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ハーレークインたちの外交儀礼【隔日夜更新】  作者: Fughse
第5章 コラテラルダメージは保険の適用外

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02

挿絵(By みてみん)

「ここまでが、まあ――表向きの派遣理由ってやつだ。軍の広報に載せられる範囲の話ってやつで」

「ええ」

 シニアが頷いてから、補足する。

「統合参謀本部が、我々に下した真のHVT――主要目標は〝来訪者〟が敵勢力に渡るのを、阻止することであります」

「場合によっては、俺らの手でぶっ殺すのも手だ――そうしたら〝誰にも渡さなくて済む〟じゃん?」

「ちょっと、大尉! あなたはなんてことを!」

 ミリアムが声をあげた。

 帝国において〝来訪者は丁重に迎え、その身を安堵する〟と寺院では定められている。

 古代の〝神姫〟が定めた古い経典の通りだ。

「あ、そっか――お前さん、修道院の出だもんな」

 ミリアムが、

〝そういう問題ではない〟と言いかけた。

「さしあたって、部下たちを掌握して出撃の準備にかかります――その地方の出身者がいたので、作戦立案前に、現地の細かい情報を聞けるでしょう」

 それを聞いたヨハンは、

「ちょっと待て」とシニアを呼び止めた。

 上官は机を回り込んで、自分の引き出しを開けると――封の切っていない細巻き煙草の箱を取り出した。

「持ってけ――コワルスキーとクルグロフに渡せ」

 そう言って箱を放る。

 何も言わなくても、小隊軍曹はそれが情報提供者への褒美だと理解したようだ。

 シニアが士官の執務室を出ていく。

 残ったヨハンたちは、統合参謀本部から持ち帰った情報を再度整理した。

 作戦の概要をまとめ――現時点で判明している情報を〝インテル〟として書き込んでいく。

 広げた地図の上に、透明なフィルムをかけるのはこのためだ。

 戻ってきたシニアの追加情報を分析・検討――彼らは深夜に及ぶまで作戦を煮詰めた。

 内容は当日の気象予報にくわえて――月齢まで及ぶ。

 満月か新月で、夜間の行動には大きく差があるためだ。

 例えば、月明かりに照らされたとき――夜間でも稜線に出た人影は存外目立つなど。

「まあ、今回は帝国領内だから火力・航空支援も頼めるし――ちょっとくらい敵の数が多くても、なんとかなるだろ」

「予断をもって当たるのは禁物です――大尉」

 ミリアムが生真面目に言った。

「あー、うんうん――わかってるって、学級委員長殿。油断してっと、味方の砲撃に吹っ飛ばされちゃうもんな。数字をひとつ間違えただけで、部隊が全滅もよくあることだって、言いたいんだろ?」

「いいえ、そうではなく」

「じゃあ、俺は大佐にOPORD――作戦計画書を出してくるから、お前さんたちは分担して、武器と装備品の検査を部下どもにやらせておけ」

 準備を整え、少し仮眠をとってから。

 ハーレークイン小隊は、第99連隊基地の発着場に集まった。

 そのまま、飛竜の抱えるキャビンに乗り込んで飛び立つ。



「俺も1回、異世界に転生してみたいなあ♪」

 着陸地点で、自動小銃の銃口を地面に向けながら飛竜から降りたところだ。

 そこで、ミリアムから点呼の報告を聞いたヨハンが言った。

「は?」

「行き先は、俺より駄目なやつばっかのナーロピアンたちの国で、そこでマヨネーズを作りながらスーパーマンになる――それすると顔と身体だけ良い、頭と股の緩い女どもにモテまくるんだろ? ハーレム腹上死で昇天してからこっちに戻ってくる」

