02
「ここまでが、まあ――表向きの派遣理由ってやつだ。軍の広報に載せられる範囲の話ってやつで」
「ええ」
シニアが頷いてから、補足する。
「統合参謀本部が、我々に下した真のHVT――主要目標は〝来訪者〟が敵勢力に渡るのを、阻止することであります」
「場合によっては、俺らの手でぶっ殺すのも手だ――そうしたら〝誰にも渡さなくて済む〟じゃん?」
「ちょっと、大尉! あなたはなんてことを!」
ミリアムが声をあげた。
帝国において〝来訪者は丁重に迎え、その身を安堵する〟と寺院では定められている。
古代の〝神姫〟が定めた古い経典の通りだ。
「あ、そっか――お前さん、修道院の出だもんな」
ミリアムが、
〝そういう問題ではない〟と言いかけた。
「さしあたって、部下たちを掌握して出撃の準備にかかります――その地方の出身者がいたので、作戦立案前に、現地の細かい情報を聞けるでしょう」
それを聞いたヨハンは、
「ちょっと待て」とシニアを呼び止めた。
上官は机を回り込んで、自分の引き出しを開けると――封の切っていない細巻き煙草の箱を取り出した。
「持ってけ――コワルスキーとクルグロフに渡せ」
そう言って箱を放る。
何も言わなくても、小隊軍曹はそれが情報提供者への褒美だと理解したようだ。
シニアが士官の執務室を出ていく。
残ったヨハンたちは、統合参謀本部から持ち帰った情報を再度整理した。
作戦の概要をまとめ――現時点で判明している情報を〝インテル〟として書き込んでいく。
広げた地図の上に、透明なフィルムをかけるのはこのためだ。
戻ってきたシニアの追加情報を分析・検討――彼らは深夜に及ぶまで作戦を煮詰めた。
内容は当日の気象予報にくわえて――月齢まで及ぶ。
満月か新月で、夜間の行動には大きく差があるためだ。
例えば、月明かりに照らされたとき――夜間でも稜線に出た人影は存外目立つなど。
「まあ、今回は帝国領内だから火力・航空支援も頼めるし――ちょっとくらい敵の数が多くても、なんとかなるだろ」
「予断をもって当たるのは禁物です――大尉」
ミリアムが生真面目に言った。
「あー、うんうん――わかってるって、学級委員長殿。油断してっと、味方の砲撃に吹っ飛ばされちゃうもんな。数字をひとつ間違えただけで、部隊が全滅もよくあることだって、言いたいんだろ?」
「いいえ、そうではなく」
「じゃあ、俺は大佐にOPORD――作戦計画書を出してくるから、お前さんたちは分担して、武器と装備品の検査を部下どもにやらせておけ」
準備を整え、少し仮眠をとってから。
ハーレークイン小隊は、第99連隊基地の発着場に集まった。
そのまま、飛竜の抱えるキャビンに乗り込んで飛び立つ。
「俺も1回、異世界に転生してみたいなあ♪」
着陸地点で、自動小銃の銃口を地面に向けながら飛竜から降りたところだ。
そこで、ミリアムから点呼の報告を聞いたヨハンが言った。
「は?」
「行き先は、俺より駄目なやつばっかのナーロピアンたちの国で、そこでマヨネーズを作りながらスーパーマンになる――それすると顔と身体だけ良い、頭と股の緩い女どもにモテまくるんだろ? ハーレム腹上死で昇天してからこっちに戻ってくる」
これに対して、妖精の少女――ソフィアが短く言う。
「戻らなくていい」
「なんだヤキモチか? メスガキちゃん」
「ん」
この上官の無駄口は聞くだけ損だ。
ミリアムもそろそろ学習したのか、
「コワルスキー2等軍曹と、クルグロフ伍長を斥候として前に出します」とだけ告げた。
2人ともこの地域の出身の下士官たちだ。
そのため、地理や動植物に詳しい。
道案内を兼ねた斥候に適役だろう。
ハーレークイン小隊は、軍用車両1台分――20フィートの間隔をあけて移動を始める。
例によって、ヨハンは縦隊の際に部隊の中心に位置する。
縦列から数歩横にずれ――前後が見渡せる場所を彼は歩く。
こうした野戦教範に則った行動をとる際にかぎり、彼は常に模範的だ。
全員、正確にはソフィアを除き――今回は防具を含めてかなりの重装備を持ち込んでいる。
なにしろ、正体不明の軍が相手だ。
用心に越したことはない。
頭に被るのは鉄粉と繊維状に加工した硝子を折り重ねて、固めた複合材で作られたヘルメット。
それを固定するのは、顎と後頭部を繋いだ最新式のハーネスだ。
これは軽量な作りで、小銃弾の直撃こそ貫通してしまう。
それでも、砲弾の破片や拳銃弾程度ならば防ぐことができる。
交戦中に被弾しやすい、上半身の防具は胸部から腹部と背中に――それぞれ合金製の1枚板を削り出した、抗弾プレートが追加されている。
個人装備は防具の上だ。
サスペンダーとベルトを利用した、弾帯と手榴弾用のポーチ――拳銃のホルスターと銃剣。
弾薬は小銃の30連発弾倉に、29発ずつ詰めた予備を最低6本――拳銃の弾倉は3本。
シニアやローガン、メイソンといった古参兵は伏射での小銃の取り回しを考慮して――あえて旧式の20連発弾倉を愛用する。
その場合は、追加で30連発弾倉を追加で3本持ち歩く必要がある。
手榴弾は破片式のものを2個――煙幕は白を2、と赤と緑をそれぞれ1個ずつ。
腰の後ろ側には1クォートの柔らかい樹脂製の水筒を左右で2つ、背面に衛生・救急用品といった個人装備を下げる。
ここまでは、ほぼ全員が共通する――ベーシックロードというものだ。
これに重ねて役割に応じ――持ち込む擲弾筒や無反動砲をスリングで背負う。
背嚢はほとんどの小隊員が、軽量で丈夫な市販品――登山用を流用する。
中身は選別して軽量化した糧食、予備の水筒――防水袋にまとめた着替えや薄手の寝袋、それから雨具など。
それらにくわえて、役職に応じた弾薬、または爆薬を運ぶ――特に嵩張るのは、軽機関銃と無反動砲の弾薬だ。
軽機関銃に必須の予備の銃身、無反動砲の多目的榴弾と徹甲弾は――機関銃手と火器担当下士官の助手が運ぶ。
ヨハンやミリアム、シニアなどの幹部は弾薬よりも重要な――野外通信用の端末水晶と、伸縮・延長用の折りたたみアンテナや通信ケーブルも持つ。
1個小隊という少数部隊であることから、ヨハンとシニアは擲弾手をも兼ねる。
そのため、2人は擲弾筒と多目的榴弾を12発――発煙弾と照明弾を4発ずつ追加で持つ。
余談だが、正規の擲弾兵――グレネーダーが運ぶ多目的榴弾は、24発とベーシックロードでは規定される。
ベーシックロードを元に、その改良案をくわえた指導を主導したのはシニアだ。
共通する装備と弾薬は、全員が同じ場所に同じ物を収納するように。
演習のときから、必ず指示を受けた。
理由は緊急時に対処するためだ。
仲間の装備を借りる必要が生じた場合――お互いに何を携帯しているか、いちいち探す手間を省くのが目的だ。




