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挿絵(By みてみん)

 大河を挟んだ此岸には、ヨハンたちの住む〝帝国〟がある。

 対岸には巨大な連邦国家が――両大国はそれぞれ向かい合って存在した。

 帝国はその勃興より、神から啓示を賜った〝神姫〟の下にまとまった。

〝神姫〟にまつろわぬ、対岸の勢力を〝魔界〟と呼ぶことが伝統となっていく。

 また、その魔界を支配する――複数の種族からなる王家のことを〝魔族〟と蔑称することが定着していく。

 2百年前の産業革命を経て、物流の要として大河の重要性がいや増した。

 両国は互いに、大河の領有権を主張しあう。

 もちろん、権益の独占が狙いだ。

 やがて中洲のような都市国家郡を巡って、戦争が始まる。

 実に千年ぶりの世界大戦だ。

 しかし、古代のように百年とは続かなかった。

 10年ほどで両国とも多大な犠牲と損耗によって、厭戦気分が蔓延してしまう。

 帝国が局地戦で僅かな勝利を得た年。

 都市国家群の帝国への恭順をきっかけに、両大国で停戦協定が結ばれた。

 間もなく講和交渉が始まる。

 ところが、外交は遅々として進まず――例の大河に浮かぶ中洲の地域は国際政治の宙に浮いた。

 暫定的に緩衝地帯として、その自治と独立を認めているのが現状だ。

〝停戦協定を盤石にするため〟

〝両国の国交と国際社会からの信頼回復のため〟

 もっともらしい、理屈の積み木が出来た。

 その上で、中洲の都市国家郡に、帝国も魔界連邦も互いに軍隊を置くことを禁じた。

 非武装の緩衝地帯とすることに、大筋で合意するため。

 そうして、半年ほど経った。

 市民生活にようやく安定の兆しが見えた頃、帝国陸軍は新たな部隊を創設した。

〝ハーレークイン小隊〟

 この遊撃部隊が、帝国の公文書に初めて載ったのはこのときだ。



 3日前。

 帝都の郊外にある第99連隊基地、通称は〝ノーマッド〟だ。

 その中にある兵舎の一角、談話室に軍人が集っていた。

 普段は酒瓶やコーヒーカップ、賭け事に使われるカードの類で散らかっているテーブル。

 この日ばかりは片付けられていた。

 廊下に続く扉が開き、

「傾注!」と軍人たちの中心で声を張るものがいた。

 その号令に従って、彼らはその場で直立した。

「ごきげんよう、諸君」

 現れたのは若い女性士官のミリアムだ。

 ハーレークイン小隊の副官を務める、新任の少尉である。

 輝くプラチナブロンドの髪を、獅子のたてがみのようになびかせて、彼女は入ってくる。

 その後ろから、

「シニアから聞いたと思うが、週末はピクニックだぞ――お嬢さんたち」とくだけた調子で現れたのは、指揮官で大尉を務めるヨハンだ。

 肩の上には妖精の少女――ソフィアが無言で腰かけている。

 彼は隣のミリアムを見た。

「概要は少尉から頼む」

「はっ」

 彼女は凛としたよく通る声で告げる。

「諸君に与えられる任務内容は戦闘捜索救難――CSARである。目標地域は緩衝地帯の外縁部、26クリック地点。対象は白金級冒険者の称号を頂く、ルートヴィヒ・フォン・ゼブルン氏。民間人だ」

「この範囲」

 妖精の少女がヨハンの肩から降りて、地図の上に立った。

 ソフィアはペンを抱えるようにして持った。

 そのまま地図の上で、踊るような軽やかな足取りのまま、正確な縮尺で真円を描く。

 その大きさと地図の縮尺を見て、

「……」

「うーわ」

 集まった下士官たちは露骨に憮然とした嘆息を漏らした。

 どう見ても、30人で編成される1個小隊が制圧できる範囲ではない。

 下士官たちに不満の空気が漂うと、

「あー、やだやだ」と指揮官であるヨハンが便乗した。

「んっん」

 横に立つミリアムが咳払いをして上官を窘めた。

 しかし、彼は構わずに言う。

「いやだってほら、せっかくの初任務で〝わーい人がいっぱい殺せるぞ〟って喜び勇んでみたら〝緩衝地帯に入り込んだ貴族の馬鹿の尻拭いをしてこい〟しかも〝彼がどこにいるか実はわかってません〟だぜ――俺じゃなくたって、嫌味くらい言いたくなるだろ?」

 ヨハンは先ほど統合参謀本部で会った、諜報局員の口調と声色を真似してみせた。

「おまけに緩衝地帯での秘密任務だから、単独作戦行動だ――航空・火力、両方とも支援はいっさい受けられないし〝帰りの足は自分で調達しろ〟だとさ。小学校の学級会で誰も級長に立候補しなくて、家に帰れなくなるほうがよっぽど気が楽だぜ」

 当初、統合参謀本部は、救出対象者のゼブルン氏の位置情報を得ようとした。

 彼に貸与されている、アーティファクト――通称〝コンパス〟から発せられる信号を探知するために。

 冒険者組合協会に情報提供の要請をした。

 だが、協会の規定では本人の許可を得られないと、その情報は第3者に明かせないとのことだ。

 したがって、現段階では救出対象者――ゼブルン氏の位置を大まかにしか推測できないという話だ。

「馬鹿かよっ!? 律儀に個人情報を守って、人命を蔑ろにしてることに、気づいてないのか――ギルドの連中は。わざとかっ!? こうなったらもう、こっちも手段を選んでる余裕はねえな」

「大尉……」

「やっと面白くなってきた」

 妖精の少女、ソフィアが同調した。

「特務准尉まで――2人とも、士気にかかわりますから、控えてくださいっ」

 ミリアムは声を落として言った。

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