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ハーレークインたちの外交儀礼【隔日夜更新】  作者: Fughse
第4章 女騎士のミリアムは上官に屈しない

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07

挿絵(By みてみん)

 ミリアムは小隊の中で、野戦時の応急処置や救命処置に関する講義で教官を務めた。

 実家から離れたい一心で、全寮制の修道院に入った。

 その経験が――ここでも活かされることになるとは、思っていなかった。

 それに、所詮は新米と卑下した自分が――この小隊にとって必要な人材なのだと自覚できたことは、素直に喜ばしかった。

 教官に指名されたこともあって、ミリアムはヨハンという――厄介者でありながら、不可解な実力者でもある上官を徐々に見直していく。

 彼は普段の言動こそ、およそ貴族将校らしからぬところばかり目立つ。

 それでも、演習や訓練といった――仲間の命が関わる場面になると、彼は別人のように模範的な将校として部下を統率する。

 教導隊に長らく務めていたシニアの訓練は厳しかった。

 だが、着実に小隊の能力を底上げしていった。

 そのシニアに、上官の過去について少しだけ聞いた。

 非公式の情報ながら〝道化師〟の引き起こした、弑逆未遂事件に居合わせた時のことだ。

 彼は自爆テロリストの爆弾から、身を挺して〝神姫〟を庇ったそうだ。

「まさか、そんなっ」

 ミリアムは愕然とした。

 あの上官が帝国の象徴たる〝神姫〟の、文字通り盾となった。

 彼が救国の英雄だとは、とても信じられなかった。

 そうしたこともあって、彼に対する評価を改めていたのだが。

「……あ」

 ミリアムがシャワー室から出たときに、脱衣所でヨハンと目が合った。

「大尉! 今は女性の使用時間です!」

 咄嗟にタオルで身体を隠して、彼女は声を張った。

 内心では激しく狼狽しながら。

「いや、違うんだこれは――聞いてくれ」

 ヨハンは弁解をはじめた。

 彼は初めて会ったときから、ミリアムのことを気にしていたのだと言った。

「え……」

 タオル1枚で身を守る乙女が瞬くと、ヨハンはさらに、

〝どうしても確かめたいことがある〟と語った。

「な、なんですか?」

「ちっと待て――確認する」

 そう言って、ヨハンはミリアムが用意していた新しい下着を勝手に広げた。

「ちょっと!」

「お、やっぱ合ってた――31のFだ。な? やっぱり、俺の目は確かだったわけだ。ん? どうした? なんで肩を震わせてんだ? 湯冷めか……?」

「……」

 ミリアムは無言で、手近にあった空の洗濯籠を掴んで投げつけた。

「いきなりなんだよっ!?」

 抗議を無視して、さらに別の凶器――手の届くものならばなんでも手にとって、次々に投げながら、大声を張る。

「それはこちらの台詞です! よりにもよって、婦女子の入浴している脱衣所に忍び込んで、勝手に下着を調べるなんて! それが帝国軍人――いいえ、人として間違っているとは思わなかったんですか!」

「男なら誰だってやることだ!」

「こんな馬鹿な真似をするのは、大尉だけです!」

 そう言って、ミリアムは両手で持った洗濯籠をヨハンの頭からぶつけるように被らせた。

 その上、彼女は視界を奪った相手の手首を掴んで引き――身体を捻るようにして肘を打ち込んだ。

「ぐぇえ……」

 みぞおちを両手で押さえながら、不埒な上官は潰れたカエルのような声とともに――その場に崩れ落ちた。

 身動きのできない上官から、下着を取り返し――隣接しているトイレに飛び込む。

 手早く着替えを済ませた。

 脱衣所に戻って、ヨハンをさらに叱責しようとしたが――上官は既に逃げ出して、どこにも姿はなかった。

 それから2日間。

 ミリアムは怒りが収まらず、職務上に必要ないかぎり――不埒な上官とはいっさい口を利かなかった。

 3日めの朝。

「これをやるから、この前のことは水に流してくれ」

「……」

 そう言って箱をあけて見せてきた。

 中身は既製品ではあったが、明らかにハイブランドの下着の上下に――ガーターベルトのセットだ。

 およそこの場にふさわしくない、最低最悪の謝罪表明だろう。

 ミリアムは声を低くして言う。

「一応――いかなる企図かを、お伺いしてさしあげます」

 執務室に居合わせた――というより、相変わらずヨハンのカップを無断借用して風呂にしていたソフィアも便乗して訊く。

「新しいセクシャルハラスメント? ところで――私のは?」

 裸を露わにして、割り込んできた妖精の少女に――ヨハンはいつもの調子で返す。

「メスガキ妖精ちゃんは、まず――そのぺったんこのサクランボを育てるんだな。話はそれからだ。〝肥料〟のやり方は巨乳の女騎士少尉に教われ♪」

「ふーん?」

 妖精の少女の冷たい視線がヨハンの背中を射抜く。

 彼はそれに気づかず、プレゼントをミリアムに差し出してくる。

「俺が悪かった! さあ、許してくれ!」

 ミリアムにしてみれば――可燃ゴミを押し付けられるよりも不愉快だ。

「いりません! そんなの!」

「めっちゃ高かったのにひどい! サイズがぴったりなのは、俺が保証するから着てくれよ! お立ち台も用意する! あと扇子とボディコン・ドレスも! プレイリストはもうじき出来るから!」

「嫌です!」

「じゃあ、パフパフでいいや――今のうちにしっかりしたやつで、そのおっぱいを守っておかないと、年取ったら垂れるぞ? 俺は良かれと思って……」

「余計なお世話だと、申し上げております!」

「ボーマン大佐に報告してあげる――ヨハンがセクハラして、ミリアム少尉が下着を受け取ったって」

「おいやめろ!」

「駄目だ、エインセル准尉!」

 ヨハンとミリアムがほぼ同時に答えた。

 そうして、執務室で朝から騒いでいると、

「大尉、統合参謀本部から出頭せよとのご命令です」とシニアが入室してきた。



 戻ったヨハンとシニアは、

〝出撃命令が下った〟と知らせてきた。

 最初の任務は〝緩衝地帯〟で行方不明となった、白金級冒険者――貴族の若者の捜索救難だ。

 夜間の空挺での不法越境と〝守護者〟と呼ばれた、古代のゴーレムとの戦い。

 救出対象者を黙らせるために、プロポフォールとフェンタニルの〝カクテル〟を注射。

 不正規戦を専門とする、ハーレークイン小隊の任務は――最初から不可能に近い命令だった。

 もっとも、次の作戦は常にそれを上回る。

 ただし、この時点ではミリアムはもちろん――ヨハンもそのことを知らない。

 こうして、巨乳の女騎士の受難が――過酷な任務に従事する日々が始まる。


第4章 女騎士のミリアムは上官に屈しない

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