表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/19

03

挿絵(By みてみん)

 ヨハンは副官の諫言を、左の耳から右の耳に素通りさせた。

 彼はポケットから細巻きを取り出して、

「火、くれ――火」とソフィアに魔法で煙草に火をねだった。

「嫌」

 妖精族のソフィアは即答した。

 便利だという理由で、マッチ代わりにされれば無理もない。

 舌打ちして、ヨハンは自分で火を付ける。

 次に、居並ぶ下士官たちの中心にいた、眼帯の老兵――シニアに訊く。

「全員、上級空挺徽章は取れたんだっけ?」

「はい――大尉。先週、全訓練過程を修了いたしました」

 シニアは慇懃に答えた。

「ギリギリだったな――そんじゃ、空挺の手配だ。それから降下地点を決めるぞ。目標地域の南側の5クリック以内で、最適の場所を選定しろ。そしたら、バンジョウ大尉に正式に飛行要請を出す」

 シニアは片方しかない目を瞠目させた。

 経験豊富な彼は、指揮官が何をしようとしているのか――すぐにわかったらしい。

「南側ということは」

「夜に降りる――HALOでな」

 ヨハンはこともなげに言った。

 HALO――高高度降下、低高度開傘は危険を伴う。

 夜間であればなおさらだ。

 しかし、現地は停戦協定に伴って、軍隊の駐留と展開を禁じられた非武装地帯である。

 緩衝地帯に、軍隊が入るところを見られるわけにはいかない。

 敵にも味方にも。

 また、速やかに部隊を展開させるには、空挺が最善手だ。

 さらにヨハンは言う。

「それともうひとつ、必要なものがある――ルートビアって野郎の、正確な位置座標を随時受信しないと話にならん」

「ルートヴィヒ」

 ヨハンの言い間違いを、ソフィアが律儀に訂正した。

 それに取り合わず、上官は銃剣を抜いて、地図上の円をなぞっていく。

「この範囲を小隊で捜索ってのは、ぞっとしない――1クリック以内に絞るぞ」

 直径1クリックの円の端から端までは、平地であれば徒歩で20分。

 走れば10分で移動可能な距離だ。

 武器の有効射程を加味すれば、分散した味方が待ち伏せにあっても――5分少々で、援護位置につける、ということらしい。

「しかし、大尉――ゼブルン氏の〝コンパス〟の情報は、ギルドによって秘匿されておりますが」

 ミリアムが割り込んだ。

「取りに行けばいいだろ?」

「どうやってですかっ!?」

「俺たちが腰からぶら下げてるのはなんだ? 股間の――紳士の蛇口じゃないぞ」

「下品」

 ソフィアが言って、不埒な上官から距離を取ろうとして翔んだ。

「生意気なメスガキちゃんめ」

「ん」

 ヨハンはわざとらしい口調でふざけ、ソフィアの短いスカートを指で弾こうとした。

 妖精の少女は上に飛んで、あっさりそれを躱す。

「おっと、今日も白か――でも、お前さんにはピンクが似合うって言っただろ?」

 上を見ながら、ヨハンは親指を立てて言った。

 下着を覗かれたソフィアだが、彼女は怒った様子もなく、

「あなたの好みなんか、知らないもん」と淡々と答えた。

 ミリアムが上官の不品行に対して注意を怠ったのは、彼の発言の意図のほうが深刻な問題だったためである。

 ヨハンが先ほど匂わせたのは、言うまでもなく拳銃の使用――武力行使である。

 この指揮官は、冒険者組合協会の本部を襲撃し、必要な情報を強奪するつもりだ。

「無茶苦茶です! そんなの、法を犯すことになります!」

 ミリアムは副官の権利である――不当な指示に対して異議を唱えた。

 しかし、ヨハンはまったく気にしていないようだ。

「先に御託を抜かしたのは連中の方だろ? うちじゃツケは利かないって――よその馬鹿どもにも思い知らせないとな」

 この上官はやはり危険人物だ。

 任務を達成するために〝手段を選ばない〟とは聞いていた。

 だが、ここまで正気を失っているとは――想像以上だった。

「大丈夫だって、殺すやつはちゃんと生命保険に入ってるのを選ぶから――それなら誰も損はしないだろ?」

 物騒な減らず口を飛ばすヨハンの耳を、ソフィアが引っ張った。

「待って――私は反対」

 妖精族というのは変わっているとは聞いていた。

 それでも、この気が触れた上官と違って、常識をわきまえている――はずだ。

「正面からの襲撃は、こちらも多少の被害を被る危険性がある」

「ん……?」

 ソフィアの諫言はしかし、ミリアムの期待した方向と少し違っていた。

「したがって、少数班による潜入工作が妥当――それから、陽動と撹乱も必要。銀行を放火すべき」

「特務准尉……?」

「それだ! さすが、お前さんは俺の良き理解者だ――脅迫してまで軍に無理やり入隊させてよかったぜ」

「ん」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