしよう。もしくは〝敵の仕業〟でしらばっくれる。皆殺しにすれば、死人に口なしだ。他に異論のあるやつは? 遠慮なく申し出ろ」
「さすが大尉」
「やることが汚い」
爆破を専門とする、2人の下士官たちは微笑を浮かべて、口々に言った。
ヨハンはポケットから細巻きを取り出すと、ソフィアを見た。
妖精の少女は一瞬だけ唇を尖らせ――不承不承ながら指先に火を灯した。
芳香を紫煙に漂わせながら、ヨハンは煙と一緒に愚痴をこぼす。
「本音を言うとな――こんな遺跡、さっさと丸ごとぶっ飛ばしちまった方が良いんだよ。ほら、これ、マジでポンコツじゃん? ろくでもねえのばっかり、こっちに寄越しやがる」
ヨハンはそこで濃い煙を吐き出した。
「俺が生まれる前だっけ? その頃に異世界から転移してきたのも、なかなかの〝逸材〟だったらしいじゃん? 回収部隊に囲まれて〝我こそは女神の啓示でこの世に降臨せし、聖剣を携えしダークナイトだ〟ってのたまったとか。ダークナイト? ならそいつ魔族? 敵じゃん! よく、撃たなかったよな、当時の軍は」
「ヨハンと違って、普通の軍人には理性があるってこと?」
妖精の少女がいつもの辛辣な口調で疑問を口にした。
これを無視して、指揮官の無駄口が続く。
「でも、そのダークナイト様――めっちゃ切れる剣しか持ってなくて、帝都の主計局で事務員やってるんだろ? タイミングを千年単位で間違えたってことは、マジでポンコツじゃん、この遺跡。だいたい、トラックも避けられない間抜けが、こっちで何の役に立つんだよっ!? あと〝聖剣〟は印刷物の裁断機に有効活用されてるらしいぜ♪」
ヨハンは半分ほどに短くなった細巻きを地面に捨てて、軍靴で踏みにじった。
「大尉、さきほどから脱線がすぎます」
腕を組んだミリアムがついに注意してきた。
「もし女神が壊れてんなら――そのケツに、対戦車ライフルをぶちこんで〝オーバーホール〟してえな。マジで」
「そこまで」
ついにソフィアも注意した。
しかし、妖精の少女は上官よりも不穏なひと言を付け足す。
「そもそも女神は、こちらの次元を■■■してN次■の事象の地平から次の■■と■■■を待ってるから――禁則処理に邪魔された。未来の前世で関わるのに」
妖精が言うと洒落に聞こえないところが――実にたちが悪い。
「……」
ミリアムが咳払いをして誤魔化した。
気を取り直して、ヨハンは集まった部下たちの中から、数人を見つけ出す。
「さっき野次ったのはシュミットとベイツか――賛成した以上、責任持ってお前らが爆薬をセットしろ。信管は有線の手動、合図は俺が滅多に口にしない言葉にしよう」
「帝国万歳」
ソフィアが即座に言った。
その意味を理解した古参兵たちは、いっせいに失笑を漏らした。
彼らは笑いながら、軍曹の1人がうなずく。
「たしかに、大尉の口から聞くことはなさそうですぜ」
「ありがとよ、メスガキ准尉殿――お前さんは、ほんと俺の理解者だな」
ヨハンが皮肉めいた口調で言った。
これにソフィアは、
「どういたしまして」といつもの調子で返した。
「褒めてないぞ?」
「知ってる」
ミリアムの咳払いに追い立てられたヨハンは、引き続き指示を下す。
「次はROE――火力運用と交戦規則だ。まず援護班のLMGの設置は2箇所、目的は敵を釘付けにすることだが、HVT、救出目標への被害を避けるために適宜、手加減しろ。同じ理由で、グスタフ、グレネードといった殺傷力のある爆発物は全面禁止。これは徹底しろ。狙撃班は2手に分かれて、敵が遺跡の背後に周ろうとしたら食い止めろ。スポッターは機関銃の射撃統制に専念だ。コワルスキー、ハインツ、頼むぞ」
「あいよ、大尉」
「了解です」
2つの狙撃組を率いる先任の下士官たちが、手を上げて命令を確認したことを伝えた。




