第15章 婚約破棄の解決手段はショットガン 06/10
ルートヴィヒが〝必殺技〟を放つ。
「エターナル・バトルアックス!」
「馬鹿かよっ!? 〝そこ〟で力んでどうすんだ!」
ヨハンは戦斧を受け止める寸前で、半身を捻って攻撃を躱し――膝から体重を抜いて、崩れおちるように転がった。
強化外骨格鎧の仮面の奥から、嘲笑が飛ぶ。
「紛い者の正体を見たり! 憫然を越して、滑稽さに限り一流の諧謔あり! まこと下賤にふさわしい! この道化は国士無双に程遠く、凡百無冠に紙一重なり!」
やだやだやだやだオイラは逃げ切りたい♪
お母ちゃぁああん オイラを逃がしてよ♪
悪魔がやってきてオイラを騙したせいだ♪
きっとそうだ、オイラ悪くないぃいいい♪
〝必殺技〟を躱されたルートヴィヒ。
無様な避け方をしたヨハン。
観客たちは英雄を応援し、道化者を罵倒した。
「踊ってるのはどっちも一緒なのに?」
そう言って、妖精の少女は小さな頭を傾げる。
ヨハンは地面を転がって、ルートヴィヒの股の間に仰向けで滑り込む。
そこで、拳銃を抜いて撃った。
弾丸は甲冑に命中したが、当然――装甲に阻まれて貫通はしない。
そして、当たったのは彼の臀部の中央だ。
「これがほんとの〝尻アス〟展開だぜ! ざまぁあ!」
ヨハンが下品な口調で喚いた。
《っぶ!》
ルートヴィヒの後ろ姿を見たマイアが、思わず失笑を漏らした。
手のひら返しで、石を投げてくるのかよ♪
おい、こんな扱いをするの酷くないかい♪
オマケに結局オイラを見殺しにするかい♪
可愛い子ちゃんまで、酷いことするかい♪
いいもんね! ならこっちも好きにやる♪
まず逃げる! 絶対ここから逃げ出すよ♪
ルートヴィヒと、彼の誇る白金の装甲が輝く強化外骨格鎧を――全力を尽くして、虚仮にする。
このためだけに、ヨハンはわざわざ競技用の拳銃弾を調達して――拳銃に込めた。
競技に使われる〝ワッドカッター〟という種類の弾頭は、的に命中すると――綺麗な真円の弾痕を刻む。
「これはひどい――あれほど、貴族の面目を保つよう、ご注進を申し上げたのに……」
ルートヴィヒの甲冑の〝尻〟に刻まれた、弾痕を一瞥して――立会人を任された、シニアはうなだれた。
ヨハンは立ちあがりながら、ルートヴィヒに挑発を仕掛ける。
「ほら来いよ――あと30秒、踊ろうぜ?」
そう言って、さらに散弾銃にスラッグ弾を込めて――撃ち続ける。
だが、やはりルートヴィヒの鎧を貫くには――威力が足りない。
ただただ、弾が潰れて――強化外骨格鎧の表面にへばりつく。
「無駄なことを! 賤民は真の貴族に逆らえぬ! 天地開闢より、弱者は強者にひれ伏すのが道理!」
銃撃が連続するせいで、一方的にヨハンが攻めているようにも見える。
だが、ルートヴィヒや観客には――違う姿に映っていた。
事実として、ヨハンは鎧に通用しない銃撃を繰り返すばかりで――決め手にかける。
そのことを理解したルートヴィヒは、恐れずに間合いを詰めて――敵を仕留めようとした。
そのたびに、ヨハンは地面に転がり――泥だらけになりながら、大ぶりの一撃をかいくぐって躱す。
「っ!?」
ルートヴィヒは違和感を覚えているようだ。
「……」
生身のヨハンがいかに身軽とはいえ、自分の攻撃が紙一重で躱され続けている。
〝敵〟が疾いわけでも、自分の強化外骨格鎧に――不具合があるわけでもない。
実際のところ、原因はヨハンが着ている斑模様の〝ピエロの衣装〟にあった。
その独特な模様が土汚れに塗れることで、目の錯覚を誘発し――遠近感を僅かに狂わせている。
ヨハンがピエロの衣装を着たのは〝悪ふざけ〟ではなかった。
誰もそれに気がつなかっただけで。
彼はただ貪欲に〝手段を選ばず〟戦い、勝とうとしている――国士無双ではなく、表裏比興の者として。
両者は拮抗しているかのようだが、実情は異なる――依然としてヨハンが不利だ。
持ち込んだ銃弾には限りがある。
それが尽きれば、もう――彼に抗うすべはなくなる。
決闘を見守る人々は理解していた。
ヨハンは機敏に動き回って、ルートヴィヒの攻撃を躱し続けているが――やがては体力も尽きる。
「さあ潮時だ」
ヨハンの残弾が2発になった。
彼は装具から、シェルの色が〝緑色〟のものを掴んだ。
2日前。
決闘に際して、ヨハンは慎重にルートヴィヒの着用している強化外骨格鎧について――調べていた。
その鎧は完全閉鎖式のもので、近接攻撃や銃弾をはじめとした――あらゆる攻撃から、着用者を守るよう設計された。
