#66 ガイラルディア
「えっと、それでは皆さん。集まっていただいてありがとうございます」
皆の前に達海が立って話す。
ダイニングテーブルがど真ん中に置かれた七畳ほどの部屋に、春明、マッチョ、アクタ、お嬢のカフェ陰陽のメンバー。そして、吉平、吉昌、保憲、忠司、光樹の陰陽寮のメンバー。さらに、道竹、麻里香、剛、明日香、美玲、裕樹、若菜、圭、御子柴率いるオクシラリーのGHのメンバー。最後に、累、大輝、星奈のAsterのメンバーが集結した。
「それではこれから俺たちの目的を……」
「ちょっと待て」
達海の話を遮るように、壁に寄りかかって立つ春明が発言する。
「なんですか春明さん」
「天池、あんたは何者なんだ? まずはそこをはっきりさせておきたい。あんた一年近く前に死んでいるはずだろ?」
春明は達海のことを睨みつけた。側にいるお嬢が「ちょっと! 春明さん!」と慌てた表情で彼の顔を見る。
「小生はしっかりと確認したぞ! 彼は間違いなく死んでいた!」
裕樹が春明に続いて声を上げ、美玲も彼の言葉を聞いて静かに頷いた。
「……では、まずは俺のことから話しましょうか」
達海はキッチンに歩いていくと、包丁を手に取って皆の前に戻ってきた。
「皆さんがもうわかっている通り、俺は幽霊ではありません。皆さんと同じように食事だってしますし、このように物体を掴むことだってできます。幽霊のように壁や地面をすり抜けたりはできません。ですが……」
そう言って、達海は徐に自らの腹に包丁を突き刺した。その光景を見て数名が悲鳴をあげる。春明は静かに目を伏せて、累は「おい、相棒!」と動揺の声を出した。
達海が腹から刃物を抜き取ると、患部からは白い煙のようなものが立ち昇り、そして傷口はあっという間に修復されていった。血液の類は一切流れていない。Asterのメンバー以外が、その光景を驚愕の顔で見つめた。
「ですが、このように俺の体はもう、人間の体ではありません。詳しいことは……すみません、話すことはできませんが、“死神のようなものになってしまった”と思ってもらえれば十分です」
達海はそう言って累のことを見た。テーブルの椅子に座る累は呆れたような顔をしてため息を吐くと、手を前に差し出して話を続けるように促した。
「とりあえず、俺のことはこれで納得してもらえるでしょうか?」
「納得できるわけがないだろ! ……と言いたいところだが、達海にも事情があるんだろう。とりあえず、そこは目を瞑っといてやる」
吉平が少し不満げに言い、それを聞いて皆は頷いた。
「ありがとうございます」
「……それで、貴様らは……Asterは何をしようとしている? なぜ私たちをここに集めた? 答えろ、天池達海」
麻里香がぶっきらぼうに問い詰めるように達海へと言葉を放った。
「それでは、まずは結論から言います。俺たちAsterは、GHのカモクとその裏で糸を引くピエロの悪霊を止めるために動いています」
「カモクちゃんを?」
「どういうことっすか」
GHのメンバーの間でざわめきが起こる。
「ピエロの悪霊? それなら私がとっくに倒しているわよ」
「それはきっと彼の分身体だよ。本体は別に居る。このことは俺たちがすでに確認済みだ。ピエロの本体はカフェ陰陽に居た幽霊『ショタ』で間違いない」
アクタの言葉にお嬢とマッチョは、うんうんと頷いた。アクタが達海の顔を確認すると、特に驚いている様子もなく、彼はショタが悪霊ピエロであることをわかっているようだった。
「……確かに、あの時、霊魂がなかった」
ピエロとカフェ陰陽の幽霊たちによる、達海奪還のためのGH襲撃。その時、確実にピエロの首を跳ね飛ばしたものの、その場に霊魂は落ちていなかったと、当時のことを思い起こした美玲は納得した。
「カモクちゃんとその……ピエロの悪霊は何をしようとしているんだ?」
剛が達海に問いかける。
「カモクちゃんは俺と同じ……人間ではない存在です。君たちGHが使っている武器も彼女が創り出したものです。……そんな彼女の力と集めた大量の霊魂を使って、ピエロは大規模な降霊術を行おうとしています」
