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#63 集結

「まあ、中に入ってよ」


 道竹を肩に抱える累を先頭に、ポルコをお姫様抱っこする達海、そして麻里香が後に続いて地下室へ続く階段を下る。階段を下り切った先には、窓のない七畳ほどの部屋があり、真ん中にはダイニングテーブル、角には簡易的なキッチンもある。部屋は打ちっぱなしのコンクリートの壁に囲まれていて、下ってきた階段の対角線上の壁には、何処かへと続いている細い廊下が見えた。


「僕はポルコちゃんを休ませてきます」


「わかったよ、相棒」


 達海は負傷したポルコを連れて、その廊下の奥へと消えていった。


「……麻里香ちゃんって呼んでいいのかな?」


「え……あ、ああ」


 累からの問いかけに、麻里香は動揺気味に返事をする。


「そんなにビクビクするなよ。別にとって食おうって訳じゃないんだ。私は君に協力してもらいたいんだよ。……ついて来て」


 麻里香についてくるよう促し、累も道竹を担いだまま廊下の方へと歩いていった。麻里香は緊張によって過剰に分泌された唾液をごくりと飲み込むと、ゆっくりと累の後を追った。

 廊下も先ほどの部屋と同様にコンクリートの壁で囲まれており、左右にはいくつかの無機質な扉があった。どうやら、この地下室は全体がコンクリートの壁で覆われているようだった。

 累は一つの扉の前で立ち止まった。


「ははーん、見える! 見えるぞ!」


 扉の向こうから、麻里香にとって聞き覚えのある、オタク気質の声が聞こえてくる。

 累はドアノブに手をかけると、扉を開いた。


「ははは! ジョーカーの位置はお見通し! 小生にとってこんなお遊戯、容易いわ!」


「ああーー! またビリだよぅ」


「若菜さんは顔に出ちゃうからわかりやすいのよ」


 麻里香は部屋の中の様子を見て目を丸くさせた。

 彼女の目には、床に座り、楽しそうにババ抜きで遊ぶ加藤裕樹、姫川若菜、斉藤美玲、鏑木剛、そして部屋の隅で横たわっている渡辺明日香の姿が映った。


「はっ、副局長に……局長! 申し訳ございません! ……お二人も捕まってしまいましたか」


 麻里香に気がついた剛が、いち早く立ち上がると彼女に向かって深々と頭を下げた。

 部屋の中に広がる、ゆるゆるとした光景に、麻里香は眉を顰める。


「おい、これは一体、どういう状況だ?」


 麻里香の威圧的な言葉に、裕樹、若菜は肩を跳ねさせた。


「申し訳ありません副局長! 捕まってしまいどうすることもできず……小生、無害をアピールするために、この男から支給されたトランプで遊んでおりました!」


「私は悪くないよう。私は悪くないよう」


 言い訳をするように早口で言う二人の様子を、美玲は「あはは…」と苦笑いで見届ける。そして立ち上がり、麻里香に頭を下げた。


「申し訳ありません、麻里香副局長。ただ、この男は……この男が率いる組織は単純にGHを潰そうとしている訳ではようなんです」


 そう言って美玲は、明日香の隣に道竹を寝転がらす累のことをチラリと見る。麻里香もそれに合わせて視線を累へと移した。

 その視線に気がついた累は、麻里香の目を真っ直ぐに見て微笑んだ。


「ああ、私の目的は別にGHを潰すことではない。私の目的の過程でGHを無力化する必要があっただけだ。まあ、それも概ねやり遂げた」


「目的の過程だと……?」


「端的に言えば、君たちは……君たちの組織は利用されている。それもタチの悪い悪霊にな」


 累の言葉を聞いて、麻里香は「なっ!」と声を上げた。


「貴様の言うことなど信用できない! そんな根拠、何処にある!」


「根拠……ね。それを話すのは難しいな……」


 累が思いあぐねていると、再び部屋の扉が開かれた。


「ありゃ、ありゃ、皆さんお揃いで。あ、鏑木さん久しぶりっすー」


「圭! ……それに!!」


「お久しぶりです……麻里香副局長……」


 部屋に入って来たのは、ひらひらと陽気に手を振る浜辺圭と、バツの悪そうな顔をする如月大輝だった。


「大輝……その角……まさか、鬼の悪霊というのは」


「鬼の悪霊は俺のことですよ。副局長」


 そう言って大輝は麻里香に向かって頭を下げた。


「いやー、如月さんにコテンパンにやられちゃったっすー」


 ヘラヘラとしながら座りこむ圭に対して、剛は「はっ、そうかい」と鼻を鳴らしながら笑った。


「あんなに懸命に仕事をこなしていたお前がどうして……」


 目を大きく見開いた麻里香が動揺の声を漏らす。


「俺だって感情を持った人間なんです。この世に未練を残して、この世に恨みを持って、成仏することができなかった。ただ、それだけのことです」


 そう言って大輝が、ちらりと美玲に視線を移す。美玲はすぐに暗い顔で視線を落とした。


「まあ、婚約者のことについては……もう踏ん切りがつきましたよ。あとは……カモクと本仇を止めることができれば、俺はそれでいい」


「カモクを止める……それじゃあやはり、お前を殺したのは……」


「カモクですよ。俺はカモクに刀の神器で刺殺された」


 その言葉を聞いて、麻里香は目を伏せながら唇を噛んだ。天池達海は大輝を殺してなんかいなかった。彼の言い分は正しかった。それなのに彼をあんな目に合わせてしまった。麻里香はその事実に大きな罪悪感を感じた。


