第15章 婚約破棄の解決手段はショットガン 02/10
決闘の6日前。
「まったく〝やんごとなきお方〟は、えげつない手を使うものですな――戦場で相まみえる敵の方が、よほどフェアに感じます」
決闘の条件を確認したシニアが憮然として言った。
ミリアムがその後を引き継ぐ。
「大尉――献策をよろしいですか?」
エフライム邸に、拠点――帝国に滞在するサムエルの仮御座所を移し、彼らは知恵を絞って上官を助けようとする。
「言ってくれ」
ヨハンが促すと、副官の女騎士は威儀を正す。
「は――申し上げます。狩猟に使う、水平または上下2連式の散弾銃をご用意されてはどうでしょう? これならば、2発ずつ連射もできます。また、エフライム中将閣下がお定めあそばした、上記の規定にも適うかと」
「なるほど」
シニアは頷いたものの、次の懸念を示す。
「しかし、散弾では威力が足りません――貫通を狙ってスラッグ弾を用いますか? いえ、そもそもエネルギー量が足りないおそれが……」
「どうするの?」
寝椅子に転がっている上官の顔を、ソフィアが覗き込んだ。
今度ばかりは、この冷徹な妖精の少女も心配しているのか。
ヨハンは半身を起こして、駄々をこねる。
「なんかこう、チートな魔法でバーン! ドーン! ってやっつける方法とかないのっ!? 俺だけ、なんでこんな目に遭わなきゃならねえんだっ!? ぜんぶぜんぶ――クソったれのドラゴン・ロリババアのせいじゃんっ!」
彼の無駄口が止まらない。
「俺ちゃんだって、同じ顔した頭と股の緩い美少女たちに、安っぽいホステスみたいな台詞で〝さすがー♪〟と〝すごーい♡〟を連呼されながら――スローライフしつつ〝実は最強でしたテヘペロ♡〟って感じのキャラになりたーい!」
「自業自得」
妖精の少女は相変わらず冷徹な口調で断じた。
ソフィアは続けて言う。
「そもそも、人間に魔法の詠唱なんて出来ないのに」
しかし、それにも――ヨハンは噛みつく。
「なんだと! 呪文くらい、知ってるっつうの!」
「どんな?」
「えーっと〝テクマク・マヤコン〟〝マハリク・マハリタ〟〝アブラ・カタブラ〟と――〝オブラディ・オブラダ〟どうだっ!?」
ヨハンの勢いに負けず、ソフィアは無表情のまま返す。
「どうもこうもない――それ本当に使えるの?」
「無理! だって、俺ちゃん〝日曜朝の魔法少女〟じゃないもん! こんなに可愛くて、賢いのに! 世の中、間違ってる!」
「可愛くもないし、そもそも賢くない――間違ってるのは、あなた」
「マジぴえん」
ヨハンとソフィアが織りなす、いつもの漫才を見せられた――ミリアムが声をあげる。
「2人とも、いいかげんになさい! まったくもうっ」
有能な副官に窘められたヨハンは、肩をすくめた。
「こうなったら、奥の手だ――これだけは、使いたくなかった。危険すぎるからな……」
「どうなさいます?」
シニアに訊かれて、彼は答える。
「抱腹絶倒のギャグで、あの〝バカボン〟を笑い死にさせる! ピエロのコスプレで、歌って踊って暴れまくる!」
貴族たちの噂話では、ルートヴィヒが一方的に勝利するという前評判だ。
実際、ヨハンに勝ち目はない。
少なくとも、この時点では。
エフライム邸の裏庭には〝遊び場〟が設えてある。
そこは、この〝城〟で育ったヨハンが――幼少期を過ごした射撃場である。
標的の距離は、1フィートから300ヤードまで――あらゆる銃器の練習が可能な設備が備えてあった。
竜族は万事、往々にして誇大を好む。
まして〝竜王〟であれば、すべからくそれに倣う。
今から20年ほど前。
〝射撃を習いたい〟と言った、幼少のヨハンの我儘に――マイアが無限の愛で答えた結果がこれだ。
〝我が猶子――高貴なる者。ユージン〟
マイアはヨハンのミドルネームを、語源とともに敢えて呼んだ。
童女のような外見の彼女が並ぶと、傍目に2人は姉弟のような構図に錯覚する。
それから竜王は続ける。