 これに対して、妖精の少女――ソフィアが短く言う。

「戻らなくていい」

「なんだヤキモチか? メスガキちゃん」

「ん」

 この上官の無駄口は聞くだけ損だ。

 ミリアムもそろそろ学習したのか、

「コワルスキー2等軍曹と、クルグロフ伍長を斥候として前に出します」とだけ告げた。

 2人ともこの地域の出身の下士官たちだ。

 そのため、地理や動植物に詳しい。

 道案内を兼ねた斥候に適役だろう。

 ハーレークイン小隊は、軍用車両1台分――20フィートの間隔をあけて移動を始める。

 例によって、ヨハンは縦隊の際に部隊の中心に位置する。

 縦列から数歩横にずれ――前後が見渡せる場所を彼は歩く。

 こうした野戦教範に則った行動をとる際にかぎり、彼は常に模範的だ。


 全員、正確にはソフィアを除き――今回は防具を含めてかなりの重装備を持ち込んでいる。

 なにしろ、正体不明の軍が相手だ。

 用心に越したことはない。

 頭に被るのは鉄粉と繊維状に加工した硝子を折り重ねて、固めた複合材で作られたヘルメット。

 それを固定するのは、顎と後頭部を繋いだ最新式のハーネスだ。

 これは軽量な作りで、小銃弾の直撃こそ貫通してしまう。

 それでも、砲弾の破片や拳銃弾程度ならば防ぐことができる。

 交戦中に被弾しやすい、上半身の防具は胸部から腹部と背中に――それぞれ合金製の1枚板を削り出した、抗弾プレートが追加されている。

 個人装備は防具の上だ。

 サスペンダーとベルトを利用した、弾帯と手榴弾用のポーチ――拳銃のホルスターと銃剣。

 弾薬は小銃の30連発弾倉に、29発ずつ詰めた予備を最低6本――拳銃の弾倉は3本。

 シニアやローガン、メイソンといった古参兵は伏射での小銃の取り回しを考慮して――あえて旧式の20連発弾倉を愛用する。

 その場合は、追加で30連発弾倉を追加で3本持ち歩く必要がある。

 手榴弾は破片式のものを2個――煙幕は白を2、と赤と緑をそれぞれ1個ずつ。

 腰の後ろ側には1クォートの柔らかい樹脂製の水筒を左右で2つ、背面に衛生・救急用品といった個人装備を下げる。 

 ここまでは、ほぼ全員が共通する――ベーシックロードというものだ。

 これに重ねて役割に応じ――持ち込む擲弾筒や無反動砲をスリングで背負う。

 背嚢はほとんどの小隊員が、軽量で丈夫な市販品――登山用を流用する。

 中身は選別して軽量化した糧食、予備の水筒――防水袋にまとめた着替えや薄手の寝袋、それから雨具など。

 それらにくわえて、役職に応じた弾薬、または爆薬を運ぶ――特に嵩張るのは、軽機関銃と無反動砲の弾薬だ。

 軽機関銃に必須の予備の銃身、無反動砲の多目的榴弾と徹甲弾は――機関銃手と火器担当下士官の助手が運ぶ。

 ヨハンやミリアム、シニアなどの幹部は弾薬よりも重要な――野外通信用の端末水晶と、伸縮・延長用の折りたたみアンテナや通信ケーブルも持つ。

 1個小隊という少数部隊であることから、ヨハンとシニアは擲弾手をも兼ねる。

 そのため、2人は擲弾筒と多目的榴弾を12発――発煙弾と照明弾を4発ずつ追加で持つ。

 余談だが、正規の擲弾兵――グレネーダーが運ぶ多目的榴弾は、24発とベーシックロードでは規定される。

 ベーシックロードを元に、その改良案をくわえた指導を主導したのはシニアだ。

 共通する装備と弾薬は、全員が同じ場所に同じ物を収納するように。

 演習のときから、必ず指示を受けた。

 理由は緊急時に対処するためだ。

 仲間の装備を借りる必要が生じた場合――お互いに何を携帯しているか、いちいち探す手間を省くのが目的だ。

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