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ハーレークインたちの外交儀礼【隔日夜更新】  作者: Fughse
第4章 女騎士のミリアムは上官に屈しない

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03

挿絵(By みてみん)

 州境の山林の中腹にある幹線道路。

 野戦装備を身に着けた軍人たちが、ぞろぞろと軍用のトラックから降りて――整列していく。

 勝敗が決着した暁には自分の方針に従って、小隊は綱紀粛正をすること。

 という条件をミリアムは出した。

「それはいいが〝万が一〟お前さんが負けたらどうすんだ? なんでも俺の好きにしていいのか? 例えば、そこに実ってる未踏峰を舐るとか」

 ヨハンは何かを揉みしだくような仕草をしながら、彼女の胸元を見て言った。

 本人は、いやらしい目つきをした上官を前に毅然と、

「常識の範囲内でお願いします」と言った。

 ところが、彼は首をかしげる。

「常識ね――それって〝絶対に間違えないけど、他人の金勘定しかやったことない、無責任な銀行員みたいなもんだ〟ってことだよな? 西海岸の金持ち女と結婚した私立探偵が言ってたぜ? 本で読んだことあるぞ」

 これに対して、

「ほんとに字が読めるの?」と妖精の少女――ソフィアが辛辣に訊いた。

「……」

 人数の割り振り上、片方の分隊が1人少なくなった。

「私がヨハンの方に入る――これで平等」

 人数の上ではそうだ。

 だが、射撃を含む演習では――妖精族の出番はそれほどない。

 そうであれば、射手が多い方が有利だと言える。

「両者とも――よろしいですか?」

「ちょっと待った――俺の分隊が勝ったら、少尉には全員にビールを振る舞ってもらおう。おいお前さんたち! 手を抜いてくれたら、少尉がビールを奢ってくれるぞ! いいな、手加減しろよ!」

 ヨハンは大声を張った。

 ミリアムは憮然として、嘆息した。

 シニアから、彼は勝つために手段を選ばないと聞いていたが。

 この程度で〝仕事〟に誇りをもつ、職業軍人の下士官たちが懐柔できるなら――将校は苦労しない。

「絶対、あんな人に負けたくない」

 ミリアムは誰にも聞こえないように、口の中で呟いた。


 軍隊の、それも歩兵の基本は文字通り歩くことだ。

 それに従って、シニアが指定した座標の場所を通過。

 目標は、ある区画をLZ――飛竜の離発着地点として確保、補給物資を受領する。

 その後は野営地点を定める。

 1等軍曹たち審判員が〝武装パルチザン〟として、襲撃するかもしれないので、それに対応する。

 翌朝は来た道を折り返して、往路とは別の指定された場所を通過。

 最後は近くにある陸軍の基地に到着し、その射撃場で分隊ごとに指定された弾数を発砲。

 総合的な優劣を決する――という流れだ。

 ほぼ2日間にわたる〝状況〟で、それなりに過酷なものとなる。

 とはいえ、この演習を通じて――ヨハンの指揮官としての能力が〝ある程度〟把握できるだろう。

 勝敗よりも、そちらを知ることが目的だった。

「時間です」

 シニアが腕時計を見ながら、静かに言った。

「ブラボー分隊、前へ」

 ミリアムはそう言って、ホーキンス2等軍曹に先導を命じると自らは2番手に付く。

 コンパスを片手に、進行方向と歩数を確認する役割を担う。

 始まる前は、日頃から緩い規律に親しんだ部下たちが――新任の副官である自分の命令に、素直に従ってくれるかどうか。

 少しだけ不安だった。

 しかし、演習中の〝状況下〟において、部下たちは意外なほど従順で忠実だった。

 むしろ模範的ですらある。

 この〝切り替え〟の落差は、実に職業軍人らしい。 

 最初のチェックポイントを通過した頃だ。

「少尉殿――前方にコンタクトあり」

 先導するホーキンスが片手で肘を曲げつつ、握りこぶしを上げて言った。

 ミリアムも手信号を後ろに続く部下に伝え、次にその場で姿勢を下げるように命じた。

「先行したアルファですよね?」

 ミリアムは小型の双眼鏡で素早く前方の人影を見る。

「確認した――アルファだ」 

 ヨハンが率いる分隊は、1時間前に出発したはずだ。

 ミリアムは彼らに追いつくため、体力に余裕のある序盤から行軍速度を上げていた。

 離れた場所から観察すると――アルファ分隊は道に迷ったというより、何らかの目標物を探している雰囲気だ。

「ああ、なるほど」

 ホーキンスが何かに気がついたようだ。

「言ってくれ、2等軍曹」

 ミリアムは部下に発言を許した。

「水場を探してるんでしょう――明日の夕方は、この辺りを通りますから」

「補給なら、LZでできるはずだが――なぜそんな無駄なことを?」

「あー、多分あれです――エインセル准尉のワガママですよ、きっと。〝ここの水は精霊がお喋りだから、お風呂にすると楽しい。帰るときに持ち帰って〟とか、妖精だし言いそうでしょう? ……知りませんけど」

 ミリアムはこの後のことを考えた。

「……」

 ヨハンたちを追い越して、先に進むか。

 あるいは彼らに倣って、この辺りの水場を確認しておくべきか。

 あの上官のことだ。

 素直に通した体裁で、自分たちに道案内をさせて楽をするつもりか。

 しかし、そうなれば彼らは1時間の点差を容認してしまう。

 それだけ差が開くならば、最後の射撃でも優位に立てるだろう。

 それに、ミリアムは射撃というものがどうも苦手だった。

 点数だけは平均を保てる。

 だが、他の成績が優秀なだけに――その部分が悪目立ちしてしまう。

 それを彼女は気にしていた。

「先導を交代、速度を落としつつアルファを追い越す」

「了解」

 ミリアムは小休止をとらせていた部下たちを立たせ、行軍を再開した。

 それからは、さほどの障害もなくチェックポイントを通過。

 ミリアムたちの分隊は飛竜の離発着地点を確保し、補給を受け取った。


 野営地で交代しながらの休息。

 防水透湿のビビイサックでくるんだ、寝袋の中での仮眠をとる。

 いつもそうだが、透湿が本当に機能しているか実に疑わしい。

 夏でもないというのに。

 服に染みた汗のせいで、極薄のメリノウール肌着が――張り付いて寝苦しい。

 肩の装具が、鎖骨に擦れるせいで痛い――腰の外側も同じく不快だ。

 明け方の湿気を帯びた空気が、草花の青臭さと蜜のかすかな匂いを濃くする。

 息をするだけで、肺が重たくなっていく。

 疲労が溜まっているようだ。

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