〝そなたの願い、この妾が存分に叶えてしんぜよう――されど誓うがよい。銃は常に、この帝国と臣民の守護と鎮守がために撃つべし〟
当時、小学校に上がったばかりのヨハンは――怪訝な顔をした。
「銃は殺しの道具! 守れない! 誰も! アレックスも!」
つい先日、愛犬を銃で安楽死させたばかりの――彼は大声をあげた。
その〝月に向かって吠える〟ような反抗に、竜王は瞳孔を細めて微笑した。
〝万日を経たそなたは万里の彼方にて、大いなるものを背負う――さらば、今は存分に牙を研ぐがよい。愛する御子よ〟
「うっせーババア! あっちいけ!」
〝妾はピッチピチの乙女と申したじゃろうが!〟
このときは、まだマイアの方が少しだけ上背があった。
彼女は大人気なく、猶子の頬をつねった。
決闘の5日前。
「ここでまた〝プリンキング〟するとは、思わなかった」
ヨハンは決闘を間近に臨んでいるため、射撃訓練に時間を費やす。
彼が持ち込んだのは、ポンプ・アクション式の散弾銃だ。
世界大戦の初期に、塹壕で火炎放射器やスコップとともに――毒ガスの次に、猛威を振るった武器である。
自動小銃が全軍に普及した、昨今の軍隊では――有効射程の短い散弾銃は、敬遠された。
一方で、有効射程が短いからこそ――流れ弾などの2次被害の懸念が低下する。
このため、市街地で警察活動を行う――憲兵隊には多く支給された。
「チョークを絞っても、こんなもん? だめだこりゃ――戦時中に開き直って〝ダック・ビル〟つけて、バラ撒くわけだ」
ヨハンは先ほど撃った、標的の弾痕の孔の端から端までの距離を測った。
25ヤードの距離で撃った、弾痕は――握りこぶし4つ分にまとまっている。
「別の弾はどーかな?」
散弾銃は同じ口径であれば、様々な種類の弾を装填できる。
対人戦闘で使われるのは、直径が拳銃の弾丸と同じくらいの粒が9発詰まった――〝ダブルオーバック〟という種類だ。
さらに殺傷力の高めるため、粒の大きさをひと回り大きくし――6発の鉛玉を飛ばす〝トリプルオーバック〟という弾もある。
ただしこちらは、たたでさえ短い有効射程が――さらに短くなる。
バックとは文字通り鹿のことで、散弾銃は民間――とりわけ貴族の間で〝猟銃〟として親しまれる
その殺傷力や、1度に複数の銃弾を浴びせる面制圧力が――塹壕では対人戦闘に重宝されたらしい。
それら以外で、有名なのは1粒弾――〝スラッグ〟と呼ばれる種類の弾薬だ。
通常のライフルの銃弾は、弾道をジャイロ効果で安定させるため――銃身に旋条を刻んである。
しかし、散弾銃に旋条というものはなく――スラッグ弾は弾道を安定させるため、弾頭自体に旋条が刻んである。
ヨハンが散弾銃を決闘に持ち込む理由は、状況に応じて――複数の種類の弾薬を射手の任意で選べる点だ。
とはいえ、これでは完全防弾の強化外骨格鎧を着込んでくる――ルートヴィヒに対して力不足だろう。
普段のヨハンなら、装甲目標に対しては――無反動砲を持ち込んで、1撃で勝負を決める。
部下たちの命と、任務の達成を預かる指揮官としては――そうする義務がある。
しかし、今回は決闘の〝掟〟に従わねばならない。
普段どおり〝結果を出せばそれで良し〟とは違う。
互角の勝負を演じた上で、正々堂々と勝利しなければ――マイアの顔にも泥を塗ってしまう。
また、決着を見届けに来る――他の貴族たちも納得しない。
巷に流布する噂では、連射やライフル――対装甲兵器を封じられたヨハンの勝率は、
〝皆無〟と見積もられた。
「あの、大尉」
射撃場にミリアムが現れた。
「いったい、なにをお考えなのでしょうか?」
「どの弾を使うか悩んでる――見ればわかるだろ」
「そういうことを訊いたのではありません――なぜ、小官のために大尉はそこまでなさってくれるのかと、そう、お尋ねしたつもりです……」
「んーん?」
ヨハンは首を傾げた。
それから、散弾銃の銃把と一体化している遊底を引いて――薬室から赤いシェルを抜き取った。
遊底を戻して標的に向かって空撃ちし、撃針を戻してからミリアムに向き直る。