「降霊術!? 一体、ショタさんは何のためにそんなことをしようとしているんですの!?」
お嬢が叫ぶように達海へと問いかけた。
「ごめん。そこまでは俺もはっきりとはわからないんだ。けれどピエロは……ショタは楽しむためだけにこんなことをしているわけじゃないと思う。明確に何かに対する恨みが、彼にはあるように思える」
「恨み……まさか、ワタクシたちに対しての恨みか!? 必要以上にワタクシたちに絡んで来ている気がするぞ! しかしそんな覚えは……」
マッチョが少し取り乱したように言う。
「俺たちに……というより俺には、彼は橘家と陰陽師に対して執着しているように感じました」
「確かに……陰陽寮への襲撃、賀茂雷明の復活、麻里香の家族がメチャクチャになったのも、GHの創設も……何かしらの形でピエロが関わっている」
春明が顎に手を添えて、考えるように言った。
「ちょっと待て! GHはこいつを除霊するために私が橘凛に掛け合って創設したものだ! ピエロなんて関わっていないぞ!」
道竹が累のことを指差しながら叫んだ。それを見て累はムッとした顔をする。
「いえ、GHは霊魂を集めるためにピエロが創設した……もっと言えば瀕死状態の橘凛を通してピエロが創設した機関です。白天狗を除霊するためという理由はただのカモフラージュですよ」
「は!?」
達海の言葉を聞いてGHのメンバーと陰陽師のメンバー、そして春明は、思わず声を出した。
「おい、瀕死状態の橘凛って言ったか?」
春明が達海に問いかける。
「はい。十四年前の橘家一家斬殺事件。あの時、橘凛は一命を取り留めてなんかいなかったんですよ。ピエロに、さも生きているように演出させられていただけだったんです。……麻里香さんは薄々気づいていたんですよね」
達海は麻里香に視線を送った。それに気がついた麻里香はサッと彼から視線を外すように目を逸らした。
「私は……この目でしっかりと確認するまでは信じない」
彼女は心のどこかではわかっているはずである。父親がこの世にとっくにいないってことを。それでも、罪悪感に押しつぶされないように、それを否定し続けるしかない。
達海はそのことを理解し、そっと口を開いた。
「そうですね……わかりました。……ところで皆さんはどのようにしてGHに入局しましたか?」
「私は局長からのスカウトだった」
「俺もっす」
GHの面々が次々の答えて道竹のことを見た。
「私は、警察庁長官である橘凛からの指示の元、皆をスカウトした」
道竹はそう澄まし顔で答える。
「でも、それじゃあ、どうやって俺たちが幽霊のことが見えるって、わかったんすかね」
「ピエロだろ」
圭の疑問に、大輝が口を開いた。
大輝には心当たりがあった。婚約者である桃子と遊園地に行ったあの日、遊園地のキャラクターとは思えぬほど異質なピエロがいたこと。警察庁からGHへの誘いがあったのはその直後のことであった。
「GHから入局の誘いが来る少し前、俺の前にピエロが姿を見せた。ピエロは自分自身を使って、幽霊が見える人かどうかの判断をしていたんだろ」
「……確かに、私もピエロを見た気がする」
「俺もだ……」
「小生も!」
GHたちは記憶を辿り、次々にそう口にした。
「おそらく、その通りです。ピエロはこの手口で、幽霊を視認できる人たちを探し出した。そして、GHに引き入れたんだと思います」
「彼が橘家、陰陽師に執着していることは、わかりましたわ。でもどうして……」
「ごめん、お嬢。話が少し逸れていたね。ピエロは……ショタは家族に対して強い恨みを持っていると以前話してくれた。……あれは嘘じゃなくて、彼の本心だと思うんだ」
「橘家と陰陽師に執着していて、そして家族に恨みを持ってる……まさか、いやでも!」
春明が何かに気がつき、動揺の顔を見せる。橘家と陰陽師と繋がりを持つもう一人の存在を。
「春明さんが思っていること、きっと俺の考えと同じだと思います。悪霊ピエロという子供の幽霊。橘家と陰陽師に恨みを持つ幽霊。おそらく彼の正体は、橘桔梗と賀茂雷明の間にできた子供だと思います」