また、毒ガスや神経ガスといった生化学兵器に対しても――専用の空気清浄機構が内蔵されており、対応できる。
さらに、着用者の運動を助けるために――内部には衝撃吸収材を兼ねた人工筋肉と、機械式の筋力増幅機構も組み込まれている。
「聞いてますか? 大尉」
取り寄せた、ルートヴィヒの強化外骨格の仕様書を――ミリアムがかいつまんで読み上げていた。
ヨハンは頷いて、神妙な面持ちで答える。
「ああ〝フーチー・クーチー・マン〟のフーチーは男性器で、クーチーが女性器って意味で、合わせて〝女たらしの絶倫野郎〟ってとこまで聞いてたぜ――ホントいい曲だよな?」
彼なりに、強化外骨格鎧のハイブリッド仕様を――皮肉ったのだろうか。
しかし、2人の乙女たちには通じなかった。
「真面目に――聞く耳はある? 理解できる頭はないみたいだけど」
辛辣に言って、妖精の少女がいつものように――彼の耳を引っ張って叱った。
嘆息を漏らしつつ、ミリアムが仕様書に目を落とす。
人工筋肉は、銃撃を受けた場合――衝撃を吸収し、熱エネルギーに変換する。
動作は内蔵のタービンがバルブと連動し、空気圧の過給によって行われている。
それらを機能させる、外気の取り込みは――背部の換気口を通す。
「まるで、アキレスみたいな〝ムテキング♡〟ってわけだ」
ヨハンは調べ物を手伝ってくれた、2人の乙女たちに言った。
妖精の少女は、
「アキレスは完全無欠じゃない――足首が彼の弱点なのを知らないの?」と有名な故事を引き合いに訊いた。
「俺ちゃん〝知らなかった〟ぜ――たった今まで」
ソフィアはこのやりとりで、鎧の弱点にヨハンが気づいたと確信した。
そして彼女は、
「終わったら、それちょうだい」と言った。
机においてある、決闘の小道具に使うために用意した、ギニー金貨が――陽射しを受けて輝いた。
まるで、ヨハンの勝利を約束するかのように。
オイラには、全部みんなどうだっていい♪
誰だってみんなおんなじだって知ってよ♪
ぜーんぶ他人事だって思い知って頂戴よ♪
オイラには関係ないもんね♪ こんなの♪
風の吹くままケセラセラ♪ そうだよね♪
再び現在へ。
「エターナル・バトルアックス!」
決着が近い。
戦斧の一撃を再び躱し、散弾銃を構えたヨハンは、
「エターナル・ドラゴンブレス!と吠えた。
ルートヴィヒの必殺技をもじった、悪質な真似だ。
そして引き金を絞る。
「っ――!?」
ルートヴィヒの視界に映ったのは、巨大な炎の塊だった。
そのとき、ヨハンの散弾銃からは正しく竜の息吹きのような――炎をまとった、散弾の嵐が放たれた。
燃える散弾は、これまでと同じように――ルートヴィヒの装甲を貫くことはできなかった。
「ヒャッハー! こいつはオマケだ!」
それでも、ヨハンは再び――同じく火を吹く散弾を浴びせた。
1発目が発火不良、または効果が足りないときに備えた――予備の弾丸を。
残弾が尽き、空の散弾銃を投げ捨て――拳銃を左手に持ち替える。
後退したままのスライドの、横にあいた――排莢口から、薬室へと弾を装填した。
その間も、ルートヴィヒの最強の鎧は燃え続けている。
「勝った」
妖精の少女が呟いた。
ヨハンとソフィア以外の、全員が異変に気がついたのは――この頃だ。
「……?」
「……」
先ほど撃った〝ドラゴンブレス〟は、曳光弾に使われる――燃焼剤を定着させたものだ。
しかし、それだけでは――強化外骨格鎧の全身を燃やすことは不可能なはず。
にもかかわらず〝ドラゴンブレス〟が、命中しなかった部分からも出火している。
《デデン♪ 説明しよう!》
いつのまにか、端末水晶を手にした――ヨハンが声をあげた。
《その1! 俺が撃ちまくってたのは、ただの弾じゃない――マグネシウム製の特注品だ! その2! この馬鹿は、全身が防弾だからって調子こいて、しこたまマグネシウムの弾を喰らった! その3! 砕け散ったマグネシウムは、めっちゃ燃える!》
ヨハンはわざとらしく〝説明台詞〟のように、現状を語った。
はじめに撃ち込んでいた、スラッグ弾は布石だ。
大量のマグネシウムを、燃料とするための――そして最後の〝ドラゴンブレス〟弾で、着火した。
彼は、燃え上がるルートヴィヒの傍に――無造作に歩み寄っていく。
多少の熱や火炎では、甲冑や――中にいるルートヴィッヒに、損傷を与えることはできないはずだった。
しかし、
「……!」
ルートヴィヒは戦斧をとり落とすと、急に苦しみだし――その場で狂ったように、暴れはじめた。




