↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハーレークインたちの外交儀礼――素行不良の大尉が、妖精と女騎士に挟まれ、兵隊を率いて「ヒャッハー」したら……なぜか魔界との戦争が遠のいた  作者: Fughse
第15章 婚約破棄の解決手段はショットガン

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
104/110

第15章 婚約破棄の解決手段はショットガン 01/10

挿絵(By みてみん)

 シメオン伯爵邸での晩餐会。

 そこで騒動が起きた。

 帝国最大の権門にして、門閥貴族の10氏族に連なる――フォン・ゼブルン侯爵家の跡取り、ルートヴィヒ公子が主役である。

 彼はミリアムの婚約者だ。

 望まぬ結婚を強いられたミリアムの〝婚約破棄〟を目論み、ヨハンはソフィアとサムエルと共謀して――晩餐会で公然と彼を侮辱した。

 その名誉挽回を大義名分とし、ルートヴィヒはヨハンに――決闘を申し込んだ。

 そこに〝間が悪く〟居合わせた、竜王マイアの調停で――決闘を公式に催すことを宣言された。



 決闘の当日。

 シメオン伯爵邸。

 庭園の温室に面した書斎に、当主のアーサー・フォン・シメオンがいた。

 ミリアムの父親は机に向かって、コーヒーが冷めるのをただ見つめる。

 その向かいには、家令を務めるシュワルツが立つ。

「旦那様――お取り替えいたしましょう」

 アッシュブロンドの髪を撫でつけた執事に訊かれ、ようやくシメオン氏は顔を上げた。

 目が合うと、家令は言う。

「旦那様、いいえ――アーサー様に申し上げたき儀がございます。わたくしは、アーサー様と乳兄弟同然に育ち、当家には1人前にしていただいた御恩があります。僭越ながら、ミリアムお嬢様のことも、我が子のように思っております」

「そう、いつも君とミセス・スタウトの世話になっていた――妻が亡く……テレジアがいなくなってからは」

「お家のことも大事ではございます――されど、お嬢様のお幸せこそを、今1度お考えになってはいかがかと。フォン・シメオン伯爵家当主ではなく、ミリアム様のお父君のアーサー様として」

 シュワルツは、あえて主君と息女の名を強調しながら言った。

〝公人〟の立場よりも個人の、人の親としての優先すべきことがあるのでは――という諫言だった。

 それから執事は恭しく、主人の机からコーヒーカップを片付けた。

 背後に控えていた侍女が、新しいものと交換する。

 書斎の扉が控えめに叩かれた。

 家令のシュワルツが大股で歩き、言伝に来た――若いフットマンと何事かやりとりをしている。

 要件を聞き、彼はすぐ主人に告げる。

「旦那様――ただいま、フォン・エフライム侯爵家より、ご使者がお見えとの由にございます」

 エフライム侯爵家といえば、今頃は例の〝決闘騒ぎ〟の渦中にあるはずだ。

 もう、決着がついたのだろうか。



 少し前。

 エフライム邸。

 竜王の邸宅は、屋敷というより〝城〟のような様相を呈している。

 サムエルは帰国の予定を延ばした。

 公式には、

〝大陸横断鉄道が爆破された真相を帝国政府から引き出すため〟と称し。

 それは半分、事実ではあった。

 なにしろ、講和調印式の当日に起きた――爆破テロの犯人はいまだに逮捕されず、野放しのままだ。

 しかし、真の理由は別にある。

 自分も関わった計略が元で始まった諍いの、

〝結末を見届けたい〟という。

 つまるところ、この熾天使の翼を宿した悪魔の貴公子は――ヨハンがどうやって、ミリアムの婚約者を殺害するか。

 それを楽しみにしているらしい。

「そんなに、俺があの〝バカボン〟を殺すところが見たいのか? ポップコーンと、コークの瓶を両手にして」

 ヨハンは呆れて訊いた。

 これにサムエルは破顔して頷く。

「もちろん――さあ、早くあの若者を殺してくれたまえ♪ 僕の目の前で!」

 魔界の貴公子は屈託のない笑顔で答えた。

「それに彼の魂は、大天使サリエルの裁きのもと――次のオークションのカタログに、もう載っているからね。最低落札価格を知りたいかい? 僕たちの〝取引〟の成果だよ」

 ヨハンは、先日の協力の対価として〝ルートヴィヒの殺害〟と〝彼の魂を売り渡す〟という――空手形を切っていた。

 2人は、マイアの屋敷――エフライム邸のサロンにいる。

 そこがヨハンに割り当てられた控室である。

「君のことだ――大口径の対戦車ライフルを使うと思っていたが〝箱〟が小さすぎるのでは?」

 ヨハンは樹脂製の銃のコンテナを開ける。

 その肩越しに、サムエルが覗き込んだ。

「殿下〝そこ〟は私の席――どいて」

 ソフィアの不躾な要求に、

「おっと失敬――ミス・エインセル」と彼は素直に下がった。

「ん」

 魔族の少年から、妖精の少女は場所を横取りして――ヨハンの肩に立った。

 コンテナの中身をヨハンが語る。

「ババアが決めた〝クソ縛りプレイ〟のせいでな――対戦車ライフルどころか、ライフル自体、つまり旋条のある銃器は禁止なんだ。オマケに単発銃しか持ち込めない、念の入りようだ。こいつらの〝マグ〟には、中に詰め物をしてある」

