#68 潜入
「オ……オ……オマエラハ!! ドウシテ……」
ケビンが立ち上がり、突如事務室に現れた白いトレンチコートを身に纏う二人の男に向けて、震える人差し指を向ける。
「ドウイウ事ダ、天池達海!! 瓜生累!!」
ケビンのうわずった叫び声が事務室に響き渡った。
「だから強力な助っ人だ」
動揺するケビンに麻里香は真面目な顔で言い放った。どうしてそんな顔ができるのかとでも言いたいようにケビンが顔を震わせる。
「ちょっと、俺もしっかり説明してもらわないと納得できませんね」
手のひらで机を叩く音、そして威圧感のあるその言葉が、発言の主である洋二へと皆の視線を集める。
「そこの根暗そうな青年……天池達海はすでに亡くなったと聞いています。あと、そっちのやけにキラキラとした男はGHに宣戦布告したテロリストなんでしょう? どうしてそんな奴らが助っ人としてここに居るんですか!」
「すまない。今、詳しいことを話すことはできない。ただ、今はこの人を頼るしかないんだ。この組織は、とてつもない危機に瀕している。どうか、君たちも協力してくれないだろか」
そう言って麻里香は深々と頭を下げた。
そんな彼女の姿を見て、ケビンは目を丸くさせながら洋二へと視線を移した。いつも威厳のある態度を振る舞っていた副局長が、自分たちに向かってこんなにも真剣に頭を下げたことなど、今までになかった。
これは余程の事態であると悟った洋二は、頭を掻きむしると椅子の背もたれにダレた。
「わかりましたよ、副局長」
「オイ、洋二!」
焦りの顔を向けるケビンに洋二は鋭い眼差しを送った。大人しく言うことを聞いておけと言うふうに。
ケビンはそんな視線を受けとって肩を跳ねさせると、すぐに大人しくなった。一方、その場にずっと居た花蓮は一連の出来事を気にも留めずに、パソコンに向かっている。
「天池達海、瓜生累。俺はこの組織が今どんな状態で、どこに向かっているのか、いまいち理解ができてねぇー。ただ、お前らがこの状況を打開してくれるってことでいいんだよな」
洋二が今度は、達海と累の事を睨みつけた。
「もちろんです。良い方向へと進めるよう善処します」
「私たちが来たからには大船に乗ったつもりでいてくれよ」
達海優しい言葉と累のどこか自信のあふれた返答。怪しい二人ではあるが、彼らの言葉に嘘はないと感じ取った洋二は「ああ、そうかい」と頷いた。
「明日香ハ……明日香ハ無事ナンダロウナ!!」
ケビンの鬼の形相に向かって、達海は何も言わずにゆっくりと頷いた。それでもケビンは達海のことを睨み続ける。
「それで、俺たちは何をすればいいんだ、副局長?」
「そうだな……まずは自己紹介でもし合いながら、この建物の案内をしてやってくれ」
「まずは、一階。まあ、ここは主にエントランスと小会議室のようなものがいくつかある。そこのエレベーターか脇の階段から、地下一階から三階まで移動できる。とりあえず地下を見てみるか」
洋二とケビンに案内に達海と累はついて行く。彼らはエレベーターに乗り込むと、ケビンが『B1』のボタンを押した。扉が閉まると、エレベーターが滑らかに降下を始め、若干の浮遊感が生じる。
エレベーターはすぐに地下一階へ到着し、扉が開かれた。彼らの目の前には何もないホールが広がっていた。上を見上げると三階部分まで吹き抜けになっているようだ。
「ほう……ここは?」
だだっ広い空間を目の前に、累が興味深そうに尋ねる。
「ご覧の通り、何もないホールだ。ここで俺たちは戦いの訓練をしたり、神器の試運転をする」
「ほほう」
「お前らも神器が支給されたら、とりあえずここで試してみるといい」
「そうだね! そうすることにするよ」
洋二に向かって、累が爽やかに返事をしている間、達海は「ここがいいか……それとも……」などと、ぶつぶつと呟いている。そんな彼にケビンは不審な目を向け続けた。
「まあ、ここはもういいだろう。次、二階に行くぞ」
二階へと移動した彼らは、大会議室、資料室、休憩室、食堂、お手洗いなどを案内される。二階の施設を一通り見た彼らは三階へと移動した。
「ココハ、オマエモ来タ事ガアルダロウ」
ケビンが達海にぶっきらぼうに話しかける。
「へえ、相棒はこんなところに来たことがあったのか」
「ええ、この先は小さな監獄があります。思い出すだけでも吐き気がしますよ」
茶化すように言った累に、達海は苦い顔をしながら答えた。
「相当ひどい仕打ちを受けていたみたいだからな。美波から聞いた」
「大輝殺シノ犯人ダト思ッテイタカラナ。アレハ本当ニ申シ訳ナイト思ッテイル」
洋二が達海に哀れみの目を向け、ケビンはバツが悪そうに頭を掻いた。
「美波さんは今どこに?」
「とりあえず扱いに困っていたから、花蓮に……あっ、事務室に居た赤縁メガネの女な。そいつに言われてそこの監獄に入れてる」
そう言って洋二は監獄の入り口に向け親指を指した。
どこの施設にもありそうな普通の扉。この扉を開き、突き当たりを右に曲がれば小さな監獄がある。達海は囚われていた当時のことを思い起こし深く息を吐いた。
「後で、彼女に会ってもいいですか? 話したいことがあるんです」
「ああ、後でな」
達海たちはさらに三階の廊下を進んだ。
「まあ、あとあるのはここの施設の監視カメラ映像を確認できるモニター室。他の部屋は会議に使ったり、一部局員が私物化してる小部屋だったりだ。だけど、この先には進むなと局長からきつく言われている」
洋二は廊下の奥に向けて指を差した。廊下の突き当たり、右側にさらに細い廊下が続いている。床には赤文字で『立ち入り禁止』と書かれた、黄色の小さな看板が置かれていた。
「この先には何があるんですか?」
「それは俺にもわからない」
洋二の言葉を聞いた達海は、少し考え込むと奥へと進んだ。累もニヤリと笑って彼に続く。
「おい! 聞こえてなかったのか? この先は進むなって!」
そう言ってから洋二はチラリとケビンの方を見た。その顔は自分も進んで見たいという好奇心のようなものが見え隠れしていた。
「……ドウナッテモ知ラナイカラナ」
そう言って達海と累のあとに続くケビンを見てから、洋二は呆れ顔で彼らの後を追った。




