01
ハーレークイン小隊のアルファ・チームは、ヨハンの指揮下で戦闘中だ。
「後方よし!」
「バックブラスト・エリア・クリア!」
部下が次々に言った。
直後に、
「撃て」というヨハンの合図で、一斉に2門の携帯無反動が放たれた。
真横にいるだけで、脳天を揺らすような轟音がした。
それとともに、猛烈な勢いで筒状の兵器の後方から詰め物が噴出される。
発砲の反動を打ち消すための仕組みだ。
その反対側、すなわち筒の先端からは目にも止まらない速度で、多目的榴弾が飛翔していく。
轟音が重なり、2発の弾頭が命中して炸裂した。
《シックスへ――ブラボー・ワンは弾着を確認。効果あり、効果あり》
離れた場所から、ヨハンたち突撃分隊を援護する別働隊から報告が入った。
交戦していたのは、石像のような遺跡の守護者だった。
異邦の神、または天使を象ったような造形だ。
複数の顔と腕を持つ、異形の怪物は――現代兵器の前にあっさりと自慢の機動力を奪われた。
〝ギギギ〟
両足を完全に破壊された守護者は、油の切れた歯車のような耳障りのする音を立てた。
最後の動力で敵に一太刀を浴びせようと、這いずるように近づいてくる。
「悪あがきしてんじゃねえ! くたばってろ!」
ヨハンは自ら自動小銃を構えて、守護者の手にそれぞれあった剣や槍といった得物の根本を狙い撃ちにした。
数発のライフル弾を撃ち込まれた刀身が次々に折れていく。
守護者は本体こそ小銃の弾丸を完全に防いでしまう。
古代に造られた代物とは思えないほど頑丈な作りだった。
だが、この怪物の生まれた時代は剣や弓、または槍や投石を武器にした戦士しかいなかった。
戦場に銃がなかった――中世以前の遺物だ。
現用のライフル弾は並みの甲冑ならば貫通する。
剣に当たれば容易く折れる。
そうして時間を稼いで、距離をとりながら発砲を繰り返して、部下からの連絡を待つ。
《シックス、シックス――ファイブは目標を確保。搬出を開始》
間もなく、待ちかねた知らせが届いた。
《シックスへ――こちらナイナー。目標確保を上空から目視確認した》
「爆破用意!」
ヨハンは止めを刺すため、部下に仕掛けさせた梱包爆薬の起爆の指示を下そうとする。
「さがって遮蔽とれ! その穴に飛び込め!」
守護者と交戦していた突撃分隊に隠れるように命じた。
彼らは無反動砲の着弾で窪地のように地面が抉れた場所に次々と滑り込んでいく。
最後に転がり込んで、
「やれ」と、ヨハンは爆破担当の下士官に命じた。
「ファイア・イン・ザ・ホール! ファイア・イン・ザ・ホール!」
部下は大声で爆破の合図を知らせ、起爆装置を作動させた。
その瞬間、先ほどの無反動砲を凌駕する衝撃と轟音が、周囲に響き渡った。
土埃の中で、肩の触れ合う距離にいる部下たちにヨハンは言う。
「視界が回復するまで、この場で待機――全周警戒」
「了解」
「わかりました」
しばらくして、風に土埃と煙が運ばれていく。
《シックスへ――ナイナーは今そこに戻る》
「あいよ――メスガキちゃん」
ヨハンはツバの広い野戦帽をとって、埃をはたきながら言う。
「朝の発破は格別だ、ってな」
守護者を木っ端微塵に撃破したことを確認して、部下たちに頷いた。
その背後で物音がした。
「ブルー、ブルー」
友軍の誤射を避ける符丁を相手が告げてきた。
彼は咄嗟に、引き金にかけた指をまっすぐ伸ばした。
現れたのは味方だ。
「ご無事でなにより――ほら准尉殿もこちらに舞い降りてきましたよ。幸運の妖精が」
小隊軍曹を務める上級曹長が言った。
「ただいま」
妖精の少女がそこに降りてくる。
彼女がヨハンの肩に腰掛けたところで、上級曹長は言う。
「では移動しましょう」
彼の足元には、雨具と木の枝で作った即席の担架がある。
そこに鎧を脱がされ、下着姿の青年が気を失ったままくくりつけられている。
着用していた白銀のフルプレートメイルは、部品ごとに解体してあった。
小隊で荷物と体力に余裕のある下士官たちが運ぶ手筈だ。
「さすがシニアだ――さあ、お嬢さんたち! 0時の鐘を鳴らすぞ!」
ヨハンは突撃に参加した部下をまとめ上げて、撤収の指示を出していく。
「ブラボー全隊へ――シックスだ。アルファはこれより、集結地点〝リバプール〟までトラベリングする。〝お荷物〟のせいで少し時間かかる。ETAは25分。ブレイク、ブラボー・ワンはそのまま監視と援護を維持。ブレイク、ブラボー・ツーは〝ニューヨーク〟地点に先行して周囲を確保。確認したら送れ」
間もなく命令を受けた部下たちから、応答が返ってくる。
《ブラボー・ワン、了解――お任せを》
《こちらツーのセブンです――地点〝ニューヨーク〟に移動します》
ヨハンは、
「あ、そうだ」と何かを思い出した。
「どうしたの?」
肩の上にいた妖精の少女が訊いた。
「ハーレークイン、全隊へ――今日、1番手柄を立てたヤツには、少尉が褒美に尻を撫でさせてくれるらしいぞ。シックス、アウト」
ヨハンはいつもの命令を下すときと同じように、大真面目な口調で部下たちに通達した。
背後からは部下の下士官たちの笑い声がした。
ただひとり、表情の変わらないソフィアが言う。
「不謹慎」