「ふむ」

「ふーん?」

 その説明に、魔族の王子と妖精の少女は――揃って同じ方向に首をかしげた。

 このたびの決闘において。

 マイアは日時と場所以外にも、いくつかの規則を〝掟〟として定めた。

〝観客の安全がため〟と称し、銃を得意とするヨハンに――明らかに不利となる、制限の数々を。


・進行と裁定は竜王が執り行う

・貴族の名誉を守ることを第一義とし、堂々たる正面決戦せよ

・決着は戦闘不能、降伏の申し出と相手がそれを受諾した場合――または相手の死

・決着の後、当事者ならびに第3者が――これに異議を申し立てること、まかりならぬ

・ライフルの使用は禁ずる(自動小銃、狙撃銃、軽機関銃など〝線条〟が施された銃)

・弾倉に頼る連発は戒める(散弾銃のチューブマガジン、リボルバーも弾倉とみなす)

・持ち込める銃器の数は2挺、個人が運用可能な大きさまで可なり

・爆発物の使用は、観客が安全を担保するため禁ずる

・拳銃の線条は例外的に許可するが、弾倉への装弾は同じく禁ずる

・防具、装具に関しては各々の自由裁量を認めるものとす

・掟を破った者は理由の如何を問わず、竜王が愛刀〝桜花〟にて処す

・異議を申し立てたくば、1匹のトカゲを武力で屈服させるがいい

 署名:帝国太傅 マイア・ウンドーミエル・ケレブリーアン・フォン・エフライム

 御名御璽:96代〝神姫〟  ヴィクトリア


 布告が〝正式な公文書〟であることの証拠が、いくつか散見される。

 第1は当然ながら、玉璽と〝神姫〟の署名があること。

 さらに、マイアの名の前に1字――ヴィクトリアの名の前に2字の〝闕字〟が挿入された点。

 律令制の初期に定められた、伝統ではある。

 しかし、それらの風習はもはや一般教養からは遠く――宮内省に務める者か、史学教授でもなければ修めていないものだろう。

 古式と定式に倣い、万事を仰々しく飾るのをよしとする――竜族の習性と、マイアの悪癖がいかんなく発揮された。

 それにしても、苛烈な規定だ。

 端的に言えば、あらゆる銃火器を得意とする――ヨハンには、単発の銃を使うことが強いられた。

 観客の安全を守るため、銃火器に対してある程度の制限を定めるのは――やむを得ない。

 問題は最後にある。

 防具の自由裁量の件だ。

 ヨハンと異なり、対戦相手のルートヴィヒは――完全防弾仕様の特注品のフルプレートメイルを愛用している。

 それもただの防弾鎧ではない。

 その実態は、空気圧を用いた人口筋肉と機械式の筋力増幅機構が備わり――動力源として、未知のアーティファクトを内蔵した〝強化外骨格〟なのだ。


「縛りプレイにも程があるぞババア!」

 決闘の〝掟〟を定められた場で、ヨハンは吠えた。

 無論、異議は通らずルールは覆らない。

 ルートヴィヒは、自らの勝利を確信にかえて言った。

「さすがはエフライム閣下――貴族の誇りに傷をつければ、お裁きにご容赦はないということですな!」


 このマイアが決めた〝試練〟には、裏の理由がある。

 発端はヨハンたちが共謀し、ルートヴィヒを嘲弄――貴族の名誉を汚したことだ。

 目的はミリアムの〝婚約破棄〟であり、彼女の自立と自由を守るためとはいえ。

 したがって、

〝意図的に貴族ルートヴィヒに有利な条件を整え、その上でヨハンが勝たねば――外部からの異論が噴出する〟という配慮だ。

 もう1つの、マイアからの言外のメッセージはこうだ。

「ミリアムを守りたくば、この〝掟〟の下で相手を殺せ――妾の愛しき御子よ」

 こうしてヨハンは、普段の彼が最も得意とする――卑怯、姑息、奇策、反則という最大の武器を封じられてしまった。

 はたして、彼に〝正々堂々たる決闘〟ができるのか。

「絶対無理」

 誰よりも彼を深く理解する、妖精の少女――ソフィアが断言した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。