04
「敵襲!」
浅いうたた寝をしていたミリアムは、歩哨の声を耳にして――目を開いた。
「分隊、制圧射撃しながら交互躍進! 敵は寡兵だ! 火力の優位を崩すな!」
その的確な指示で、武装パルチザン役のローガン1等軍曹はあっさりと降服した。
彼女は拘束した〝パルチザン〟を尋問し、ヨハンの率いる分隊の状況を聞いた。
「ああ、大尉たちなら――とっくに移動してましたよ」
「えっ!?」
予定では、野営地点を確保する時間のはずだ。
しかしローガンは、さも当然と言わんばかりに告げる。
「いいえ、少尉――上級曹長が仰ってたでしょう? 〝野営地点を確保し、武装パルチザンの奇襲に対応する〟と。野営地点を確保しても、そこで野営するかどうかは、各分隊指揮官が判断することです。また、交戦以外の方法で対処することを禁じられていません」
「やられた!」
ミリアムは歯噛みした。
おそらく、ヨハンはブラボー分隊がここで野営するところを見ていたのだ。
そこで、自分たちは野営地点の確保だけして――先に進むことにした。
ミリアムは部下をまとめて、ホーキンス2等軍曹に事情を話した。
「私の判断が間違っていた――今から出立して、再びアルファを追い越すことは可能だろうか?」
「大変だとは思いますが、可能かと」
「部下たちにも詫びねば」
「いえいえ、少尉殿――お気持ちだけで。それに、こんなのは慣れっこですよ。あの大尉の下にいたら、もっとヤベー目に遭いますから!」
ホーキンスは新任の少尉が殊勝な態度を覗かせると、
「まだ負けてませんよ」と人当たりのいい笑みで言った。
それに後押しされ、ミリアムは再び進む勇気を貰えたような気がしてくる。
ミリアムのブラボー分隊は、それからかなりの無理をして――チェックポイントを通過していった。
最後のチェックポイントを通り、近くの陸軍基地が近づいたとき。
前方を歩いている、ヨハンたちを目視できた。
目標が見えると、自然とミリアムたちの駆け足のペースが上がっていく。
そして、ついに再び彼らを追い越した。
陸軍の基地にたどり着いたミリアムたちは、息を整えると――用意された的を狙い撃っていく。
射撃が終わって、シニアが1等軍曹たちの報告をもとに総合点を集計した。
その頃になって、ようやくヨハンたちが到着した。
「え、すごいな――お前さんたち、もう全部クリアか」
上官は素直に感心したようだ。
「だが……」
彼が続けてなにかを言いかけたとき、野戦服の肩に腰かける妖精の少女――ソフィアが耳を引っ張って注意した。
「あとにして――まだ時計は回ってる」
「おっと、そうだな」
彼らは射撃場に並んでいる部下たちのところに戻った。
相手チーム、というよりも――ヨハンの射撃の腕前が気になったミリアムはその様子を見に行く。
アルファ分隊の下士官たちの射撃の腕前も、ミリアムたちのチームと同程度だ。
つまり、優劣を分けるとしたら指揮官――ヨハンとミリアムにかかる。
「なっ!?」
新任の少尉は息を呑んだ。
記録で実感するのと、実技を目の当たりにする体験には――しばしば雲泥の差がある。
上官はスリングを左腕に巻き付け、なおかつその腕をまっすぐ伸ばす――独特な構えで自動小銃を構えて撃つ。
理にかなっている――スリングで銃と身体を強固に密着させ、なおかつ左腕を伸ばして構える。
疲れやすい反面、連射の反動を抑えやすいはずだ。
戦慄を覚えるほど早い連射速度は、毎分にして250から300発で――引き金を絞っているが、銃口はほとんど跳ねていない。
彼は鼻歌まじりに、的のほぼ中心を射抜いていく。
「……」
落ち着きを取り戻すため、彼女は点数を冷静に計算して自己採点する。
射撃の分では、ヨハンたちのアルファ分隊がリードした。
反対に行軍では自分たちが優位に立っている。
「……ほぼ同点か?」
そこへ、
「ん」と言って、ソフィアが机の上にあった、予備の弾倉の上に立った。
「これ――私の分も撃たせてあげる」
「あいよ――メスガキちゃん♪ ボーナス・ステージでヒャッハーだな?」
「ヒャッハーは余計」
ヨハンはそのまま射撃を継続した。
彼はあっという間に全ての射撃を終えた。
汗を拭いながらも涼しい顔のまま、集合場所に戻る。
間もなく、両分隊の成績が発表された。
行軍ではミリアムの分隊が1時間以上の点差をつけた。
しかし、最後の射撃で大差をつけられた。
点数の上では、結局逆転されてしまった。
「納得いきません!」
ミリアムは抗議した。
野営の際の判断といい、ヨハンは指揮官として奇策ばかりを弄した。
最後の射撃にいたっては〝半ば反則〟だろう、と。
「少尉殿のご指摘には一理あります――しかしながら、採点係として、今回の演習ではやはり大尉に軍配を上げたいと存じます」
シニアは慇懃な口調で言った。
「なぜか? 理由を申せ」
「ご自分の率いていらした、部下を顧みてごらんなさい――ほぼ同じ目標をこなしていながら、なぜこれほど疲労に差が出ているのでしょうか?」
「……」
ミリアムの率いていたブラボー分隊は、疲労困憊といった様子だ。
それに対してアルファ分隊は、疲れてこそいた――だが、談笑する程度の余力は残している。
「指揮官たるもの――相手チームへの対抗心と場当たり的な判断で、部下をいたずらに疲弊させるべきではありません。もしも今、敵襲があったとします。ブラボー分隊と少尉は、戦力としてどこまで機能しますか? 演習は完全燃焼を目指す青春の部活動とは違います。訓練は実戦と同じく行動し、実戦は訓練と同じ行動をすべきであります」
シニアは相変わらず、穏やかな口調で諭した。
上級曹長とは軍隊における生き字引の象徴だ。
彼が丁寧語で若手の上官を嗜める――この迫力は体験した者にしかわからない。
「……」
ミリアムが歯噛みしていると、そこにヨハンが近づいてきて言う。
「反省会はあとにしようぜ――日頃、鈍ってた部下どもに喝を入れられたし、俺も少尉もこれでお互いがどんな指揮官か、よくわかった。演習のお題目は達成しただろ? そもそも、今回は親睦を図るのが目的だったんじゃないか?」
ミリアムは顔を上げた。
「ヨハンが真っ当な訓示をするのは、これが初めて――明日は雨?」
野戦服のポケットから出てきて、ソフィアが言った。
「そんなことより、早く〝ノーマッド〟に帰ってビールを飲もうぜ――約束通り、少尉の奢りでな!」
「甲斐性なし」
妖精のソフィアが小声で言った。
彼らはこれから基地に帰る。