「ならば……カモクはどうして……どうしてそんなことを……!!」

「あの……そろそろ入ってもいいかな?」


 麻里香の言葉を遮るように、二人の男が壁をすり抜けて部屋に入ってきた。

 ネイビー色のスーツを着こなした幽霊と、ピチピチの白ティー、短パンの筋肉だるま幽霊が。


「イケメンの幽霊と……マッチョの幽霊……」


 突如部屋に現れた、除霊禁止令が敷かれていたカフェ陰陽の幽霊たちに、麻里香は驚きの声を漏らした。圭を除いた辺りのGH局員も驚いたような表情をしている。


「彼らは誰だい?」


「ゼロの知り合い……ってとこだ。GHの本部付近で会ったんだけど、連れてけってうるさかったからよ」


 累からの問いかけに、大輝は頭を掻きながら答える。


「君たちがやろうとしていること、俺たちも参加させてもらってもいいかな?」


「ワタクシたちなら、メチャクチャに役に立つぞ!! ハハハハハ!!」


「ちょっと、飛び入り参加は困るんだけど……」


 累が苦い顔をしていると、またも部屋の扉が開く。


「ただいまっー! おお! なんかいっぱい居る!」


 元気よく星奈が部屋に入ってくると、後に続くように、ぞろぞろとアサルトスーツ姿の男たちが入って来た。


「お、お、オクシラリー!」


 裕樹が声を裏返しながら驚きの声を上げる。


「いやー、なんか事情を話したら理解してくれてさ。私たちに協力してくれるらしいよ。ね、御子柴ちゃん!」


 星奈がオクシラリーの隊長、御子柴に向かってウインクをした。


「まあ、事態が事態みたいだからな。この世の平和を志す者として協力しない訳にはいかない」


 御子柴は少し照れたように頬を人差し指で掻く。その様子を見て、星奈は満面の笑みをみせた。


「ちょっと待て!! 私は色々と状況が飲み込めていないのだが!!」


 麻里香が困惑の声を上げる。すると、すぐに青年の声で返答があった。


「それは、これからしっかりと説明します。君にちゃんと納得してもらえるように」


 部屋の扉が開き、達海が入ってきた。そして彼の視界に、アクタとマッチョの姿が入る。達海は懐かしい顔ぶれに目を大きく見開いた。


「……アクタ、マッチョ! ……どうしてここに?」


「達海……! 本当に生きていたのかい!?」


「おおおおおおお!! 会いたかったぞ! 達海少年!」


 達海の姿を見て、アクタとマッチョは涙を浮かべた。達海も一瞬、目を潤ませたが、すぐに累の方へと振り向いた。累は「はあー」とため息を漏らす。


「相棒……君も薄々気づいていると思うけど、私もバカじゃない。君の人格が天池達海であるということはとっくにわかってる。記憶が戻っていることも……。理屈はよくわからないけど、君は『天池達海の体を乗っ取ったゼロ』って訳じゃなくて、『ゼロから力を受け継いだ』ってだけだったんだろう?」


「……やっぱり、バレてしまっていましたか」


「そりゃバレるわ! わかりやすすぎるんだよ、相棒は」


「それで……僕は上の存在とやらに報告されてしまうんでしょうか?」


「……報告しない! ここまで来たら、事が解決するまではな」


 累の言葉を聞いて、達海の顔にはわかりやすく安堵の笑みが溢れる。


「解決するまでだからな。全て終われば報告する。勘違いするなよ」


「それで十分です。ありがとうございます」


 達海は累に向かって頭を下げた。

 累は達海の様子を見て、今更バレたところで私なら全てが終わるまで報告しないとわかっていたな、と勘づき顔を顰めさせた。してやられた気分だったが、互いが互いを利用している立場なので強くは言えない。


「達海、大丈夫かい?」


「上の存在? ……報告というのはなんだ!?」


 アクタとマッチョが達海に心配の声をかける。


「大丈夫だよ。ちょっと厄介な人に目をつけられちゃってるだけだから」


 達海は誤魔化すように笑った。そして、咳払いをすると、部屋にいる皆のことを見渡し声を上げる。


「皆さん。どうも、天池達海です。皆さんはもうわかっているとは思いますが、俺は幽霊じゃありません。どうして死んだはずの人間がここにいるのか、驚いている人もいるでしょう。これから、話せる限りのことを話そうと思います。俺のこと。GHがやろうとしている恐ろしいこと。そして俺たちAsterという組織の目的を。……その前に」


 そう言って、達海は累のことを見た。


「ある人たちもここに呼びたい。彼らも喜んで僕たちに協力してくれるはずです」


 達海の力強い視線に、累は嫌な予感がした。

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